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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第二章

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26羽 「僕になにができるんですか」①

 僕も、タルクも、息を呑んだ。

 まったく想定していない言葉だった。きっとタルクもそうだったんだろう。

 ブロムは、慎重に言葉を選んで、僕たちへ告げた。


「申し上げた通り、今のところ原因の特定には至っていません。いくつかの憶測はありますが、それも不確かなため、口にするのはやめましょう。しかし、いや……そして、と言うべきかな。ここまでお話ししたからこそ、ヨータくんへの、私個人からのお願いです。――力を、貸してください」


 ブロムは、じっと僕を見て言った。僕は、自分が鑑別師研修生として就職した年のことを思い出していた。その年……高病原性鳥インフルエンザが、蔓延して。

 福岡県だけで、33万羽の殺処分が行われた。たまたま、僕が務めていた孵化場(ハッチェリー)や周辺の養鶏場では発生が認められなかったけれど。あのときの、いつどこで、どうなるかわからないという静かで確実な焦り。新米の僕ができることなんか限られていた。原因菌を持ち込まないよう身ぎれいに、こまめに消毒。カラスを見たら疑いの目を向けて、すずめにすら警戒する。孵化器(ハッチャー)の洗浄・滅菌に明け暮れて、埃すら立たないように清掃して回る。事務所でかかっているローカルラジオ番組の、毎日のニュースが怖かった。確実に増えていく数字と、場所。あっという間に全国に拡がって、その被害は……史上最悪と言われた前年度の、倍以上の。


「僕になにができるんですか」


 気づいたらそう口走っていた。あんなのは、もういやだ。起きちゃいけない、起こしちゃいけない。僕はもう、指示を待って右往左往するだけの研修生じゃない。もちろん、テルク=ファルのハルシーピの病気が、鳥インフルエンザと同じものかはわからないけれど。

 できることがあるなら、するべきだ。手当たり次第に。なんだって。

 ブロムはいっしゅんだけ、口をきゅっと横に引き結んだ。それから笑って、穏やかな声で「最初から、こうお願いすればよかったんですね」と言った。


「ハルシーピの医療班が原因究明と対処方法の特定を急いでいます。現段階でわかっていることは、メスしか罹患しないということ。すべての個体で症状が見られるわけではないため、伝染性ではないと推測できること」


 それを聞いて、僕はため息をついて脱力した。よかった。鳥インフルではない。いやよくないけど。現に病気があるんだから。でもよかった。いやよくない。

 僕は「どんな症状なの?」と尋ねた。タルクも無言で前傾姿勢になった。


「産卵期に達していない若鳥でも、通常より小さい軟殻卵を産みます。もちろん、オスとめあわせていませんし、子が生まれるわけもない。しかも、その産卵が頻繁すぎる。産むにまかせていたら……衰弱に至り、死にます」

「……かわいそうに」


 どんなにか苦しいだろう。僕はこれまで学んだことをいろいろ思い起こしながら、似た症例がないか考えた。鶏でも産卵が多過ぎる状況は生じる。その場合、やはり母体の栄養が枯渇して衰弱してしまう。それはたしか、男性ホルモンのバランスが崩れて生じるはずだから「エサは普段から、どんなものを?」と尋ねた。


「基本は通常のハルシーピと同じです。しかし陸送騎乗種は体作りが資本なため、なにか工夫をしているとは思いますね。必要であれば、確認します」

「そうだね、ぜひ。症状が出ていない個体との違いも知りたい。それと……僕は、鑑別師だけど」


 僕がブロムをまともに見てそう言うと、真っ直ぐに見返して「存じております」と即答がある。


「ブロムたちは、どうして僕の鑑別技術が、その病気に必要だと思っているの?」


 そう尋ねると、ブロムは困ったような悲しいような、どっちつかずの表情を浮かべてから、やっぱり笑った。


「怒りません? ヨータくん?」

「ん? 場合によっては怒る」

「なんですかそれえ。じゃあ、言えないですよお」


 のらりくらりとかわしそうな、いつものブロムの空気感だったので、僕は「話してくれないなら、帰る」って腕を組んで言った。ブロムは「まるっきり脅迫ですねえ」とぼやいた。


「本当に、私には言う権限ないんですって。ただ、ヨータくんを連れてきて、説得する役目なんですから」

「説得材料として必要じゃない? 情報って」

「もうやだあ、見た目通りやさしいヨータくんがいいですよお。そんな交渉上手は似合いませんよお」


 給仕さんが置いていった茶器から自分のマグカップに片手で茶を注いで、口に運んでしばらく沈黙してから、ちょっと目を閉じてブロムは言った。


「治療法が、今のところ見つかっていないんです」

「うん」

「なので、根本から、この病気が生じないようにしようと。それが今の私たちの結論です」

「どういうこと?」


 タルクが、ブロムをじっと見ていた。

 僕も、その答えを待った。


 さっきよりもさらに、言葉を選んで。ブロムは「私のこと、嫌いにならないでくださいね? 決定権は私にないですからね? 私が決めたんじゃないですからね? 怒らないでくださいね?」と前置きして、言った。


「――メスの……(クル)の段階で、開腹手術を。そもそも、産卵しないように」


 いやあ、僕、怒ったよね。


もしかしたら、明日更新できないかもです! なかったらごめんなさい!

がんばります!

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