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それは、デートですか? ・6

-side 美咲



青くて、少し霞がかった空。

微かに吹く風は、とても気持ちがいい。


美咲と宗吾は、のんびりと公園内の散策路を歩いていた。


ここのところ、こんなにのんびりな気持ちになる事はなかったように思える。

ここのところ……というか、あの、高校の卒業式以来かもしれない。

いろんなこと、あった。

けど、皆に助けてもらって、今のこの気持ちを手に入れられた。

感謝しても、したりない。

課長にも……


美咲は視線だけ上げて、横を歩く課長を見る。


「……」


そのまま、足元に視線を落とした。


なんなんだろう。今日、何かあったのかな。

待ち合わせ場所であった課長は、顔が赤くて。

何か我慢するように口元を手で押さえていたから、てっきり具合が悪いのかと思って。

熱を測ろうとしておでこに当てようとした手は、避けられちゃうし。

だから、課長のアパートに帰ろうって提案したのに、いきなり無表情に(いつもの事だけど)なって歩き出されてしまった。


それからは、ずっとこんな感じ。

ただ、黙って公園を歩いている。

話しかけても、相槌を返してくるだけ。

まぁ、いつもどおりっちゃぁその通りなんだけど。


小さく溜息をつく。


今日、本当はゆっくり休みたかったのかな。

疲れてるのに、こんなところに引っ張ってきたのがいけなかったのかも。

でも、さっきアパート帰ろうって言ったら、拒否するように歩き出されちゃったしな。


うー、課長の無口も無表情も、慣れてるけどなんか落ち着かない。

言いたいことがあるなら、言ってくれればいいのに。



そのまま、目を伏せる。



――こんなはずじゃ、なかったのに



ドキドキしていた気持ちが、どんどん萎んでいく。

課長を、ゆっくり休ませてあげたいってそう思ったけど……


……余計な、こと、だったのかもしれない――

















-side 亨



なんだか面白い光景が広がっているのは、何でだろう。



亨は散策路の脇にあるベンチに座りながら、その道を歩いてくる人影に数度瞬きをした。



今日の亨は、姉の使いっぱしり。

以前久しぶりに帰ってきた姉がペットショップで一目ぼれしたまめ柴を、外国に戻る際、亨に預けていったのだ。

と言っても、一人暮らしをしている亨が飼えるわけもなく。

実家で預かる事となり、たまの休みだけこうして亨が散歩に連れて歩くのだ。


今日ものんびりと公園内を散歩して、程よく疲れたところにあったベンチに腰を下ろしたわけなんだけど。



だんだん近づいてくるその人影は、取引先の担当さまでいらっしゃる「加倉井課長」と「久我美咲」さん。

この二人が付き合い始めたことと、何があったかということは、先月あらかた哲弘から聞いていた。

だから二人が一緒にいることについては、別におかしいと思うところはないんだけれど。



亨はそこまで考えてから、視線をその後ろへ移す。



そこには、いかにもおかしな行動をしている男女二人。

よく分からないけれど、どう考えても美咲たちを尾行しているようにしか見えない。



そして、その後ろに視線を移す。



そこには、結構な人数の女性に囲まれる、こちらも美咲たちと同じ会社に勤める、真崎課長と哲弘の姿。


この二人は、確実に美咲たちを尾行しているのだろう。


――さてさて、これはどーするべきなのかな?





既に傍まで来ている美咲を、亨は見上げる。


――あれ?


その顔は、何かとても沈んでいて。


隣の加倉井課長はいつもどおりの無表情なので、まぁ置いておいて。

デートだろうに何で寂しそうな顔をしているのか、亨には分かりかねた。


ので。


「美咲さん」


声を掛けてみた。


美咲は亨の声を聞くと、伏せていた顔を上げて口元を綻ばせる。

「亨くん! 偶然ね」

そのまま亨のほうに、駆け寄ってくる。

亨はその姿を見て、再び心の中で首をかしげた。


普段の美咲さんなら、デートしているところを見られて恥ずかしがりそうなのに。


その疑問を口には出さず、にこり、と笑みを浮かべて立ち上がる。

「おはようございます、美咲さん。加倉井課長」

美咲と、その後ろから歩いてきた課長に頭を下げると、課長は無表情のまま小さく頭を下げた。

「どうも」



……一言だよ。



顔には出さないように苦笑して、美咲に視線を移した。

うちの犬をかいぐりしながら、ニコニコ笑っている美咲に、ちょっと突っ込みを入れてみる。

「デートですか?」

途端、音がしそうなほど顔が真っ赤になっていく美咲の顔。

それを見て、あぁ美咲さんだとなんだか安心。


美咲は両手を前でぶんぶんと振りながら、なにやら照れ笑いをしているらしく。

可愛いなぁ年上なのに、と、つい目を細めたら。


「休み中に失礼した。美咲、行くぞ」



――ぶはっ



噴出しそうになって、慌てて顔を引き締める。


けっ、牽制してるし!

うわぁ、課長もこんなことするんだ。



珍しい状況に笑い出すわけにも行かず、少し申し訳なさそうな表情を顔に貼り付ける。


「あ、こちらこそお邪魔してしまって。ホラ、小太郎」

美咲の膝元に擦り寄っていた小太郎(うちのまめ柴・姉命名)のリードを、軽く引っ張った。

「小太郎くんっていうんだ、可愛いね」

美咲はやっと照れが引いてきたらしく、小太郎の頭に手を置いて笑う。

「姉の置き土産ですよ」

美咲のその言葉に答えながら、なんとなく周りの空気が冷たくなっていくように感じるのは、気のせいじゃないだろう。


笑いかけながらも、目線で美咲に状況を伝えようとするけれど、なぜか彼女は小太郎を構い続け。

あー、視線が……痛い……突き刺さる……と、内心焦ってきたところ、いきなり小太郎が美咲の方から顔を逸らした。


「ん?」


亨と美咲はその行動に首を傾げたが、当の小太郎は何かに反応したのかいきなり駆け出した。


「わわっ」


その勢いに引きずられるように、体が前に進んでいく。

仕方なく顔だけ二人の方に向けて、「すみません、それでは」と声を掛けた。



美咲は少し名残惜しそうに笑っていて、ちょっと嬉しかった。


――が


案の定、加倉井課長はむすっとした無表情で、美咲を見下ろしていた。




なんか、あの二人大丈夫なのかなぁと思いながら小太郎に引きずられていくと、奴が向かったのは近くの茂みの向こう。




そこまでくれば、亨にも小太郎の行動の理由に気付いた。



ぼすっと頭を茂みに突っ込んだ小太郎のしっぽは、嬉しそうに左右に揺れていて。

その上から、茂みの向こう側を覗き込む。



「……どうも、初めまして~」




そこには、懸命にドックフードの入った皿をうちわで扇ぐ男性と、俺に向かって気まずそうに頭を下げる女性。

多分そのドックフードを食べる予定だった犬と、その飼い主らしき人がその二人を面白そうに見ている光景だった。


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