27羽 「どうぞ、お好きに呼んでください」②
そのあと、なにか当たり障りのない言葉をいくつか交わして、部屋を変えてランチミーティングみたいのをしようってことになった。じゃあべつに最初からそこで会えばよかったじゃんと思ったけど、まあ、名前呼びを許してもらう流れが必要だったんだろう。初対面だし、お互いの立場的にも。
参加したのは僕とタルクの他に、ブロムとクラヴェル王子。それに趣味国防おじさん。他一人。さすがに全員が参加ってわけではなかった。よかった。それでなくとも名前覚えられないのにさ。先日のゲリラお見合いの場を彷彿とさせる長テーブルの場所。僕が勧められた短辺のひとつの椅子に座ると、隣にはタルクではなくてクラヴェル王子が座った。えー、なんか嫌だな……。そんなあからさまに距離詰められても。
食事マナーはきっとあると思うんだけど、そもそもタルクがそういうのを気にしない人間だから、僕も気楽に過ごしている。右側の僕の隣へ座って、みんなが席へ着く前にテーブルの上の梨みたいな果物を手にとってかぶりついた。さすがに真似しなかったけど。
タルクの隣にブロムが座って、二人の前におじさんたちが座って。そして、料理が運ばれて来た。ありがたいことにコースじゃなくてワンプレートランチ。まあ他にも皿は来たけど。いちおうクラヴェル王子が手をつけるのを待ってから僕も二股フォークを手に持った。
で、とりとめのないことを話して。それから本題。
「先日……私のいとこがヨータさんにお会いしたのです」
「いとこ? どなたでしょう?」
「ラインフェリア・スラグヴォルという、18の令嬢です。小弦楽器を嗜んでいます」
「……うぁー」
ゲリラお見合いのひとりだ。名前言われてもわかんないけど、小弦楽器っていうのでわかった。なんか小さくて金髪の。あんまり覚えてないけど、たしかにクラヴェル王子に似ているかも。僕は話を反らしたかったけれど、振れる話題もなくて玉子焼きにフォークを刺して口に運んだ。食べるのに徹しよう。
「昨日会いましたが、ヨータさんのことを熱心に話していました。音楽に関心がおありのようで、ラインフェリアの言葉に深くうなずいてくださったと。うれしかったようです。ありがとうございます」
「ああ……いえ……」
適当に聞き流していただけです。そう言うわけにもいかないし、とりあえず肯定だけしないでおいた。クラヴェル王子はやっぱり育ちが良さそうな食事のしかただった。タルクはもう、かっ込む感じ。僕はどっちともとれない感じ。
趣味国防おじさんが「私の姪もおったのですよ」と言い始めた。なんとなくだけどおじさんの隣に座っていた、最初に名乗りを上げた女性だろうなって思ったら、そうっぽい。もうひとりのおじさんも、どうやら娘さんが参加されていたらしく。なにこれ、父兄会?
あのさあ、もっと話すべきこと、あるんじゃない?
それぞれの婦女子の褒め合いが続いている中、僕は多少イラッとしながら、もうこれは僕が切り出さなきゃ永遠にうちの子かわいい合戦だなと思って、フォークを置いて言った。
「そんなことより、ハルシーピの病気の話、詳しく聞きたいんですけど」
いっしゅん、しんと静まり返る。おじさん二人の視線がずっと黙っていたブロムに注がれた。うん、ブロムに聞いた。僕は遠慮なく「僕が呼ばれたのはそのためだと伺っています。わざわざ国賓として招いたのは、女の子の話で場をもたせるのが目的じゃないはずだ」と言った。
趣味国防おじさんが「その通りです」と言って、すっと手を上げた。すると、後ろから静かに人が近づいて、その手に書類を渡す。
「では、実のある話をしましょうか。食後酒は?」
「あー、昼からは飲まないです」
「承知した。では、茶を」
皿がぜんぶ下げられて行く。タルクが僕の皿から残っていたお肉を拐って食べた。いっぺんにランチ会から会議室の空気に変わって、趣味国防おじさんは、僕の前へ紙を提示した。受け取ると、タルクが椅子をちょっとずらして覗き込んできたから、いっしょに見た。
どんな症状が、いつ起きたか、の一覧。症状についてはざくっとブロムから聞いていたけれど、その件数に僕は息を呑んだ。字が細かい。縦A4サイズくらいの厚手の紙に、びっしり。
表になっていなくて箇条書きだから見づらいけれど、じっくりと見たいものでもなかったから、それでよかったかもしれない。
僕は冷や汗を感じながら国防おじさんへ目を向けて「……すごい、件数ですね」と言うのがせいいっぱいだった。
「……発生は、テルク=ファルの東部に集中しています。症例が少ないうちは病だとは思われず、見過ごされていた可能性がある。なのでいつからという正確なことは言えません。が、遅くとも大寒期よりは前だ、と」
大寒期がなんのことかわからなくてタルクに目配せすると、タルクは「おまえが来る、一カ月くらい前だ」と小声で耳打ちしてきた。そうなんだ。じゃあ、僕の感覚で言うと、去年の秋くらい?
症状が、そして、記されていた予後が、痛ましくて。僕は、そっとテーブルへ紙を置いた。タルクが手にとって、じっと見た。
「……なにか、罹るハルシーピの特徴に、偏りはありませんか?」
「精査はしています。が、今のところ東部のメスの陸送騎乗用種である、という共通点しか見い出せておりません」
それはそうだ。僕なんかが疑問に思うことは、とっくに調べがついているんだろう。






