それは、デートですか? ・9
side-哲
「あの、お弁当持ってきてるんですけど、ご一緒にいかがですか?」
「私も! 私なんて重箱で……」
「なんで公園に重箱なんて持ってきてるのよ」
「私サンドウィッチなんですけど」
自分を取り囲む群れからの声をシャットアウトしたくても、あまりにも騒がしくてまったく出来ない。
瑞貴は自分の身長が平均よりも高い事に感謝した。
きゃんきゃんと話すその口は自分の耳より下のほうにあるおかげで、まだましかもしれない。
あー、誰かどうにかしてくれ。
真崎が裏切ってくれた所為でこの人数の中取り残された瑞貴は、これ以上無いほどイライラとムカムカがたまりまくっていた。
あー、こいつらに怒鳴ってもいいかな。
許される?
なんとか感情を鎮めながら、すぅっ……と息を吸い込んだ。
そして口を開いた途端……
「先輩、こんなところにいらっしゃったんですね。探したんですよ」
艶を含んだ、既に懐かしささえ感じる声。
聞きたいと、思う声ではない……けれど。
ゆっくりと、聞こえた方に顔を向けると。
「哲弘先輩、かなり待たされましたよ」
茶色の巻き髪。
会社では見たことのない、カジュアルな服装のその女は。
「あら……、こちらの皆さまは?」
目を細めて嫣然と微笑むその女は。
「……柿沼」
久しぶりに見る、元後輩の姿だった。
驚いて思わず目を見張る俺に少し寂しそうな色を浮かべると、すぃっとその目を逸らす。
そのままゆっくりと俺に近づくと、柿沼のその態度に気おされたように集団が二手に分かれた。
――十戒
そんなことを思い浮かべるのは、歴史好きの美咲に感化されてるからだな。
変な事に苦笑しつつ、近づいてくる柿沼に視線を向ける。
柿沼は微笑んだままの表情で、周りの集団を一瞥した。
「――私に、何か?」
そのままゆっくりと指先で瑞貴の腕に触れる。
「先輩、早く行きましょう?」
その指を滑らせて腕に巻きつく両腕の感触に、思い出したくない記憶が甦って一瞬引き抜きたい衝動に駆られた。
瑞貴のその感情は柿沼に伝わっているのか、少し力を込められて我に返る。
「あぁ」
そう柿沼に伝えると、その言葉を聞いた周りの集団が溜息を零す。
フリーじゃないんじゃん……、という恨みがましい呟きが上がっているがそれは無視。
だって俺はそんな事、一言も言ってない。
真崎が言っただけで。