第十三話 「選択」
第十三話です。
今回は、
主人公が一つの選択をします。
それでは本編をどうぞ。
「お前はもう、一線を越えることになるぞ」
ゼノの言葉が重く響く。
路地裏が静まり返った。
若い騎士は苦しそうに息を吐いている。
このまま放っておけば死ぬ。
それは《寿命視》がはっきり告げていた。
【残寿命:34年】
だが問題は、
助け方だ。
「……普通には治せないのか」
俺が聞くと、
ゼノは首を振った。
「聖痕病は生命そのものへ刻まれる侵食じゃ」
「通常の治癒では意味がない」
エルフィナが静かに口を開く。
「つまり、命理魔法で侵食ごと削り取るしかないと」
「そういうことじゃ」
簡単に言うな。
それをやった結果、
俺は呪竜因子に侵食され始めてるんだぞ。
若い騎士が震える声を出す。
「……頼む」
全員の視線が集まった。
騎士は悔しそうに拳を握る。
「俺は、まだ死ねない」
「まだやることがあるんだ」
その目には、
確かな覚悟があった。
俺は黙る。
助ければ、
また侵食が進むかもしれない。
でも。
見捨てるのか?
「ルーク」
エルフィナがこちらを見る。
その瞳は、
止めたいようにも、
信じたいようにも見えた。
ゼノは何も言わない。
多分、
俺に選ばせるつもりなんだろう。
「……クソ」
俺は頭を掻いた。
「見捨て悪いんだよ、そういうの」
若い騎士が目を見開く。
俺はゆっくり近づいた。
教会騎士たちが緊張する。
「動けば斬る」
護衛エルフたちも武器へ手をかけた。
最悪の空気だった。
だが俺は若い騎士の前へ座り込む。
近くで見ると、
生命光の侵食は想像以上に酷い。
肺だけじゃない。
心臓まで黒が伸び始めている。
「……もう結構進んでるな」
騎士が苦笑する。
「最近は、祈るだけでも血を吐く」
《寿命視》が揺れる。
【生命侵食:進行】
【残寿命:30年】
また減った。
早すぎる。
「名前は」
「……アレス」
「そうか」
俺はアレスの胸へ手を当てた。
瞬間。
命の流れが視える。
熱い神聖力。
それに焼かれる生命。
普通の人間なら、
とっくに死んでる。
「ルーク!」
エルフィナの声。
だが俺は集中した。
侵食を取り除く。
それだけだ。
そう思った瞬間。
ドクン。
また“欲求”が溢れる。
アレスの寿命。
周囲の命。
全部が輝いて見える。
吸いたい。
取り込みたい。
「っ……!」
俺は歯を食いしばる。
ダメだ。
飲まれるな。
すると。
「なら、使え」
突然、
ゼノが言った。
「……は?」
「抑え込もうとするな」
ゼノの瞳が細くなる。
「命理魔法は欲求を否定するほど暴走する」
嫌な予感しかしない。
「じゃあどうしろってんだ」
「制御しろ」
ゼノは静かに告げる。
「奪う量を、お前自身で決めるんじゃ」
その瞬間。
俺は初めて、
自分の中の“感覚”を理解した。
どこから。
どれだけ。
奪えばいいのか。
それが本能みたいに分かる。
《寿命視》が、
周囲の生命を映し出す。
そして俺は、
無意識に選んでしまった。
——通りの奥にいた、
酔っ払いの男を。
【残寿命:52年】
ほんの少しだけ。
ほんの少しだけなら。
次の瞬間。
男の生命光が、
細い糸のように俺へ流れ込んだ。
【残寿命:52年 → 51年】
同時に。
アレスの生命光から、
黒い侵食が剥がれ落ちる。
「がっ……!?」
アレスが血を吐いた。
だが。
《寿命視》が変化する。
【生命侵食:軽減】
周囲が息を呑んだ。
そして俺自身は、
背筋が凍っていた。
今。
俺は自分の意思で、
他人の寿命を奪った。
第十三話でした。
少しずつ、
主人公も命理魔法の使い方を理解し始めています。
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では、次話で。




