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それは、デートですか? ・17

side-真崎




「上手くやってくれたようだねぇ、水沢くんってば」



全力疾走で駆けていった美咲が、全力疾走で帰ってきたのはついさっきの事。

目を瞑ってベンチに座っていた宗吾が、いささか驚いたような表情を見せている。



それはそうだろう。



暗く沈んでいたはずなのに、今はいつもの美咲のように少し気の強そうな表情で宗吾を見下ろしているのだから。


会話を盗み聞くに、“なんで怒ってるのか教えてください!” みたいな感じ?

ていうか美咲ちゃんてば、水沢に何を言われたかわからないけど、本気で課長が不機嫌な理由が分からないんだなぁ。



真崎はほのぼのとした表情を浮かべながら、この先の展開を考える。

不機嫌そうだった宗吾は、呆気に取られたような表情で美咲を見上げたままで。

言葉じゃなく雰囲気で感じ取って欲しいような宗吾の視線に、真崎はおかしくて仕方ない。

美咲にそんな芸当は、絶対に無理。


「何、笑ってるんですか? 気持ち悪い」


口元に手を当ててくすくすと笑っていた真崎を、部下でもある田口が横目で睨みつけてくる。

一ヶ月前に部下になった田口は女性にしてはストレートな物言いで、

真崎は裏表のない素直なその性格を気に入っていた。

それは部下としても一人の人間としても。

けれど一度敵側にまわると、とても面倒だという事にさっき気付いた。


きゃんきゃんと吼えてくるのが可愛いと思えるのも、最初の数分。

真崎は始めこそ田口の言葉に答えていたが、途中からは適当に流していた。

それがまた田口の癇に障るようで、吼えるのではなく静かに睨みつけるような表情に変わる。



これなら、もう一人の部下の方が可愛いかもしれない。

田口を横目で見ながら、その斜め後ろでうんざりした顔を彼女に向けているもう一人の部下である加藤に真崎は視線を移した。

彼も、一ヶ月前に部下になったばかり。


田口と同じく素直でストレートな性格。

ただ確実に違うのは、田口より“大人しい”ことだと思う。

草食系といえば、聞こえがいいのかもしれないが。



「真崎さん?」


笑ったまま返答のない真崎に焦れたのか、田口が怒りを込めた視線を投げかけてくる。

真崎は笑うのを止めて、口元に当てていた手を下ろした。



「美咲ちゃんは、罪作りだよねぇ」

田口は、やっと納得したように頷いた。

「先輩素敵ですもん。加倉井課長も瑞貴先輩も、そんな先輩にメロメロ」

そう言ってくすくすと笑う田口に、真崎は名前を付け加える。

「水沢くんもね」

田口は真崎の言葉に、目を数回瞬かせた。



「やっぱり水沢先輩も久我先輩の事……?」

伺うような言葉だけれど、確信を持っているような表情にぽんぽんと手のひらを田口の頭にのせた。

「まぁ、美咲ちゃんにとっては恋愛対象外でしかないと思うけどね。瑞貴を見る目と同じ、弟だよ」

「――なんで私、慰められてます?」

そういいながらも嫌な気はしないのか、大人しく頭を撫でられている田口に真崎は笑いかける。

「会った途端に、失恋じゃねぇ?」

田口の眉が、ぴくりと動く。



嘘のつけない素直な部下。

嘘で塗り固めたような自分と比べて、可愛いったらありゃしない。

年の離れた妹を持った気分。

田口は真崎の指摘にうろたえるわけでもなく、諦めたように苦笑した。

「――なんで、ばれてます?」

「分かり易いって、田口」

真崎に向けた言葉だったが、後ろに座る加藤が答えた。

その態度に、真崎の口元がつい緩む。


加藤、お前も分かり易いと思うけどね。

けれど肝心の本人には伝わってないところが、君らしいよ。



肝心の本人である田口は、加藤を睨むと“つんっ”と擬態語を書きたくなるぐらいに顔を背けた。


「うるさいよ、絶賛ヘタレ中の加藤の癖に」



……面白すぎ



田口の一刀両断な言葉に何も言い返せないのか、加藤はぶつぶつ文句を言いながら視線を逸らす。



……だからヘタレって言われちゃうんだよ……



真崎は馬鹿な子ほど可愛い、そんな目で加藤を見る。

ふて腐れたような、その顔。

まぁ、田口もこの状況で気付かないわけだから、二人とも駆け引きには向いていないわけで。

絶対に、営業は無理だなと頭の中が仕事モードに切り替わる。


まぁ、自分の下から出すつもりはないけれど、営業じゃなくたってそれぞれに取引先はいる。

企画広報課という真崎が持つ課でも、マーケティングを頼んだりメディアへの対応だってある。

この二人は企画を任せているけれど、商品に使う素材やデザインを決めるためにデザイン会社と取引する事もあるわけで。

あー、少なくても一年以内にはまともになってもらわないとねぇ。



「あれ? なんかいい雰囲気」


脳内思考に沈んでいた真崎は、加藤のその言葉に現実に引き戻される。

すっかり頭が仕事モードに切り替わっていたようで、美咲達を見るのを忘れていた。

「え? どれどれ」

加藤の横からこっそりと覗くと、宗吾が美咲の頬を撫でているところだった。


「ていうか、課長にしたらすごい甘々な雰囲気。いつもの課長じゃないー」

田口がニヤニヤしながら、加藤の背中を叩いていて。

いいコンビだと思うけど、と真崎は思いながら少しずつ前進を始める。



美咲は、週末に宗吾のアパートに行かなかった言い訳をしているようだった。


そういえばそんな約束していたなぁと、真崎は思い出す。

それもあわさって、あの不機嫌オーラだったわけねぇ……と笑いが止まらない。

抑えているから、頬が痛い。



美咲たちのデートを守りに来た加藤と田口は、早くアパートに行っちゃえとか興奮して話してる。

邪魔をしに来た真崎は違う意味で、それを期待していた。



天然で、鈍感な美咲ちゃん。

彼女がそんなことを口にするのは、ある意味奇跡に近い。



宗吾もそれを分かっているのか、少し演じているかのようにいつもの表情じゃない。

今から、うちに来るか? とか言いながら寂しそうな雰囲気を作っているところが、嘘だらけの真崎にはバレバレで。



「駄目か?」


そう聞く宗吾の言葉に、美咲の顔が赤くなっていくのが見えた。



――そろそろ出番かなぁ?



落ちる寸前の美咲に気付いて、真崎はゆっくりと立ち上がった。

二人から見えないように、歩き出す。



「……真崎さん?」


前進していた分少し後ろから、不思議そうな田口の声が聞こえてくるけれど無視。



視線の先では美咲が意を決したように、宗吾の上着の裾を握り締めていて。

二人の世界に入っているのか、近づいていく真崎にはまったく気付かない。




「っ、加藤! 真崎さん確保っ!!」


慌てて立ち上がった加藤と田口が走ってくる音が聞こえるけれど、もう遅い。



「私、課長のアパートに行き……」



い~まだ♪



美咲と宗吾まであと数歩のところで、真崎は声を掛けた。





「偶然だねぇ、美咲ちゃん」





真崎の声にびくりと肩を震わせて振り返る美咲と、胡乱な視線を投げかけてくる宗吾。

その顔は、悔しさとイライラがこもっていて。



これを待ってたんだよね~





甘ったるい笑顔を、真っ赤になっている美咲に向けた。



「どこに行くの? 美咲ちゃんてば」





――真崎は自分の楽しみの為だけに、生きている






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