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それは、デートですか? ・5

Side 加藤



「ねー、真崎先輩と瑞貴先輩ってさー。ホントもてるよね」

隣で田口が、呆れたような声を上げた。

「あー、そうだなー。俺的、同じ男としてすげ羨ましい」

「んー、羨ましがることさえ、おこがましい気がする」

田口の一言に、加藤はがっくりと肩を落とした。



美咲や瑞貴、真崎と同じ電車に滑り込めた加藤と田口は、ほんの少し間を空けてホームに降りた。

それは、ばれない為。

特に、課長に。


だって怖いよなー、課長に睨まれたら。


――可愛いのよ? 意外と、課長って


美咲がたまに言う、言葉。

いくら尊敬している久我先輩といえど、その言葉をすんなり受け入れる事は我々後輩には難しいであります。



改札を抜けて、少し前を行く瑞貴達の後姿を見失わないように歩いていたわけだけど。



「あのさー、瑞貴先輩、心底イラついてるよね」

隣で田口が、溜息混じりに呟く。

「真崎先輩も、だよな」

同じ様に溜息をついて、田口と目を合わせた。


加藤たちの視線の先、そこには瑞貴と真崎が美咲を目指して歩いているはずだった。


――が


なんだか女性の人垣が出来てる。

ホームを降りて公園に向かう途中、一人の女性が瑞貴に声を掛けた。


途端。


我慢していたのか様子を見ていたのか、一気に真崎と瑞貴に人が群がり始めたのだ。

それはもう、ワゴンセールの真っ只中のように。

我先にと話しかける人たちを、最初は呆気にとられたような表情で見下ろしていた二人だったけれど、持ち前の性格が物を言った。


瑞貴は嫌悪感込みの無口で、真崎は甘ったるい笑顔で毒舌で、それぞれ先に進もうと躍起になっていた。


が。


負けない、彼女達はへこたれない。

にこやかな笑みだけを貼り付けて、集団に埋まっている見えないところでは、何が起こっているのかなんとなく想像できて加藤と田口は苦笑する。


先ほどから一人、また一人と女性達の輪がから脱落していっているのがその証拠。

熾烈な場所争いが、繰り広げられているのだろう。


どんなにゆっくり歩いても無駄だと判断した加藤たちは、諦めて瑞貴たちを追い越していく。

すれ違いざま、悔しそうな視線を向けられたが、そこは華麗にスルーして。

この集団に巻き込まれたくないし。

他人です、確実に赤の他人です。と、掛けられた声にも知らん振りのまま、さっさと歩き去った。


「このままあの二人を引き止めてくれてれば、久我先輩たち、デート邪魔されなくて済むね」

にやにやと笑う田口に、加藤は深く頷いた。





-side 田口



女に囲まれているハーレム状態の先輩二人を尻目に、私の目は久我先輩を探す。

瑞貴先輩達についていけば分かると思っていたから、ちゃんと視認していなかったのだ。


久我先輩は、私と加藤が尊敬する先輩。

商品管理課時代、凄く面倒を見てもらった。

さばさばしてて、仕事が出来て、凛としてて、……凄く男前な先輩だった。

それは同期で一緒に久我先輩の下についていた加藤も同じだったようで、はっきり言ってそれで意気投合したようなもの。

だから久我先輩の仕事が認められて企画課に異動になったとはいえ、凄く寂しくて悲しかった。

でもそれ以上に、久我先輩に恥をかかせてしまうことだけは絶対にしたくない、とそう思った。


大好きな、大好きな久我先輩。


やっと美咲を見つけて、田口は口元を綻ばせた。

男前だった先輩が、女性らしい格好で少し前を歩いている。

初めて見る、フレアスカート姿。

スーツで見たことのある、タイトスカートじゃなくて。

大体、パンツスーツの方が多かったから、タイトでさえあまりみないのに。


「久我先輩、幸せそうだな」

隣で、加藤がぽつりと呟く。

「うん、そうだね」

それを見上げながら、田口は頷いた。


企画課に異動した美咲とは、加藤や田口は会う機会がほとんどなくなった。

ただ、耳に入ってくる噂は、あまりいいものはなくて。


仕事上の評価は、とても凄かった。

初めての企画課所属の女性社員。

女らしくないと褒めているのか貶しているのかよく分からない前置きの後に、久我先輩を企画課に入れてよかったとそう続く。

けれど、女性社員の中で上る噂は。


――なんで、あんな女が企画課に入れるわけ?


それは、課長や間宮さんがいたから言われた事。

一年後瑞貴先輩が企画課に入った後は、もっと酷くなった。


――幼馴染だからって、馴れ馴れしい。


これは管理課にいた頃から言われていたけど、余計輪を掛けて。


これ、反対だと思うのよね。

幼馴染だからって、瑞貴先輩が久我先輩にべったりしすぎだったんだと思う。

管理課時代、よく来てたもの。瑞貴先輩が、久我先輩のところに。

あれは絶対、周りに牽制しに来てたんだと思うのよ。

“俺のもんだ”って。

だから、久我先輩に纏わる嫌な噂は、瑞貴先輩に相手にして貰えなかった女たちの、ただの僻み。


なのに、あんなに言われて。

辛かったと思うのに、久我先輩は凛としてた。

責めるべき人間がいても、誰の所為にもせず自分の中だけでそれを昇華してしまう。



だから、大好き。

だから、幸せになって欲しい。


だから。


デートの邪魔なんて、させるか!



ちらっと後ろを振り返ると、まだある真崎と瑞貴を中心にした集団。

それを見てから、美咲に視線を戻す。


美咲はもう加倉井課長と向き合うように立っていて、小さく首をかしげているようだった。

それを怪訝に思いながら、加藤と顔を見合わせてこっそりと美咲達の声が聞こえそうな場所に移動する。

二人はバレないように、近くの看板の後ろに滑り込んだ。



耳を欹てる。


「課長、顔、赤いですよ?」


美咲の声。


赤い? 

こっそり看板の端から覗くと、加倉井課長の横顔が確かに赤くなっている。



しかもきっと額に伸ばそうとしたのだろう美咲の手を避けるように、後ろに飛びずさっていて。

口元を押さえてじっと美咲を凝視する加倉井課長のその姿は、思いっきり照れている状態。



思わず笑いそうになって、口元を引き締める。

加藤も同じ状態らしく、田口の耳元に口を寄せてきた。



「あれ、絶対課長見惚れて照れてるよな?」

「うん。課長も男だったんだねー」


いや、じゃあなんだといわれると答えにくいんだけど、なんか仕事の鬼というか、異性にはまったく興味ありませんって感じというか。



でも、瑞貴の家で課長に会った時、凄い事、久我先輩に言ってたしな~。



――悪いが嫉妬深いんだ、覚悟しておけ



思い出して、口元がにやける。

言われてみたいっ! 恥ずかしくて、溶けそう!




笑いを堪えながら、もう一度加倉井課長を見る。


怪訝そうな表情の、久我先輩。

多分、妄想発動中の加倉井課長。



分かって! 課長の気持ち、分かってやって久我先輩!!



思わず加藤のシャツの端を握り締めながら成り行きを見守っていたら、久我先輩が凄い事を口にした。



「あの、我慢しなくていいですよ? 今日は課長のアパートに行きましょうか」



へ? 久我先輩?!

あまりの驚きに、目を見開く。


びっくりな言葉に、当の課長も絶句中。


「……久我先輩、大胆」

加藤がぼそりと、呟く。



まぁ、課長も男だし。やっと付き合い始めたのに、久我先輩、夜は家に帰ってること多いし。

企画課、忙しいって言うし。

そーいう機会、なかっただろうし。

チャンスっちゃあ、そうだけど。



しかし、久我先輩の口からそんな言葉を聞く日が来るとは――



呆気に取られたまま、二人を見ていたら。




「だって、熱がありそうですよ? 風邪ひいてるの、我慢してるんでしょ?」




美咲のその言葉に、田口と加藤は声なき笑いのまま地面に撃沈した。


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