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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第二章

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29羽 「どんな意味なの?」②

 その、ブロムが述べた「天からこの地にやって来た御使い」って。動悸が激しくなって行く。……霜翼卿が言っていた。太古の昔にハルシーピが人を乗せてやって来たことがあるのだと。

 そして、もしかしたら僕が――そうかもしれないってこと。


 なるべく自然に聞こえるよう声を作った。そして「そうなんだー。おもしろいねえ。読んでみたいな、その古典」とつぶやいた。ブロムは「用意しましょう。宿へお届けしますね」と言った。だいじょうぶ。怪しまれていない。

 そしたらなぜかタルクが、後ろから僕の服の裾を引っ張ってきた。いきなりだったからびびったし、こけそうになる。振り向いて「なんだよ」って言ったけど、知らんふりでそっぽを向いた。なんだよ。


 午後を少し回ってから、市場を見て回って、そこいらでお昼にしようかって話になった。ちなみに市場はトリって言うらしい。なにそれかわいい。食いしん坊タルクは、食事の話になったら大あくびをしなくなった。

 馬車停留場からちょっと歩いて。人混みだけど、僕の両脇に護衛の方が着く。前方にはブロムで、背後にはタルクだ。なんかこういう扱いを受けると、あらためてキャラヤからもらっちゃった称号や地位が、とんでもないものだったんだと理解が追いついてくる。

 トリは、大きな蚤の市みたいだった。グルメストリートみたいのを想像していたんだけど、ぜんぜん違った。広場を区画整理して、それぞれで店を出している感じ。古着や骨董品が並べられている間に、ぽつんと屋台がある、みたいな。かなり賑わっていて、僕みたいな観光客もいるんだろうけれど、地元の方っぽい人が日常の必要物を賄うために来ている様子が圧倒的に多い。あんまりひとつのお店へ長く滞在したら迷惑になりそうだから、ちょっと眺めたら次へ、次へ、みたいに進んでいく。取り扱い商品に統一性があったりなかったり、見ているだけでたのしいな。


「ああ、ヨータくん。きっとあの店にありますよ」

「なに?」

「たぶんハル古典も。買って来ましょう」

「えっ」


 ブロムが指差した斜め向こう側の店は、たしかに古書を扱っているみたいだった。ワゴンセールみたいな。スタスタとブロムが向かったので、僕もあわててそれに続く。

 スペースは小さかったけれど、たしかにこちらに来てから初めて見た量の本だった。そもそも、本屋さんがないんだよね。書籍は一般向けではないってことなんだろう。その割にはヴェルク=シーヴィでは識字率が高かったんだよな。基礎教育がしっかりしているんだろうな。


「ああ、これですね。店主さん、これの上巻は?」

「かなり前に売れてから、仕入れがないですねえ」

「まあしかたない。じゃあ下巻を」

「はい、ありがとう」


 そう言って店主さんが述べた数字に、僕はいっしゅん天を仰いだ。顔色ひとつ変えずに懐から財布を出して支払うブロムは、やっぱり偉いから稼いでいるんだと思う。返せるかな、僕。キャラヤが領地とそこの収益をくれたって話だったけど、あれどうやって受け取ればいいんですか……。

 ブロムから「はい、どうぞ」とむき身の分厚い本を手渡される。落としたり汚したり、盗まれたらたいへんだと、僕は「ありがとう」と両手で受け取って、胸にぎゅっと抱きしめた。


 人の流れに戻って、食べ物の屋台に行き合ったら、みんなで注文した。タルクが生き生きする。警護の人たちは順番に。なにも食べないで僕にくっついていると、かえっておかしいからね。

 若い男性がやっていた屋台では、平たくて薄いパン生地に、野菜と肉を乗っけて半分にして、葉っぱで包んだものをくれた。タコスっぽい感じかな。そもそも屋台のちょっと焦げた肉の匂いが最高だった。この区画のお店の人たち誘惑されるだろうな。何種類か味が選べて、タルクは甘いのと辛いの、僕は辛いのにした。ブロムは「妻が作ったものの方が美味しいので」とキリッとした顔で言って注文しなかった。お幸せに。辛いやつの味は、ちょっとチャンジャっぽい感じだった。美味しい。


 全部を見て回っても良かったんだけど、あんまり人が多いところにいると警護さんたちの気が休まらないかな、と思って、一時間くらいで切り上げる。タルクは行かなかった屋台の方向を見ていた。ブロムから「休憩がてら、私の行きつけの店へ行きませんか。明日のことも相談したいし」と言われたので、僕は「もちろん」と返す。

 明日。陸用ハルシーピの医療班の人が来る。気持ちをそちらへ切り替えなければ。


 歩いて行ける場所とのことだったので、馬車はそのまま停留場に置いて向かった。こじんまりとしているけれど、品のいいアトリエつきのカフェみたいな感じ。ブロムは「妻とよく来るんです」と言った。なるほどデートスポット。

 中二階の採光がキレイな部屋に通されて、席に着こうとしたときに「ヨータさん、こんにちは」と声がかかった。振り向いたら、金髪の若いイケメン。


「ああ、クラヴェル王子」

「こちらでお会いできるとは、うれしいです。ねえ、ラインフェリア?」


 王子の背後に、小さい女性がいた。

 あ、小弦楽器の。

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