表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

それは、デートですか? ・20

Side-美咲




――これは、一体どういうことだろう?



真後ろに、課長。

まん前に、真崎。

その腰にしがみ付いている、田口さんと加藤くん。


そして――


「……美咲さん」


その声に横を見れば、小太郎共々耳を垂らして尻尾を丸めているような亨くんとその後ろから歩いてくる哲の姿。



「なにごと……?」



なんで、皆してここにいるわけ?



後輩二人を腰に張り付かせたまま甘ったるい笑みを浮かべる真崎に、視線を戻す。

にこにこと笑う真崎は悪戯が成功して満足している子供のような表情で、美咲ではなくその後ろに視線を向けていた。

それを追う様に、美咲もその視線を辿った。



――う、わ……



その視線の先は、美咲の後ろに立つ宗吾で。

もう、誰が見ても分かるくらい機嫌が悪そうだった。


「……か、課長?」

「全員で、つけていたのか」

美咲が掛けた声には返答せず、真崎を見据えながらこれ以上ないほど低い声で呟く。

自分に向けられているわけでもないのに、美咲の体が震えた。


怖い、怖いんですけど課長っ!


課長を見上げていた視線を、後ろに控える面々に向けると。

田口と加藤は真崎の腰に張り付いたまま、顔面蒼白中。

亨は顔を強張らせていて。

瑞貴は不貞腐れたような表情で、こっちを見ている。


その中で、たった一人、この状況にそぐわない満面の笑みを浮かべている男がいた。

真崎 昴、その人だ。



「気付かなかったの? 加倉井課長ってば。つけられている気配さえ分からないなんて、ボクサー失格なんじゃない?」

「質問に質問で答えるな」

「えぇー、質問されたからって、答える筋合いないし? 僕と課長って役職も一緒だし、上司命令とか出来ないからね? 悪しからず」

「元々お前は俺の部下じゃない。お前みたいな奴を部下に持ちたくもない」

「僕もお断り~。あ、美咲ちゃんにならこき使われてもいいかも」


「美咲」


よく分からない状況、よく分からない会話の連続にパニックになっていた美咲は、名前を呼ばれて宗吾を見上げた。


その顔は、やっぱり怒ってます。



「なんですか?」


恐る恐る口を開くと、宗吾は少し上を向いて溜息をついた。

「お前も何か言え。俺だけか、邪魔されて怒っているのは」

「……いえ、状況把握がよく出来ていないもので。何事ですか、これ」

「……お前な」

宗吾は呆れたように、片手で額を押さえた。


「ね、美咲ちゃん?」

突然真後ろから声が聞こえて、振り向こうとした身体を抱きしめられる。

覚えのある子供抱きに、思わず舌打ちが出た。

「真崎さん、ややこしい事しないでくれませんか?」

「いやん、美咲ちゃんてば。恥ずかしがってくれないなんて、つまらない」

そういいながら腰に回された腕に力が入って、私の足が地面から離れる。

「ぐぇっ」

持ち上げられた腹部の圧迫感に、女らしからぬ声が出たのは仕方がないっ!

「真崎、離せ」



宗吾の地響きがしそうな声に、真崎は身を翻しながら逃げ始める。

「嫌。美咲ちゃんは、みんなの美咲ちゃんだもんね」

「ちょっ、真崎さんっ。真面目に離して、胃が圧迫されっ……」


状況より自分!

気持ち悪いっ


「ほら、瑞貴」

宗吾の手を逃れるように走り出した真崎は、瑞貴の横をすり抜ける瞬間、美咲の身体を押しつけた。

「は?」

意味も分からず勢いのままその身体を腕に抱きとめた瑞貴は、顔を上げた瞬間、迫ってくる宗吾に弾かれる様に走り出した。


「哲っ、離してぇぇぇ、気持ち悪いぃぃぃ」

美咲は気持ち悪さに周りの状況が、まったく見えていなかった。

「いや、降ろしたいんだけど、追ってくる課長が怖ぇぇっ」

今降ろしたら真崎じゃなくて俺が殺られる! と、叫ぶ瑞貴の声。



一ヶ月前、全てに決着がつく直前まで、美咲はまともに食事も取れない状況だった。

だから、確かに通常より軽いわけだけど。


気持ち悪さを我慢しながら、くらくらする思考で考える。



だからと言ってなんで抱えられたまま、走られなきゃいけないんだ。




そんなことをしている内に、宗吾に追いつかれそうになった瑞貴が近くにいた亨に美咲を渡した。

「ちょっ、哲弘!?」

宗吾を足止めするようにタックルをかましている瑞貴は、早く行けと焦った視線を向ける。


その時こっちを見上げた宗吾の恐ろしいほど据わった目とあって、亨はとっさに美咲の身体を横抱きにして走り始めた。



怖すぎる!



「美咲さん、すみません」

走りながら謝る亨に、美咲は疲れたような目を向けた。

「この体勢なだけ、まだあの二人よりまし。で、どー言う事?」


呆けたように座り込む後輩二名と、宗吾にタックルしている瑞貴。

それを面白そうに囃し立てている、真崎。


亨は、気まずそうに視線をさまよわせると、諦めたように溜息をついた。



「自己弁護になりそうなので、事実だけ、手短に」



そう言うと、美咲に会った後のことを掻い摘んで伝える。

怒られる事覚悟で。

美咲はその話を胃をさすりながら、大人しく聞いていた。


簡潔なその説明にやっと状況が飲み込めた美咲は、溜息をついて亨の上着を引っ張る。

「やっと理解できた。もう走らなくていいよ、降ろしてくれる?」

その言葉に少し寂しい気持ちになりながら、亨は足を止めた。

そして宗吾たちに近づきながら、美咲に頭を下げる。



「すみません、さっき知らない振りして話しかけて」

謝らなければと、亨は肩を竦めながら縮こまる。

美咲はじっとその顔を見上げていたけれど、垂れた耳が見えるようなその雰囲気に、つい噴出した。

「いいわよ、どうせ真崎さんが上手い事言ったんでしょ? 亨くんがそんな子だとは思ってないし」

「すみません」

それでも項垂れたような表情に、美咲はぽんぽんと頭を軽く撫でてその腕から地面に降りた。


「さてと」


美咲の視線の先には、真崎の姿。



目が合ってにこりと笑いかける。


そのままつかつかと真崎に近寄ると、満面の笑みを真崎に向けた。



そして――





「皆を巻き込むなぁぁっ」


久々のボディーブローが、真崎の腹にクリーンヒットした。





抱えられて走られる……

どんだけ痩せたんだ、美咲(笑


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ