30羽 「て、いうことはさ」①
「――えー、では。あとは若い人たちで」
予想していなかったのか、ブロムはちょっと固まった後に笑顔を作ってそう言った。なにそれ。そして身を翻してどこかへ行こうとしたので、ガシッと腕をつかんで引き留めた。そうは行くか。
なんだかよくわからない席になった。そもそも全員といっしょに座れる大きなテーブルはなかったものだから、三人とふたり。まあそれは最初からそう。ただ、なんでか僕といっしょに丸テーブルへ座っているのはクラヴェル王子とその従姉妹の女性だし、タルクはブロムとふたり。なにそれ、まじでなにこれ。
「以前、ルクヴォテル外務卿からこのお店の話を聞いたことがありまして。ラインフェリアが来たいと言ったものですから」
「へえーそうなんだー」
デートならなんで僕と同じテーブルに着くの。そう直接聞いてもよかったんだけど、さすがに僕にだってこれが計算された席なんだなーっていうのはなんとなくわかっていた。なにせ、女性は僕のお見合い相手のひとりで、その従兄弟で王子様っていう立場の人は、きっと仲人としてちょうどいい。国際的にとどろき最中らしい僕の立場と身分を考えたらね。
運ばれて来たお茶を口にして、スコーンみたいのを手で割って食べた。しっとり系でおいしい。意外にもタルクはなにも注文しなかったみたいで、手元にはなにもない。僕が半分にしたスコーンを差し出したら、無言で手を伸ばして受け取ったけど。
ファルガントの印象はどうだったかとか、ヴェルク=シーヴィはどんな国なのかとか、質問されたことには随時答えた。べつに僕から気を遣って話題を振る必要もないし。ブロムが帰りたそうにしていた。いや、僕たちを連れてきたのあなたでしょうが。
「どんな音楽がお好きなんですか?」
なんかの話の流れて、お嬢さんが聞いてきた。それを僕に聞いてもあなたにはわかんないでしょ、と思いながら「えー、バクナンとかヨネヅとか、ヒゲダンとかですかね」と答えた。無難に。お嬢さんはキョトンとしてから「まあ、存じ上げない曲です。ぜひ教えてくださいませ」と言う。あ、そうなるんだ。まずった。助けを求めてブロムを見たけどおいしそうにお茶を飲んでいた。クラヴェル王子は明るい声で「それはいいね。席を設けよう」とか言いやがられた。勘弁してくれ。
そこでガタッと音を立ててタルクが席を立った。そして僕の腕を取って歩き始める。僕は背中に置いていた本を持ってあわててそれに従った。
「ちょ、タルク。あいさつもなしに店を出るのは」
「あのままがよかったか?」
「いや。最高。あざっす」
待機してくれていた警護さんたちと合流して。馬車に乗り込んで宿へ向かった。ブロム置いてきちゃったけどいいよね。……あ、いくない。明日の話、なにもできなかった。
タルクはファルガントに来てから常に不機嫌って感じだ。特にクラヴェル王子関連。仲悪いのかな。とりあえず揺られながらストレートに「クラヴェル王子のこと、嫌いなの?」って聞いてみた。タルクはおもしろくなさそうな表情で「当然だろ」と言った。
「テルク=ファルは、本当に頭悪いな」
「タルクが言うとすごくそうなのかなって気がするね」
「なんか気になるな、その言い方。……あいつらは、俺にも来た」
ん? 来た? ……あー、そういうこと。
過去にタルクにもお見合いの席があって、あのお嬢さんが参加していたってことだろう。そして、仲人としての第三王子。なるほどねー。
僕が「気の毒だね、政争のコマにされちゃうなんてさ」というと、タルクはちょっとの間をおいて「……そういうもんだろ。王族っていうのは」て言った。そうなんだー。知らん、王政。
宿に着いてから、タルクがなにか言いたそうな空気を出していたから「お茶入れるか。なんか食べ物たのむ?」って聞いてみた。うなずいて僕の部屋へいっしょに入る。
ちょうどいいかなーって思ってさ。僕も、聞いておこうかな、という気になったし。
ルームサービスみたいので、軽い食事を頼んだ。天井からぶら下がっている紐を引いたら、店員さんが来るしかけなんだ。いつもだるーんとしているタルクが前傾姿勢でちゃんとソファに座っている。たぶん言いたいことをまとめているんだろうなって思う。
ノックがあって、お茶と小さくて丸いサンドイッチみたいのがたくさん乗ったお皿も来た。タルクはそれをひとつつまんで口に入れて、脳に糖分を与えるみたいにむしゃむしゃした。
まあ、言いづらいんだろうから、お兄さんの僕から聞いてあげるかー。やさしいなー、僕。
「あのさー。僕、なんかタルクより地位が上になっちゃったとか、キャラヤが言ってたんだけど」
「そうだな。今のおまえは、俺に命令できる立場だ」
「すげー。購買でメロンパン買って来い、とかやってみるかな」
僕がおどけてそう言ったら、タルクは「なんだ、それ? なんかうまそうな響きだな」と言った。
で、僕は言葉を続けた。
「……さっき、あの二人、タルクにも娶せる目的で近づいてきたって言ってたね」
「……ああ」
「て、いうことはさ」
僕は、ちょっとやさしい気持ちになった。ずっと、タルクが僕に対してある種の恐れを抱いていたことだとか、霜翼卿の言葉とか。クラヴェル王子へ右手を胸に当てなかったこととかも。そういうのをいろいろ考えて。
「タルクは、僕に準じる身分を持っているってことだよね? 公翼だって、いうだけじゃなくて。それってどこの? ヴェルク=シーヴィのではないよね?」






