12羽 「残るよ!」①
すっと、炎の熱さから遠ざかって夜気が肌を裂く。
電気が通っている日本ではないから、真っ暗な眼下にネオンなんかない。鳥目の僕にとって、かえってその方が良かった気もする。目隠しされているんじゃなくて、見てるけど見えないんだ。
ぴゅい、と口笛が聞こえた。右側を見ると、並飛行するハルシーピがいる。きっともう一頭のハルシーピに乗り込んだ、タルクとライラちゃんだ。
グラはキュォー、とそれに答えて、そして高度を下げて行った。元々そこまで高いところを飛んでいたわけではないみたいで、すぐに着地の衝撃があって、そのまま止まれずにグラは数歩たたらを踏むように地上へ倒れた。落ちそうになったけど、翼を広げたままだったグラのおかげで僕はどうにかなった。
「グラ!」
降りて、すぐ顔のところまでいく。怪我ってどこなんだろう。グラはきゅるるるーって言いながら目を閉じていた。僕は「よくがんばった、かっこよかったぞ!」と言って、首をたくさんかいてあげた。
「おまえらぁ……飛べるんじゃねえか」
タルクがあきれたような、感心したような声で言いながら歩いてきた。僕はその言葉を合図に、地面に倒れ伏した。
「――ああ、大地よ! 我が母なる懐よ! 会いたかった!」
「なんだよそれ……」
たったった、と小さい足音が聞こえて、ライラちゃんが僕の上に寝そべった。なんで。
……いろんなことがあり過ぎた一日だった。きっともう日付けが変わっているから、一日じゃないけど。
そういえば、と思って、僕は背中のライラちゃんへ言った。
「ライラちゃん。ライラちゃんの、弟が生まれたよ」
「……おとうと?」
「そう。ライラちゃんは、お姉ちゃんになったんだ。やったね」
がばっと、ライラちゃんが起き上がった。そして僕から降りて立ち上がる。
「あたし、おねえちゃん?」
「そうだよ。ずっとがんばって、立派なお姉ちゃんだ」
電気が点いたんじゃないかってくらい、ライラちゃんの顔がぱあーっと明るくなった。これまで見たことがないくらい。かわいい。わかるー。自分がお兄ちゃんになったとき、僕もまじでうれしかったもんなあ。
「ヨータ、タルク、かえろう!」
意気揚々とライラちゃんが宣言した。自分からタルクへ抱っこされに行く。なにそれ。僕のがいいんじゃなかったの。
抱き上げてから、タルクはグラを見て「……グラは、無理だな」と言った。
「えっ、やっぱ、怪我がひどい⁉」
「とりあえずおまえは起き上がれ。……ああ。ムリをさせたら、もう飛べなくなるかもしれん」
ムリをさせてごめん。僕は起きて、座ったままグラを見た。目を閉じて、じっとしている。
「……ここで、療養する感じになる?」
「そうだな。せめて脚が治るまでは。脚と、腹に刃物傷がある。腹は、かなり深い」
「そうなんだ……」
手当はしてあるんだろう。お腹に刃物が深く入るって、人間で言うと切腹な感じかな。それは死ぬ。まずい。僕飛ばせちゃったよ。
「じゃあ……ライラ、すぐ帰りたいか?」
「かえる!」
「二時間かかるぞ。夜だから空はすごく寒い。だいじょうぶか?」
「だいじょうぶ!」
おお、お姉ちゃんモード。わかるー。自分は無敵に思えるよねー、わかるー。
タルクがそのまま、ライラちゃんを原っぱの向こうへお花摘みに連れて行った。なんかパパって感じだね。ていうかここはどこなんだ。なんか草がたくさん生えているけれど。
「――で。ヨータはどうする。乗れないこともないが」
「もちろん、グラとともに! 残るよ!」
僕が即答すると、タルクは「胸を張って言うな。飛べただろうが、さっき」と、さもあきれたような声で言った。
「はっはっは。火事場のバカ力ってやつだよ。ここは火事じゃない。――そういうことさ」
「ぜんぜん決まってないから決め顔すんな」
ライラちゃんはタルクの上着をきっちり着せられてから「ヨータ、またねー!」ってあっさり言った。お姉ちゃん強い。僕は立ってふたりがハルシーピに乗って飛んでいくのを見送った。星はすぐ近くに見えるくらい輝いていたけれど、暗かったからすぐ見えなくなった。
あらためて、僕とグラがいるところを見回す。……草原? そして森の火事はすごいことになっていて、耳を澄ましてみると、遠くで金物を打ち鳴らし続ける音が移動して聞こえる。たぶん、街か集落があって、そこの人たちが警報を鳴らしながら消火に向かっているんだと思う。
僕はとりあえず「ごめんなさい、よろしく!」と無責任につぶやいた。そしてグラを見る。
グラの呼吸は、落ち着いていた。じっとしていると痛まないのかもしれない。そういえば、ライラちゃんを迎えに行くとき傷薬も持たされたんだよな、と思ってポケットとかさがしたけど、なかった。あー、樹の中に置いて来た気がする……。
あってもグラには使えなかったかもしれないし、即座に諦めて、グラへ声を掛ける。
「グラ。僕とふたりだけど、いい?」
きゅるるるー、きゅるるるーと甘え声。それと同時に僕も似たような音がお腹からしたけど、それよりもずっと、疲れが勝っていた。
「じゃあ……休もう。グラ」
グラの隣にごろんと横になった。そしたら抱き寄せるようにグラが翼に包んでくれて、羽毛のもふもふ感とあったかさで、僕は即寝入った。




