それは、デートですか? ・16
Side-美咲
「でも、その……忙しくて。なかなか行けなかったというか」
そう美咲は言い訳をしながら、内心どうしようと焦っていた。
確かに宗吾と一緒にはいたい。
そして、本気でその約束は忘れていた。
けれど瑞貴のところに居候を始めて最初の週末は、さすがに覚えていて。
というか、覚えていたけどあえて忘れた振りして話しに出さなかった。
だって。
美咲の頭の中が、沸騰しはじめる。
あんまりにも、あからさまじゃない!!
課長の部屋に、泊まりに行くんだよ?!
で、しかも翌日帰って来るんだよ?!
いかにもでしょ?!
あぁ、昨日は……みたいに思われるんだよ?!
――無理!!
という事で、最初の週末は思いっきり誤魔化したのだ。
で、そのまま翌週も誤魔化したら課長も何も言わないものだから、よかったーって言う具合にもう頭の片隅にもなかった。
美咲はどうにか誤魔化せないかと、企画課で鍛えた頭をフル回転させていた。
すると黙ったまま美咲を見ていた宗吾が、小さく溜息をついて独り言のように呟いた。
「二人になりたいと思うのは、俺だけか」
「……え?」
その言葉に、思わず顔を上げて宗吾を見上げる。
そこには少し寂しそうな雰囲気の、宗吾の顔。
「二人に……?」
つい鸚鵡返しのように繰り返すと、宗吾は少し決まり悪そうに上体を屈めて美咲の肩に額を近づける。
「……悪いか」
……課長が拗ねてる。
悪いと思いつつ、つい笑ってしまった。
「笑うなよ」
すぐに窘められるが、にやけてしまう顔は止められない。
「課長ってば、かわいい」
「お前な……」
面白くなさそうな声が返ってくるけれど、それでも美咲の笑いはとまらなかった。
閻魔様とまで揶揄される無表情課長が、私が来ないだけでこんなに拗ねるなんて。
可愛すぎて、頭撫でたい!
「……お前、本当にうちに来たくなかったのか?」
おずおずと聞いてくる宗吾に、ますます美咲の“可愛がりたい、この無表情!!”的感情が昂ぶるけれど、さすがに怒られそうなのでむずむずとした手のひらをぎゅっと握り締めて耐えた。
美咲は、すっ……と息を吸うと、口を開く。
「楽しみに、してましたよ。私も。でも……その、恥ずかしかったんです、課長のアパートに行くのって」
「恥ずかしい?」
怪訝そうに聞き返されて、美咲は苦笑する。
「だって、外泊して帰ってきたら皆にからかわれそうじゃないですか。って、まぁその、自意識過剰かもですけど。課長が……ほら、課長から見たら私なんて。はははっ」
言い訳しているうちに“何考えてんのー、別に泊まるだけかもじゃん!”と、自分突込みが発生。
笑って誤魔化そうとしたら、美咲の肩を掴む宗吾の手に力が入った。
「……課長?」
“何言ってんだ”と宗吾からも突っ込まれるかもと思っていた美咲は、そんな雰囲気じゃない事に気付いた。
「――なら、今から、……来るか?」
「え?」
「泊まるのが嫌なら、その……今からでも……帰るか。うちに」
びくり、と美咲の体が震える。
「い……いやいや、その、今のは私の自意識過剰な考え……」
「……俺は、そのつもりだが。初めから」
「――!」
ますます硬直する美咲に、宗吾は黙ったまま返答を待つ。
宗吾は、助け舟を出すつもりはなかった。
昼間っからどんな話をしてるんだと、自分でも思うが仕方ない。
こういう雰囲気に持っていけたこと自体、美咲相手だと奇跡に近いかもしれないのだから。
「……美咲?」
傾けていた上体を戻して、美咲を見下ろす。
さっきとうって変わって、顔が真っ赤になっている美咲が凄く可愛い。
早く、家に。
その為には――
「駄目か?」
少し寂しそうな表情を、宗吾は浮かべた。
それは、意図的に。
とにかく二人きりになりたいと逸る宗吾は、昔取った杵柄、営業時代の自分を引っ張り出す。
無表情とはいえ、ある意味役者のように自分を作り上げて営業をしたことだってある。
といっても、無表情が少し改善するくらいだけれど。
宗吾は寂しそうに溜息をつくと、もう一度重ねて言った。
「駄目なのか?」
美咲はそんな宗吾に、追い詰められたような感じを受けていた。
けれど、そこまで自分を求められているのは純粋に嬉しいのも本当で。
恥ずかしいけれど。
不安もあるけれど。
大好きな、課長だから。
これからずっと、傍にいたいと願うから。
決意をして、宗吾の上着の裾を掴んだ。
「あの、課長。その、……行きます」
ぴくり、と、宗吾の眉が動く。
「美咲?」
確認するように名前を呟かれて、美咲は裾を掴む指先に力を込める。
「私、課長のアパートに行き……」
「偶然だねぇ、美咲ちゃん」
美咲の言葉は、後ろから掛けられた声に遮られた。