10羽 「じゃあ、いってくる」 「たのんだ」①
今日からしばらく1日2回更新です
7:00
12:00
でお願いいたします
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああ!」
「うるせぇ、黙れ」
「だまれるかああああああああああああああああああああああああ!」
足下がふわふわするうううううううううう! 見えなくて怖すぎるうううううううううう! 見えても嫌だあああああああああああああああ!
どれだけ飛んでいたのかはわからない。ときどきタルクが手綱を引いて微調整しているのがわかるくらい。風圧すごい。動悸もすごい。実家のマンションの部屋の階より高いところはムリです、許してください。鶏は好きだけど鳥は嫌いになってしまいそう。助けて。
「――見えたら見えたで失神するし、見えなかったらうるさいし、おまえはいったいどうしてほしいんだ?」
「そもハルシーピに乗せるなよ!」
着陸して降ろされて、ぐったりしていたところにそう言われて思わず叫んだ。残念そうな表情で言われても怖いもんは怖い。もう二度と乗らない。なにがあっても!
森の中だった。うっそうと茂っているって言葉がぴったりな感じ。タルクと僕が乗ってきたのはグラではなくて、その他にもう一頭のハルシーピとその乗り手がいた。タルクはその人へ「様子はどうだ」と尋ねる。
「変わらず。物音すらしない。本当にここで合っているか?」
「間違いない。グラはライラを赤ん坊のときから認識している。ここだ」
「えっ、ライラちゃんがいるってこと? グラは?」
僕が気を取り直して聞くと、タルクは真っ直ぐに森の奥へ目をやって「ライラは――あの中だ」と言った。
「……中? ってなに」
「とりあえず先に、グラに会ってやってくれ。おまえに会えたら回復も早まるかもしれん」
「えっ」
回復ってなに。タルクは説明もなしにどこかへ歩いて行ってしまうから、僕はあわててそれに続く。そしてちょっと重大なことを思い出して、歩きながら報告した。
「タルク、じつは、昨日家に強盗が入って」
「そうなのか」
「なにその薄い反応。それで、グラの羽根を盗られちゃったんだ。ごめん」
「まあ、なんか妙に片づいてると思ったよ。……そうか。グラの羽根か」
僕を探して家にも行ったらしい。砦にも。ハッラさんに男の子が産まれたことを告げると、タルクの空気がやわらかくなった。
「……そうか。男か。無事産まれてよかった」
「うん。お産ってたいへんだね。僕男でよかったって思っちゃったよ」
でっかい岩を乗り越えて、その先にちょっと拓けた場所があった。そこに、グラがうずくまるようにして臥せっていた。
「えっ、グラ⁉ どうしたの⁉」
「負傷している。声かけてやってくれ」
僕たちが来たことを察したみたいで、グラが閉じていた瞳を開いてこちらを見た。いつもだったら僕を見たらバタバタするのに、それもない。負傷って、どこだろう。けっこう深いのかな。近くまで行って、僕は「グラ、だいじょうぶ? 痛い?」って聞いてみた。グラはきゅるるるーって、雛みたいな声を出した。
「メシも食わなくてな。おまえからやってみてくれないか」
「もちろん。どこにある?」
グラの陰にあった。羽根をむしった鶏があって、僕はそれを手に持ってグラの口元へ差し出した。
「グラ。食べないと元気になれないよ。食べよう?」
するとさくっと僕の手から食べた。もうひとつ。とりあえずそこにあった鶏肉はぜんぶ食べてくれて、タルクに言われたから僕は首元を撫でてあげた。グラがキュォー! とひと声鳴いた。タルクがなんか変な顔をしていた。
「……さて。グラはもうだいじょうぶだろう。いくぞ、ヨータ」
「え、まって。じゃあね、グラ。またあとでね」
キュォー! なんか元気になったみたい。よかった。
来た道を戻りながら、変な顔のタルクがこらえきれないみたいに笑い出した。
「なに。なんなの」
「……給餌は、番の証だ」
とんでもないことを言いやがられた。は? じゃあ、もしかして僕はグラの求婚を受けたってことになる⁉ それだけに飽き足らず、タルクは「首元の毛づくろいも、夫婦の愛情を示す行動で」とほざいたので、僕は「なんてことを!」とその背中に思いっきり拳を入れてやった。さすがによろけてた。
「……おまえ、見た目よりずっと力あるな」
「26歳の成人男性だからね。で、ライラちゃんは? なんで僕連れて来られたの?」
さすがに、グラのためだけじゃないのはわかる。タルクは表情を改めて、僕を見て行った。
「さっきの場所。でかい樹がある」
「樹? 森だから、そりゃあ」
「樹のうろがあって、そこから中に入れそうなんだが、俺たちの肩幅じゃ到底ムリだ。おまえ、行ってくれ、ヨータ」
「え、ライラちゃんがその中ってこと?」
「おそらく」
さっき降り立った場所に戻った。たしかに、さっきは気づかなかったけれど、森がなんかでっかい塊みたいになってる。え、これぜんぶ一本の樹だっていうこと? 樹齢何年? 屋久杉どころじゃなくない? 僕がびっくりしてそれを見上げていると、タルクが「こっちだ」と言ってさっきとは逆の方向へ行った。




