それは、デートですか? ・7
-side 真崎
そろそろ、僕は消えてもいいかな。
甘い笑みだけを貼り付けた顔の下で、真崎は煮えくり返るほど不機嫌な感情を滾らせていた。
美咲ちゃんと課長をからかいたいのに、この駅に着いてからまったくもって身動きが取れない。
それというのも――
真崎は視線だけ、斜め後ろを歩く瑞貴に向ける。
この男がいるからだ。
真崎の視線に気付いたのか、瑞貴と目が合う。
この、女ホイホイみたいな男がいるから……
真崎は口端を上げて、にやりと笑う。
僕一人なら、絶対にこんなことにならない。
妬みとか羨ましいとか、そんな感情一つもなく。
ていうか、あえて言うならこいつにはなりたくないと心底思う。
瑞貴は何か感じ取ったのか、少し焦ったような色をその目に浮かべた。
それを無視して、真崎は周りにいる女性に聞こえるように、少し大きめの声を出した。
「じゃ、僕は彼女が待ってるから。そっちはフリーだから、今のうちだよ。皆さん」
「……なっ!」
後ろで絶句する瑞貴の声が聞こえたけれど、無視!
一気に瑞貴へと群れが動き始めたのを感じると、真崎は一気にそこから抜け出した。
「おっ、お前! こら、真崎!!」
女性の勢いに押されながら、瑞貴が慌てて真崎を追おうとするけれど、そんなことじゃ彼女達は負けない。
今のうち、という真崎の言葉に一気にテンションが上がってしまった。
「じゃぁね~、ばいばい。瑞貴」
「卑怯だぞ、このやろうっ!」
集団から一歩離れたところでひらひらと瑞貴に向かって手を振ると、真崎は美咲たちを追うべく走り出した。
-side 田口
「ふうん、美咲さんの後輩なんだ」
「はい……」
田口は亨を目の前に、真っ赤になって俯いていた。
やばいよ、まずいよ、何この可愛い人!
ビンゴなんだけど、どんぴしゃなんだけど、ドストライクなんだけど!!
何、この理想が服着てる人!!!
「可愛いですね、小太郎」
隣では加藤が、無邪気に懐く小太郎をかいぐりしていて。
目の前の理想の人は、それを楽しそうに眺めながらにこりと笑う。
「俺は、水沢 亨。君たちは?」
ダメだー、顔から火が出そう!!
「加藤っていいます」
「……田口です」
加藤に続いて蚊の鳴くような細い声を上げると、隣で加藤が珍しそうな視線を投げかけた。
「何お前緊張してんの? 久我先輩にならパンツ見せても大丈夫! とか、前に叫んでたくせに」
――!!
「いてぇっ」
思いっきり加藤の頭を殴る。
ほぼ、反射。
加藤は頭を抱えて、後ろにしりもちをつき、小太郎が楽しそうにその周りを走り回っている。
田口は“しまった”と、恐る恐る亨に視線を移すと、彼の人はくすくすと笑っている。
あぁ、子供っぽく見えたかな。失敗した、と一気に落ち込む。
そんな田口の心情など知る由もない亨はしゃがんでいた身体を起こすと、茂みに隠れながら散策路を覗いた。
釣られるようにそちらを見ると、そこには加倉井課長に手を引かれる久我先輩の姿。
心なしか肩を落としたような久我先輩の姿に、田口は眉を顰めた。
――なんか、寂しそう
「美咲さん、寂しそうだね。何かあったのかな」
「……っ」
自分と同じことを考えていた事に内容はさておきちょっと嬉しくなって顔を上げると、そこには目を細めて美咲たちを見つめる亨の姿。
その目の色に、その表情に、田口は視線を俯けた。
――あぁ、この人の目には久我先輩が映ってるんだ
物理的だけじゃなく、精神的に。
恋愛感情じゃないかもしれないけれど、とても親しい人を見つめる目。
柔らかいその雰囲気に、田口の心に生まれそこなった感情が、一気にしぼんでいくのが自分で分かった。
でも。
「水沢先輩、企みに乗りません?」
「企み?」
にやりと口端をあげると、亨は幾度か瞬きをしてから小さく噴出す。
「その顔凄い。ていうか、さすが美咲さんの後輩」
面白そうだからその企み乗っかるよ、そう笑う亨の顔に田口は破顔した。




