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まいご  作者: 高橋花菜子
12/19

【第10章】ファッション

 何を着ていこう?


 彼に好意を持っていないと言いながら、約束の日の朝、私は着ていくものに悩んでいた。


 クローゼットやタンスの引き出しから、洋服を引っ張り出してきては姿見の前で体に合わせて、あれこれコーディネートを考える。

 部屋はみるみる洋服で散らかっていった。


 アイドルを卒業してから、可愛い服は一切着なくなった。

 私はもともとお洒落ではない。そんな自分を補うかのように、以前はファッション雑誌を毎月何冊も買って、日々研究していた。


 周りのメンバーはお洒落な子が多かったし、みんなファッションには気を遣っていた。

 だから、私も雑誌に載っている服が欲しいと思えば、急いで買いに行ったし、お金もかなり使った。


 当時の可愛い服を着て行こうかと思ったけれど、私は最近よく着ているシンプルなコーディネートで行くことにした。


 薄いベージュのワイドパンツに白の半袖シャツ。前のように暑さで熱中症にならないように、リネン素材のものにした。

 クーラーで寒くなるといけないので、ネイビー色のカーディガンを鞄の中に入れておく。


 髪はボブヘアーを耳にかけて、そこに長い飾りのついたイヤリングをつけた。


 外に出ると、そこはまだ夏だった。

 暑さのピークは過ぎたものの、空気は涼しくなる気配はない。


 私は駅まで歩き、電車に乗って、待ち合わせをしているカフェを目指した。


 そのカフェは、ビルの2階にあった。

 大きな窓ガラスが歩道に面しているので、外から少し中の様子が見える。

 明るい店内には観葉植物が置かれていて、前回の重厚なカフェとは雰囲気が違うことが分かった。


 約束の時間より、早く着いてしまった。

 私はビルの影に隠れ、直射日光が当たらないようにして、待つことにした。こうして日陰に入ると、多少涼しく感じる。季節は変わっていないように見えて、ちゃんと動いているのだ。


 彼とどんな話をしよう? 

 私は待っている間にいろいろ考えた。

 共通の話題はあるだろうか? 前回はそんな話ができなかった。何に興味があり、何が好きなのだろう? カフェ巡り以外の趣味はあるのだろうか?


 私は少し緊張し始めた。一番心配だったのは、私の方は何もないことだった。

 趣味もなければ、アイドル以外の経験も積んでこなかった。


 好きなことも今はない。以前は、歌うことが好きだった。

 アイドルの中では上手い方だったかもしれない。卒業ライブでは、マイクを持たせてもらったけれど、実際にアーティストの人たちと比べれば、足元にも及ばない。

 それでも、彼は「上手い」と言ってくれたっけ。

 

 そんなことに想いを巡らせていると、後ろから声がした。


「佐藤さん」


 彼だ。私はくるりと振り返る。

 その時、思わず「え?」と声が出てしまった。


 彼は、いつもの派手な格好ではなかった。

 長袖の白いシャツに、黒のパンツ、薄手のロングカーディガンを羽織っている。

 鞄は持っておらず、とても身軽だ。

 そして、金色だった髪は黒く染まっていた。


 最初は違う人に呼ばれたかと思った。

 表情は、あの日に別れたまま、笑っていない。しかし、どこか柔らかい雰囲気になっている。

 少し癖のあるふんわりとした黒髪が、風に揺れている。


「桐山……さん?」


 私は確認する。


 彼は、上のカフェを指差して「ここだよ」と言った。そして、カフェに続く階段の方へ、てくてくと歩いていく。


 彼で間違いはないみたいだ。

 私は驚きながらも、あとを追いかけた。

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