23羽 「鑑別です」②
式典はそれで終わり。周囲の人たちからめっちゃ遠巻きにされていたんだけれど、僕がタルクの方向へ歩いて行ったところを、わさっと人に取り囲まれた。口々にお祝いを述べられて、自己紹介されまくる。さすがに覚えられないので「ありがとうございます!」で押し切った。途中でタルクが救出してくれて、会場から出られた。
「おまえ、自分がなに頼んだか、わかってる?」
廊下を歩きながら、タルクがおもしろそうな声で言う。
「ん? 僕は鑑別師だって言ったんだけど」
「それだよ!」
めっちゃ笑われた。説明して。僕なに頼んだの。
中央府から出て、タクシーみたいな役割の馬車に乗せられた。そっか、ヴェルミトゥラではお馬の活躍場所ってあんまりなかったけれど、大都市部では移動に馬車が必須な感じなのか。そりゃそうだよね、陸用ハルシーピじゃあきらかにオーバースペックだし、こんな細かい右往左往はできないだろうしね。
で、連れてこられたのは、店の名前が出ていないけど、美術館とか言われた方が安心できるくらいきらびやかな内装の建物。でも美術館じゃないってことはわかる。タルクそういうの興味なさそうだし。
「お待ちしておりましたよ、エルシ公翼……そして! 鑑別師、ヨータ様!」
「うっわ、なんか嫌味っぽいなあ。あそこに居たの? ブロム?」
「もちろんおりません! テルク=ファルの人間なもので!」
「情報早いなあ……」
なんで僕が鑑別師を名乗ったってもう知ってるんだよ。ちょっと気味悪いくらいにっこにこなのも気になる。
まだ夕方にもならない時間なのに、おっきい部屋に通されて、めっちゃふっかふかのでっかいソファに沈んだところで、酒を勧められた。まあいいけど。タルクなんかソファに沈みすぎて大の字だ。
「あらためて、お祝い申し上げます、ヨータくん。私は、あなたの今後がたのしみでなりません」
「ありがとう?」
沈みつつ首をひねって答えた。タルクにまともな説明は望めないので、ブロムから酒杯を受け取りながら僕は聞いた。
「ブロム、僕は、さっきなんの式典に参加したんですか?」
「もちろん、あなたの身分をあきらかにするための、報位典です」
「僕があやしくないってことを確定する式?」
「そういうことです」
どうして僕は参加前にそれを教えてもらえなかったの? まったく謎なんだが? 僕は伸び切っているタルクの膝あたりを殴っておいた。なんか背中を殴り返された。
じっくりみると、もらった首飾りには番号と僕の名前が刻まれている。これはマイナンバーかなにか? この国の人じゃないブロムにぜんぶ聞くのもおかしなことだな、と思って、おいおいタルクを問い詰めようと思った。
で、ちょっとしてからキャラヤも合流して。
「恐れ入った、ヨータ。君の豪胆さには驚かされたよ」
ゆったりと僕の向かい側に座ったキャラヤは、気配のない男の人から酒杯を受け取って干した。あの男の人いつから居たの。いちおうタルクは起き上がって右手を胸に当てた。
僕は豪胆って言われるようなことをした覚えがまるでなかったので、素直に「なにについてですか?」って聞いた。
「――新たな称号、あれはよかった」
「称号って、そんなだいそれたものではなくて。僕は、ただ僕の技術を正確に言い表してほしいと思っただけなんです」
「それだ。……この世に、雛の性別を『判定』ではなく『鑑別』できる、と宣言できる者が、他にいると思うか?」
……そっかー。そういうことかー。あれー? もしかして、僕って自分で地雷踏みに行った?
「鑑別師は、君だけが持つ固有の称号だ。今回君が得た地位に見合うものとなるだろう」
「え、ちょっとまってください、なんですか、地位って」
「君には円環守と同じ特権が付与された」
「まじっすか⁉」
それってキャラヤの同僚たちと並んだってことだよね⁉ まって、聞いてない、なにそれ、お断り申し上げたい。そもそも数日前まで僕はめちゃくちゃ他国の間諜と疑われて収監されていたんだけど、そこんところどうなのだろうか?
「君を保護するには、地位を与えるのが手っ取り早いんだよ」
「えっ、なんですかそれ。僕、タルクみたいに狙われるんですか?」
僕が前のめりでキャラヤへそう尋ねると、タルクがじっと僕を見たのがわかった。
「そうならないとも限らない。いや……なるだろう。君の弟子の女の子が誘拐されたのも、その技術を見込んでのことだと想定されている」
「……はい」
「いまいち君は自覚に乏しいようだから、ここではっきりさせておこう。君の『鑑別』は、特別なものだ。どの国でもほしがる。ほら、すでにこうしてテルク=ファルの間者がいるではないか」
「ヴェイク総長、もう少し言葉に手心を……」
ブロムがちょっと遠い目で言った。スレスレの冗談が言えちゃうくらいキャラヤと仲良しなんだなって思った。タルクがテーブルにあった梨っぽい果物を取って、むしゃむしゃし始める。
「君は、今後望むと望まざるとにかかわらず、必ず世界から注目される。そして、君は宣言した。自分の能力は不確かなものではなく、本物だと」
「はい。それは……本当のことなので」
「では、あらためて問おう。鑑別師ヨータ。君は、その能力をこの世のために用いることをよしとするか?」
しんって静まり返った。
キャラヤには、日本から来たってこと、言ってないはずだけど。でも、なにか察するところがあったんだろう。
霜翼卿の言葉を思い出す。
『私は、君がここに呼ばれた理由が、そこにあると思っているよ』
僕はキャラヤを見た。キャラヤも僕を見ている。
天井を見上げて、目をつぶった。深呼吸して、ヴェルク=シーヴィに来てからの目まぐるしい生活を、思い起こす。
どんな言葉がふさわしいのか、わかんないけど。
「はい。――そのために、僕が来たのだと思います」
向き直って述べた言葉は、思った以上に、ストンと僕の心に落ちてきた。
……帰れるのが、いつかなんて、わからないから。
一拍の後、タルクがまた手を伸ばした。果物をつかんで、なんでか僕に持たせた。なにそれ。
僕は、鑑別師の名を得て、テルク=ファルへ行くことになった。
招聘の理由については、ブロムから「テルク=ファル国内に入ってから、お話しします」と言われた。キャラヤには伝えたみたいだけど。ここでは言えないって、どういうこと。怖いんだけど。
「思い残すことはありませんか?」
聞かれて、僕は「けっこうある」と即答した。ブロムは「えーっ、そんなこと言わないでくださいよお!」とすがりつくみたいに僕へ言った。
保存食糧や野営道具が幌ハルシーピ車へ積み込まれていく。
僕は、僕が最初に降り立った土地、ヴェルミトゥラの方向を見ながら、タルクへ言った。
「ねえ、タルク。お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「伝言を頼んでくれないかな」
ハッラさんご家族へは、きっと手紙を書けばいい。でも。
「だれに?」
「……グラへ。行ってきますって」
見上げると、晴れ渡った空だった。空には、だれかが騎乗しているハルシーピが飛んでいる。
「……わかった。頼んでおく」
タルクがつぶやいた。なんかおかしくて、僕は笑った。そして、空のハルシーピへと右手を胸に当てる。
日本への気持ちは……しばらく、閉じておこう。グラとの対話も、もう少し先に。
それから、向き直った。東へ。
行くべき道は、決まっている。
これにて、第一章終わりです
どうかぜひ、ひとこと感想でも置いていってくださいませ……それが書くモチベです
書き溜めのためにお時間ください
次回は2月11日(水)7:00の更新を予定しています
また、第二章からは月~金の平日のみの更新に切り替えます(他の作品も書きたいので)
どうぞこれからもごひいきに!!!!
【12:50追記】
ショックなことがありました…………匿名コメントフォーム、いただいた感想をしっかり受け取れていませんでした……
差し替えますので少々お待ちください…………(´;ω;`)
【13:14追記】
取り急ぎグーグルフォームに切り替えました!!!!
バナー作ったり、体裁はもう少し整えます、大変失礼いたしました!!!!!
【2026/02/08 23:45追記】
バナー設定しました!!!!






