それは、デートですか? ・19
Side-亨
隣で、瑞貴が溜息をついている。
それを感じながら、亨も同じく溜息をついていた。
あらかた聞いた内容は、男として、瑞貴の友達としてなら受け入れて納得できたと思う。
――が
少なからず消えない想いをまだ持っていた亨は、理解は出来ても納得が出来ないというそんな心情だった。
瑞貴と美咲の間には、他人には分からない“もの”があるのはわかっている。
だけど、やっぱり流す事のできない事実で。
もう一度溜息をついて顔を上げると、少し先のベンチに美咲と宗吾がいるのが見えた。
黙々と歩いていたら、思いのほか早足になっていたらしい。
「あ、美咲……」
隣を歩く瑞貴も気がついたのか、ぼそりと呟く。
その声音が、寂しそうな色を含んでいて、亨の感情を微かに溶かした。
美咲と宗吾は二人の世界に入りきっているのか、こちらには気付かない。
恋人同士だし、と多少苦い思いをかみ締めながら歩いていたら。
「……あれ?」
美咲と宗吾の後ろの茂みから、ゆっくりと近づいていく人影に思わず声が出る。
「真崎だ」
隣から、嬉しそうな声。
亨の脳裏に、田口が言っていた言葉が思い浮かぶ。
――真崎さんと瑞貴先輩が邪魔するから、それを阻止しに!
同時に浮かぶ、さっき真崎に言われた事。
――美咲を宥めて、課長の下に行かせること。
しかも、課長の機嫌が直るようなアドバイスも必須。
その上、課長が何を望んでいるのか、それとなく伝える――
何だかんだいって、やっぱり美咲の事を応援しているんだなと思って、協力を承諾したのに。
「そういう事……」
状況の見えない瑞貴を置いて、亨は真崎に向かって駆け出した。
「おい、亨!?」
驚いた瑞貴が後ろから追ってくるが、説明している暇はない。
真崎が美咲達に声を掛ける前に止めないと、真崎の悪巧みにのせられた事になってしまう。
それだけは、勘弁して欲しい!
美咲に嫌われる! その思いが、亨の足を急がせた。
田口たちも気付いたのか、少し遅れて真崎に向かって走り出しているのが見える。
美咲はそんな周りの事にも気づかず、宗吾の上着の裾をぎゅっと握り締めている。
「私、課長のアパートに行き……」
真崎がニヤリと笑うのが、亨の目に見えた。
「偶然だねぇ、美咲ちゃん」
間に合わない――!
真崎の声にびくりと肩を震わせて振り返る美咲と、真崎を睨みつける宗吾。
しかしまったく動揺しない真崎は、甘ったる笑顔全開で二人に笑いかけた。
「どこに行くの? 美咲ちゃんてば」
楽しそうなその表情に、亨の頭から血の気が引いた。
宗吾の期待を持ち上げるだけ持ち上げといて、真っ逆さまに落とすために亨に美咲を宥めるように頼んだのだ、真崎は。
まるで可愛い妹の為と言わんばかりの表情と言葉で。
一筋縄でいかない人間だと分かっていたのに、すっかり騙された。
「真崎さんの馬鹿ぁぁっ!!」
やっと真崎に追いついた田口と加藤が、後ろからタックルしてるけれどもう遅い。
思わず足を止めて、立ち尽くす。
このまま近づけば、美咲に嫌われてしまうかもしれない。
けれど。
亨は首を横に振ると、息を吐く。
隠す方が、美咲に対して失礼だ。
そう思いなおすと、ゆっくりと美咲たちに近づいた。