真崎のお話 拍手お礼 1
真崎 昴(二十九歳)
神奈川支社 企画広報部課長
五年前、僕は久我 美咲が嫌いだった。
「真崎先輩、社内プレゼンの準備から戻りました」
報告書を書いていたペンの動きを止める。
顔を上げると、そこには後輩の姿。
「佐和、お疲れさん。じゃあ、午後の開始までに昼ご飯行ってきちゃって」
「はい」
あっさりと、真崎の前から身を翻した。
茶色味がかったふわふわな髪が、名残惜しそうないくつもの視線の前を横切っていく。
佐和はデスクの横にかけてあるサブバッグを手にとると、広報部をでていった。
ガラス扉がしまると同時に、周りから溜息がこぼれる。
「綺麗だよなぁ」
「いつもしゃんとしてて、姿勢までいいよな」
「今回の新人は、大当たりだったなー」
あちこちからあがる、感嘆の声。
その中の一人が、真崎に声をかけた。
「いいよな、真崎。佐和の直属上司にちゃっかり納まりやがって」
既に報告書に視線を落としていた真崎は、のほほんとした顔を向けた。
「お前達だと、仕事以外の事ばっか教えるからだよ。課長はちゃんとみてるぞー」
現に真崎が直属と決まるまで、いろいろな担当をまわされていた。
佐和を誰の下につけるかで、牽制しあっていたから。
真崎は面倒で、その争いに加わらなかった。
「だって、教えたくもなるだろー。あんなに綺麗な後輩が、はいはい言うこと聞いてくれるんだぜ?」
「そーいう発言するからダメなんだって。がつがつするなよ、いい大人が」
見ていて滑稽だ。
「真崎は女が寄って来る方だからいいけど、俺らはがつがつしないと彼女なんてできねーの!」
だから、その考えがだめなんだって。
もう、何をいっても仕方ない気がしてきて仕事に戻ろうとしたら、佐和のデスクに設置された電話がなりだした。
真崎は手を伸ばして、受話器を取り上げる。
「はい、第一広報部真崎です」
内線ランプを目の端に捕らえながら、それにでた。
{あ、真崎?}
それは、企画課の同期、間宮から。
「あれー、間宮。どうかした?」
あまり連絡をして来ない同期からの電話に、首を傾げる。
{あぁ、悪いんだけど佐和さんいるかな}
「佐和? 悪い休憩に行かせちゃったけど、どうかした?」
{社内プレゼンの手伝いをしてくれたでしょう?午後から社長が来るんだけど、プレゼン後に用事が入ったとかで、開始時間が早まってね。それを伝えたいんだけど}
あーなるほど。
あの柘植社長、ホント忙しいよなー。
「あぁ、じゃあ僕が伝えておくから」
{悪いな真崎}
受話器を戻して、席を立つ。
「真崎、佐和がどこで飯食ってるかしってんの?」
「テキトーに探す」
期待を込めたその視線を切り捨てて、広報部からでた。