それは、デートですか? ・11
Side-加倉井
なんでこいつは、こんなに鈍いんだ。
無表情なりに面白くない顔をした宗吾は、美咲の手を引きながら思考の波に浸かっていた。
あれだけ盛大に照れているのに、風邪だと? ←自分の無表情は棚に上げ
俺がいるのに、なんで水沢と嬉しそうに話す?
俺といるのに、なんで水沢と離れるのを名残惜しそうにするんだ?
宗吾の口から、思わず溜息が出る。
美咲の周りには、男の影が多い。
まだ諦めていないだろう、瑞貴。
本心は分からないけれど、美咲を猫かわいがりする真崎。
姉のように慕っているのか恋愛感情があるのかよく分からない、水沢。
どれだけ、俺の嫉妬心を煽れば気が済む。
視線だけ美咲に向けて、もう一度溜息をついた。
宗吾の隣、少し後ろを歩く美咲は、暗く沈んだ表情で。
それを認めると、宗吾はすぐに視線をそらした。
さっきみたいに、笑ってくれないだろうか。
久しぶりなんだ、こいつとゆっくりいられるのは。
確かに仕事上、一緒に動く事が多いけれど、でもそれはプライベートじゃない。
手を繋ぐ事も、触れることもできない。
本当はこんな公園なんて来なくてもよかった。
どこにも出かけなくていいから、ただ傍にいたかった。
美咲が公園に行こうって言ったから、来ただけ。
それもいいかと思ったけれど、こんなに人のいる中では、思うように美咲に触れられない。
俺の為に着てくれたはずの服装は、とても嬉しいけれど。
一緒に外を歩くのもいいけれど。
だが――
なんと言われてもいい。
触れたい。
この数ヶ月間、ずっと我慢してきた。
もうそろそろ――
限界、だ。
宗吾は繋いでいる手に少し力をこめて、立ち止まった。
「課長?」
美咲は宗吾の体にぶつかりそうになりながら寸前で立ち止まると、
怪訝そうな表情を浮かべてこちらを見上げた。
宗吾は体ごと美咲に向きなおすと、ゆっくりと口を開く。
「帰るか」
Side-美咲
「帰るか」
亨と別れたあと、何も話さない宗吾とただ歩いていた美咲にいきなり言われた言葉。
意味が一瞬掴めず、見上げた首を少し傾げた。
「え?」
思わず聞き返すと、宗吾は小さく息を吐いた後口を開いた。
「もう、帰るか」
帰る……?
「え、帰るって……」
今さっき来たばかりで、ただ歩いただけ。
会ってから、一時間もたってない。
「歩くだけなら、もういいだろう」
呟いた声に返ってきたのは、無常な言葉。
――やっぱり、今日誘ったのは迷惑だったんだ
頭から血が引いていく。
課長の為と思ったのに、実はそれが迷惑だった。
自分の独りよがりだった事に、美咲は愕然とした。
熱くなっていく目頭に、思わず顔を逸らす。
泣くなんて、ダメだ。
疲れてたのに、ここまで付き合ってくれた課長にそんな顔は見せられない。
「あの、少し待っててもらえますか? ちょっと、落し物、しちゃったみたいで」
課長の手から、自分のそれを引き抜く。
「あ、おい。俺も――」
「いいです、すぐ見つかりますから!」
美咲は後ろを振り向かずに、そのまま走り出した。