表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/17

5羽 「信じたいんだよ」②

 手ぶらでこのヴェルク=シーヴィっていう国に来てしまった僕は、ハッラさんの家から引き揚げるものと言えば、グラからの求愛の印である羽と、着てきた服くらい。着替えや下着までお世話になって、もちろん返さなくていいからって言われて、ちょっと豪華な夕飯でお別れ会みたいにしてくれた。


「ヨータ、どこいくの?」


 食事をしながらの朗らかな僕たちの会話をじっと聞いていて、ライラちゃんが声をあげた。


「ヨータはな、りっぱなお仕事をするために、タルクの家に行くんだ」

「なんで?」

「お仕事だよ。おまえも教わっただろう? 雛を分けるんだ。ヨータはりっぱだ」

「なんで?」


 その後もずっとなんでって聞いていた。かわいい。ハッラさんも奥さんも、途中で音をあげていた。そして、タルクさんが迎えに来てくれたときに、ライラちゃんはしくしく泣き始めた。


「……ライラ。ヨータは、タルクの家に行くだけだ」

「なんで?」

「お仕事だよ。鶏じゃなくて、ハルシーピを分けるんだ。とてもりっぱな仕事をするんだ」


 ハッラさんに抱っこされて、ライラちゃんはしくしくとハッラさんにしがみついた。引っ込み思案な子だから、あんまりいっしょに遊べなかったけれど、こんなに僕に懐いてくれてたんだ、とちょっと感動。僕はライラちゃんに「またね。また来るからね」って言った。ライラちゃんはしくしくしながらうなずいた。


「……おまえ、幼女に好かれやすいのか」


 馬車を走らせながら、御者席へいっしょに座っている僕へ、タルクさんが言った。


「なんだよ、その言い方。なんか誤解を招くよ」

「ライラは、俺にだって長いこと人見知りしていたんだ」


 その口調がちょっと悔しそうで、笑ってしまった。


 タルクさんの家は、灰翼判庁がある絶壁の下だった。ぶっちゃけ、上からなにか落ちて来ないのかな、と心配になる立地。でも石造りの似たような家が点在していて、まあ、こういうものなんだろう、と納得することにした。

 タルクさんみたいに、翼騎兵隊に所属している人たちの集まりらしい。けっこうな人数いるんだね。

 グラがそわそわと待ち構えていて、僕を見るなり、キュアーーーーー! とひと声鳴いて大きな翼をバタバタした。いやいやいや、夜だから。近所迷惑だから。あ、でもハルシーピに乗る人たちばっかりだから、べつに気にしないかな。


「最近、どうにもグラが元気なかったんだ。番のおまえが来てくれてよかった」

「いやいやいや、ちょっとそれどうすればいいんですか。これお返ししますって。僕人間ですし、そもそもオスですし」


 その言葉は黙殺された。え、待って。本気でどうすればいいの。

 普通の単身者用の平屋。トイレは外にある。ちなみに、ハッラさんのところもそうだったけれど、汲み取り式。ああ、日本の上下水道設備が恋しい。タルクさんは「さて、どうするかな」と、殺風景な部屋の中に僕を招き入れてランプに火を入れてから、腕を組んだ。


「ヨータ。我が家には、寝台がひとつしかない」

「ですね。見ればわかります」

「俺は、男と同衾したくない」

「それはもう、僕も全力大賛成です」

「ということで、おまえ、床に雑魚寝でいいか?」

「えーっ」


 いろいろ抗議したけど、タルクさんのお家だ。だから僕に決定権なんかあるわけがなかった。

 でも石造りの家で床寝なんて最悪に寒いし、体に悪いと決まっているから、ありったけの毛布とか布をせしめた。さすがにそれくらいは譲歩してくれた。

 僕の生活に必要なもろもろは、明日にでも揃えようって話し合った。さすがにずっと床で寝るわけにはいかないしさ。幸い、部屋自体は広いから、もう一台ベッドを入れても問題なさそう。問題は、プライバシーが保護されないってことかな! あと、寒い。


 なんだかいろんな要素が重なって、眠れないで寝返りしまくっていたら、真っ暗な中タルクさんが「ヨータ」と声をかけてきた。


「なんですか」

「おまえ、家族はいないのか」


 なんだいきなり。僕はタルクさんのベッドの方向に寝返りして、小声で「いますよ。母と妹」と言った。

 タルクさんはちょっと考え込んで、そして「仲はいいのか」って聞いてくる。


「ええ、まあ。たぶんそれなりに。今どうしてるのかなって、思うくらいには」

「おまえがここに居るから?」

「……はい。たぶん、めちゃくちゃ心配してる」


 親父が死んで、もう3年。まだ3年。母さんはまだ、夕食を4人分作ってしまう。魚の切り身は4枚セットで売ってるのよ、とか言って。

 妹は、髪の毛にハイライトを入れて、眉のメイクをキツめにした。そして、沈黙を嫌がるみたいに多弁になった。

 僕まで居なくなった今、あの地球防衛飯塚基地の702号室は、どうなっているんだろう。

 ふたりしかいないのに、食卓に4人分のおかずが並んでいるんだろうか。

 

 部屋の中に沈黙が充満して、でもタルクさんが起きている気配はあって、僕は眠れないから次の言葉を待った。

 タルクさんがもぞもぞ動いて、僕の方を向いたのがわかった。


「おまえの妹か……似てなきゃいいな」

「うん、すごくかわいいよ」

「即答かよ」


 タルクさんが喉の奥で笑った。本当のことだし。ちょっと今は雄鶏よりうるさいくらいで。昔はライラちゃんみたいだったのに。どうしてこうなった。でも、どっちもかわいいよ。

 僕は、なんとなく「タルクさんは?」って聞き返した。はっと息を呑む音が聞こえて、ちょっとしてから「――違う街に、父親がいる」って返答があった。

 なんか、それ以上は踏み込んではいけないと感じ取って、僕はただ「そうなんだー」と言うに留めた。


 なんだかんだうつらうつらしてきたときに、タルクさんがつけ足すみたいにつぶやいた。


「……俺に、さんづけとか、敬語とか、やめろよ」


 僕は寝入りばなで、ちょっともうろうとしながら「わかった。タルク」って答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
とばそら匿名感想
(『とばそら感想おきば』で返信します)
匿名感想書いて!!!!!(最初から書いてあるやつを消しても消さなくてもいいよ)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ