真崎のお話 拍手お礼 3
「……!」
びくりと、身体が震える。
いつから……
佐和の言葉に、向こう側に座っていた女性社員がこっちを見た。
「え? あの人が、上司?」
「そう。 真崎先輩、何かご用ですか?」
佐和は手にしていた弁当箱を傍らにおいて、立ち上がった。
振り返ったその顔は、いつもの表情。
ポーカーフェイス。
真崎も笑みを貼付けて、二人の方に歩いていく。
女性社員も慌てて立ち上がって、真崎に頭を下げた。
「初めまして、商品管理課の久我美咲です」
一気に言い放つと、頭をあげる。
「……」
思わず、見つめてしまう。
佐和の隣にいるには、とても普通の子。
普通が悪いんじゃない。
ただ、佐和が普通じゃないからそう思えるだけ。
その子は、まだ高校生でも通るんじゃないかと思うほど幼い見た目をしていた。
佐和のような色素の薄い髪ではなく、染めた事もないような真っ黒な髪。
化粧っけが少ないのは、OLとしてどうなのかとも思うけど。
似合うんだから、この子に関してはいいのかな。
おっきな目をくりくりさせながら、僕の返答を待っている。
……小動物……
昔飼っていたハムスターを思い出して、噴出しそうになるのを何とか堪える。
「僕は佐和の上についてる、真崎 昴。佐和と同期?」
「はい!」
元気、いいな。
個人的には、嫌いな感じじゃない。
「それで先輩。何かありましたか?」
わざわざここまで……と、暗に邪魔しに来てと言われている感じがして内心面白くない。
なんだよ、さっきは笑ってたくせに。
「企画課の間宮から伝言。集合が十分早まったってさ。社長が来るらしいよ、プレゼン」
合点がいったように小さく頷いた佐和は、次の瞬間には綺麗に口端を上げて僕を見上げた。
「そうですか、わざわざご足労をおかけして申し訳ございませんでした。では、そのようにいたします」
にっこり
そう即答して笑う佐和の顔に、がっつりと書いてある言葉。
――用がすんだら、帰れ
ほう、そんなに久我さんといるのが楽しいか。
なんとなく、意地悪心が頭をもたげる。
真崎はニコニコと笑いながら、自己紹介した女性社員の前に立った。
「久我さんは加山の下についてるの? あいつ、結構甘党だよね」
佐和じゃなく、初めて会う久我さんに声を掛ける。
どう思うだろう、少しぐらい久我さんに嫉妬するかな。
自分の上司が、自分を無視して他の知らない同期に話しかけたら、嫌な感じだよね?
僕、姑息~
久我さんは、口元に人差し指を当てて首を傾げる。
「そうなんですか? 知りませんでしたー。じゃあ今度から、差し入れは甘いものにしてみます」
そのままにこりと笑う彼女の幼い笑顔に、つい笑いを返す。
なんか、やっぱりいい子っぽいな。
頭を撫でたい衝動に駆られる。
利用してる気もするが、ごめんね。久我さん。
内心手を合わせながら、目を横に流して佐和を伺うと。
……変化なし
なんでもないように、僕達を貼り付けた笑みで見守ってる。
これも駄目か。
一体、佐和は何に反応するのかなぁ。
しかし……と、視線を久我さんに戻した。
少し首を傾げながら見上げている久我に、真崎はつい口元が緩む。
やばい、この子可愛いなぁ。
なんか、こう……かいぐりしたい……
猫とか犬に対して湧くような感情が、むくむくと首をもたげてくる。
が、さすがに初対面で撫で回したら、ただの変態だろう。




