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まいご  作者: 高橋花菜子
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【第8章】卒業ライブ

 そのライブに行ったのは、学生時代の友人からの誘いだった。


『青春まるぐりっと』というアイドルの熱心なファンである、そいつは見た目は眼鏡をかけた文学系の青年にも見える。


「ずっとセンターだった、ゆかっちが卒業するんだ。これからって時に急すぎるよ」


 と涙しながら、悲しんでいた。


 少しずつ有名になってきたグループらしいが、アイドルに疎い僕はその存在を知らなかった。


「それでさ、少しでも卒業ライブを盛り上げて送ってあげたいから、人を呼びたいんだ。お前も来てくれない?」


 何で、僕?

 特にアイドルファンでもないのに?


 しかし、そこがどんな場所なのか、全く知らないから逆に興味を持った。


「いいよ!」


 僕は、行くことにした。



 その日は、梅雨の冷たい雨が降っていた。

 

 しかし、小さなライブ会場には大勢のファンが集まっていた。

 ほとんどが男性で頭にバンダナをして、首からタオルをかけている。両手にはペンライトを持ち、気合いに満ちている。


 友人は他にも二人に声をかけていて、僕らにタオルやペンライトを渡した。

 僕らは、他のファンと同じ格好をして、『青春まるぐりっと』のゴリゴリのファンであるかのようになった。


 客席はオールスタンディングで、真ん中の右端くらいに僕らは立った。

 ライブが始まる前から、メンバーの名前を呼ぶファン。中には既に泣いている人もいた。

 卒業ライブということもあってか、会場は異様な熱気に包まれていた。


 ライブが始まる。

 照明が落ちて会場は真っ暗になった。


 すると、ステージがパッと明るくなり、そこに20人くらいの女の子たちが、フリル全開のカラフルな衣装を着て登場した。

 曲のイントロが流れ出すと、会場は一気に盛り上がった。


 みんなからの声援を浴びていたのは、友人の推しでありセンターに立つ、ゆかっちと呼ばれる子だった。


 確かに可愛い。他の子よりもスタイルが良くて細い。

 小さい顔に、たっぷり盛ったまつ毛をパチパチとさせて、その大きな目には涙が滲んでいる。

 ダンスも上手くて、華がある。他の子たちとは何かが違う。


 この子がセンターであることは、何も知らない僕でも納得できた。


 だけど、歌は下手だった。


 それまで、音楽は友達とロックバンドをよく聴いていた。僕は歌の上手さを重視していたから、そこは正直残念に思えた。


 ステージに立つ全員がマイクを持っている訳ではなく、前列にいる5人くらいの子たちだけが持っていた。

 そんな中で、一人だけ後ろの端の方にいる子がマイクを持っている。


 会場は、一人ひとりが歌うソロパートの間に、合いの手を入れるように叫んでいる。

 何て言っているのかは聞き取れず、僕は言葉にならない声を「わー」と出した。


 その時、本当に短いパートをその後ろの端にいる子が歌った。


 上手い。


 一瞬だったが、そう思った。

 力強い歌声。アイドルにしては、しっかりしている声だった。


 しかし、すぐにその子のソロパートは終わり、全員が歌う声の中に埋もれていった。


 5曲ほとが終わり、MCに入る。


 卒業するメンバーが呼ばれ、3人が前に出てきて、横一列に並んだ。

 その右端に、さっきの歌の上手い子が立っていた。一人ひとりが独特の自己紹介をしていく。


「かわいい、かわいい、かほるんるんるん! 佐藤香穂子です」


 ツインテールに、ピンクの衣装をまとったその子がポーズをきめ、みんなが拍手を送る。


 それから卒業の挨拶をしていくのだが、みんな早くセンターの子の番になるのを待っているのは明らかだった。


 その子は手短に気持ちを述べ、「5年間、ありがとうございました」と頭を下げた。


 そして、センターの子の番になると、彼女の倍以上の長い挨拶が行われ、ファンもステージに立つメンバーの子たちも、一緒に涙を流して卒業を惜しんだ。

 隣にいる友人も大号泣している。


 僕は、歌の上手い子の方を見てみた。

 彼女だけは泣いていなかった。

 ただ、何かをこらえるような、そんな顔をしていた。

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