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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。


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3羽 「雌雄鑑別師です!」②

書くのをサボるので、今週は毎日更新です


 その呼びかけに「おう、ここだー!」と奥から小さく返答があった。タルクさんが中にずいずい入って行ったので、僕も続く。もちろんグラは外で待機。

 人間のための部屋はたぶん二階。すぐに鶏舎の入口があって、通路脇に長く設置された囲いにはたくさんの茶色くてしっかりとした体格の鶏がいる。ロードアイランドレッドっぽいけど赤みが薄いからちょっと違うなー。初めて見た僕が珍しいのか、歩いている僕に合わせて移動する。こっこっこー。かわいいかわいい。


「おじさん、ちょっとこいつを預けて行っていいか」


 僕が追いついたところでタルクさんが言った。おじさんと呼ばれた人は、僕を上から下まで見て「どうした、迷子か?」と尋ねて来る。


「えー、はい、あの……そうです」

「ちょっと警ら隊連れて来るから、どっか行ったりしないよう見張っていてくれ」

「あいよー。じゃあ坊、こっち来て作業手伝えー」


 あきらかに子ども扱いだった。説明もしないでタルクさんはさっさと出て行ってしまう。なので僕はおじさんに向き直って「僕、成人です。26です」と自己主張した。おじさんは「またまたー」と笑った。どちくしょう。

 手伝わされたのは集卵作業。鶏が産んだばっかりの卵を採集していく。職場ではときどき併設の鶏舎に駆り出されることもあるから、いちおう経験者ってことでいいと思う。エッグトレイじゃなくて籠を手渡されて、おじさんから「左側のやつ拾って行ってくれや」と頼まれた。その前に僕は「いちおう手を洗わせてもらえますか?」とお願いする。キレイな手で採らなきゃいけないから。


「おー、小遣い稼ぎの子どもはけっこう来るが、自分から手を洗うって言ったのは初めてだなー。えらいえらい」

「……ありがとうございます」


 だから成人だってば。これでも163センチあるんだよ。さすがに小遣い稼ぎする子どもよりは大きいだろ。

 僕はわりとさっさと採集して回った。言われなくても尖っている方を下にして。卵の大きさは日本で言うところのLLくらいで、赤玉だ。そして、殻が頑丈らしくて、ひび割れがひとつもなかった。


「ここの列、終わりましたー!」

「早いなー! おう、ありがとう、持ってきてくれ!」


 おじさんが居る作業台のある部屋まで行くと、戸口をくぐった途端ぴよぴよと雛たちの合唱が聞こえた。かわいいかわいい。孵化場(ハッチェリー)の入口だ。


「おお……なにも言わんかったのに。ちゃんと向きを合わせたんだな。しかも、すごくキレイな籠入れだ」

「ありがとうございます、慣れているので」

「ん? どこかの養鶏場の子かい?」

「いえ、仕事が雌雄鑑別師なんです」


 僕がそう言うと、おじさんはなんだか不思議そうな顔をした。そして「なんだい、その、シュウカンベッシってのは」と尋ねて来る。


「あー、ひよこ鑑定士って言うのかな、この地域では? ひよこの、オスとメスを判別する仕事をしています」

「あ⁉」


 おじさんが目を見開いて声をあげる。なんか変なこと言ったかな、僕? ちょっとびびっていたら、おじさんは少しの後に「ちょっと、こっち来い」とぴよぴよがたくさん聞こえる部屋へ、僕の腕をつかんで入って行く。


「……やってみせてくれ。ここのは、昨日生まれた雛たちだ」

「えっ。あ、はい」


 おじさんが集卵籠をふたつ僕に手渡してくれた。僕はかがみ込んで、いつも取り扱っている雛よりは幾分大きいひよこたちに向き直る。かわいいなあ。みんな元気いっぱいだ。

 籠を自分の両脇に置いて。さて。やるか。


 3分くらいでその囲いに居たひよこちゃんたちはふたつの籠に分かれた。うーん、元気だけど、この中にずっと入れておくのはかわいそうだなあ。そう思いながら僕がおじさんを見上げると、おじさんはなんだか、しゃっくりでも出そうな顔をしていた。


「なんだ、それでできたっていうのか? オスとメスを分けた?」

「はい。こちらがオス、こちらがメスです」

「どうしてわかる?」


 んん? なんでそんなこと聞くの? 僕は訝しみながらも、オスを籠から一匹捕まえて、おしりを見せた。


「ロードアイランド系かと思ったら、名古屋コーチンに近いですね、この子たち。突起が隠れ気味なので、たしかに素人さんにはわかりづらいかも」

「待ってくれ、尻? 尻で分かるのか?」

「えっ、もちろん。他に手動の判別法ってありましたっけ?」


 だとしたら、それ僕も勉強しなきゃな。この地域ではどうしてるんだろう。

 なんて考えてたら、おじさんが僕の目線に合わせてしゃがんで、両手でがしっと僕の左手を握った。


「なあ、坊。ここで働く気は……いや、ちょっとの間でもいい。もしくは――おっちゃんにその見分け方、こっそり教えてくれないか」

「え……はい、まあ。やり方教えるくらいなら」

「本当か⁉」


 手を握ったまま立ち上がられたので、僕も引っ張られて立ち上がる。僕の手から逃れたオスのひよこが、ぴぃぴぃ鳴いてぐるぐると走り回った。


「――なにしてんだ、おじさん?」


 怪訝そうな顔でタルクさんが戻ってきた。いかにも公僕っぽい帽子をかぶった人も連れている。おまわりさんかな。


「おい、タルク! この坊はすごいぞ!」

「あの、26なんで、坊っていうのは……」

「あっという間に、鶏の雛の性別を見分けやがった! 逸材だ! こりゃ、すごいことになる!」


 なにがすごいんだろう。たしかに、世界的に見て雌雄鑑別師の人数は少ないけどさ。それはなり手が少ないってだけで。鑑別技術は昔ながらのものだけれども。


 タルクさんはおじさんを見て、次に僕を見た。それから、僕の足下の籠ふたつで、狭い中ぴよぴよ元気にしているひよこたちを見た。


「……いや、本当に分けられたとは限らんだろう」


 タルクさんがそうつぶやいたので、僕はむっとして言った。


「見くびらないでくださいよ。僕はこの道に入って3年目の、プロの雌雄鑑別師です!」


 視力もいいから、職場じゃトップアスリート扱いなんだよ。これでも。タルクさんは笑って、自分の足下まで来たひよこをつかまえて言った。


「まあ、おっきくなるまで正解はわからんな。――本当なら、まあ、すごいことだが」


 なんだよ、それ! 本当だよ!

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