5羽 「信じたいんだよ」①
ハルシーピの卵は、鶏卵みたいに毎日産まれるものじゃないらしい。そりゃそうか。
そもそもオスはあまり生まれず、メスの気性は荒くて、番う(交尾の相手を一匹に決めて、夫婦になるらしい。やっぱり猛禽類っぽいね)のがとても難しいんだとか。で、僕が連れ込まれたのは、人工的にハルシーピのお見合いをさせて、産まれた卵を孵す施設とのことだった。
「……前世紀までは野生のハルシーピを捕まえて使役していた。けれど、危険過ぎるので近代ではこうして保育したものを用いている。それで空が拓けて、他国との交易も容易になった。ハルシーピの家畜化技術は各国で独自に開発され、秘匿されている。直接に国益を左右するものだからだ。より多く、ハルシーピを有した国が富む。幸運をもたらす鳥だから」
きゅるるー、きゅるるるーとかわいい声が響く中、タルクさんは低い声で言った。
てことは、もしかしなくてもここって国家機密の詰まった場所なんじゃ……そう思って部屋の中を見回そうとしたけど、あんまり見たらマズいと気づいてあわててやめた。
タルクさんは、僕がオスだと鑑別した雛の囲いへ手を伸ばしてしゃがみ、群がってきた雛たちをモフった。いいな。僕もやっていい? じっとその子たちを見てから、強い視線で僕を見上げた。
「今、おまえがオスだと述べたこの7匹は、俺から灰翼判庁へ進上する。これまで、呪い師にオスと判別された個体を進上していたんだ。確率は4割程度」
「呪いの類ではないですよ。ちゃんとした鑑別技術ですし、そんな低い正答率じゃありません」
「そう思いたい。でも、他でそのことを口にするな。誘拐されるぞ」
冗談ではなくて、大真面目にタルクさんが述べたのを理解して、僕は大きくうなずいた。ハルシーピに関することは、なんであれトップシークレットなんだろう。
灰翼判庁っていうのは、ハルシーピについて総合的に管理している場所みたいだ。僕が最初にタルクさんと遭遇したところ。
すんごい崖の上にあって、タルクさんが所属している『翼騎兵隊』っていう組織もそこにあるんだそうだ。タルクさんの愛鳥のグラがオスであるように、騎乗に適しているハルシーピは気性が穏やかなオスのみで。
「……入隊したばかりの、10代の隊員たちへ、オスだと見込まれた雛を渡す。そして、数年かけて育てるんだ。けれどその雛がメスだった場合……殺処分になる」
「え⁉ なんで⁉」
「メスは騎乗に適さないだけでなく、家畜化も難しい。生殖器官が整うにつれて、人の手で育てられた個体は、過剰に周囲の人間を攻撃するようになる。なので、メスと見込まれた雛はここで適当に手をかけずに育てられる」
たしかに、国家的に飼育しているっていう割には、飼育係みたいな人がいないよなー、と思う。
「けれど、そこにオスが混じっていることも往々にしてある。オスを手懐けるには雛からかわいがることが必須だから、見た目で雌雄がわかる段階まで育ってしまったら、もう繁殖に用いるしかなくなる」
「あー、だから、雌雄鑑別が……」
「そうだ。もしおまえのその技術が本物で、確実なものだとわかったら……どの国でもおまえを欲しがるだろう」
……なるほど? ちょっと自分の立ち位置がわかってきたぞ。
僕はハッラさんのお家から、タルクさんの家へ移動することになった。警備上、それが一番いいって。僕が最初に鑑別したひよこは、あと一カ月近くしないと見た目に雌雄を判別できるようにはならないし、だから僕の技術が本物だって証明できていないけれども。
そもそも、呪い師に頼るくらいだったんだ。なにかしらの法則性で鑑別するっていう考え方そのものが珍しくて、当たるも八卦の感覚で僕を用いたいんだろう。
僕は、ハッラさんにも尋ねたことを、タルクさんへ尋ねた。
「どうして僕のことを信じてくれるんですか?」
タルクさんは、じっと僕を見た。それから、ハルシーピの雛を見下ろした。
「……信じてるんじゃねえよ。……信じたいんだよ」
その薄い灰色の瞳は、感情がわかりづらいけれど。
でも、はっきりと僕は感じ取った。タルクさんは、僕と同じだ。
きっと、この人も、たくさんいる中の一羽が死んでしまったとき……胸が痛くなるんだ。




