真崎のお話 拍手お礼 2
ホントは知ってる。
佐和は屋上にいる。
階段を上りながら、後輩の姿を思い浮かべる。
ふわふわな髪をクリップできちりと留め、かっちりしたスーツに包む細身の身体。
色の白い肌、意思の強い目。
確かに綺麗だと思う。
道を歩けば、全員が振り向くくらい。
でも、いくら綺麗でも人形はいらない。
あの、誰も見ていない、笑んでいても少しも感情を映さない瞳。
きっと、その見てくれでいろいろ嫌なこともあったんだろう。
仕方ないとは思う。
屋上に続くドアを、片手で押し開ける。
佐和が昼を食べているのは、ほとんど人の来ない屋上。
ホントは知ってる。
偶然知った。
タバコを吸いたくて、たまには……と来た屋上。
その端の方に建つ、物置の階段。
そこでひっそりと飯を食っていた佐和にでくわした。
知ってたんだ、彼女は。
食堂に行けば、どれだけの社員が自分に寄って来るか。
広報部だけ考えても、凄い人数になりそうだ。
そして、その結果、自分の立場がどうなるか。
自惚れじゃない。
理解している。
客観的に、自分の存在を。
可哀相だと、思った。
でもそれ以上に、ホントの表情を見てみたいと思った。
上司として上についてから二人で過ごすことも多くなったが、笑むことはあっても笑顔は見せない。
楽しそうでもそこどまり。
楽しいのではなく、楽しそうなだけ。
「一応僕もモテる方なんだけどね」
思わずつぶやいて、苦笑する。
だから何だといわれると笑うしかないんだけど。
屋上を横切って、佐和のいる物置へと近づく。
よーするに、ポーカーフェイスを崩したいわけだ。
同じにおいがする、佐和の。
まったくもって、崩せてないんだけどね。
「やだなー、加奈子ってば。どーして、そーいうこと言うかな?」
「仕方ないわよ、言われても」
おもわず足が止まる。
話し声。
ここに。
佐和の傍に。
しかも、笑い声。
しかも、名前呼び。
僕の目に映る、佐和の笑顔。
見たことのない、綺麗な年相応の女性の表情。
身体の動きまで、止まってしまった。
「うちの直属上司の加山さんなんて、もー、凄い体育会系なんだもん。でも、いい人でさ、もー、先輩、ついて行きます! って感じ」
加山……、僕の同期のかな。確かあいつは、商品管理課だったような。
「加奈子の上司の人って、あの、誰だっけ。なんか人気あるんだってね? どんな人?」
あ、僕?
真崎は自分の事が話題に上ったことに驚いて、どうしても動けなかった。
まるで、盗み聞きのような状態のまま。
「あぁ、真崎先輩?」
佐和の口から、綺麗な声で自分の名前を呼ばれて不意に鼓動が早くなる。
やばい。
何を緊張してんだ。
「そうねぇ、とりあえず盗み聞きするような人だとは思わなかったわ」
拍手お礼で連載中です。




