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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第一章 ヴェルク=シーヴィ

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9羽 「なにプレイ⁉」①

「……えー、えー、あのぉ……。……すみません、できません」


 途端に広がる残念ムーブ。僕の鑑別が呪いじゃないって知っているハッラさんまでがっかりした。ご、ごめんなさい……。スピ系はぜんぜんわかんないです……。


 なんかムダに期待させてしまってものすごく罪悪感を抱きながらその場を後にする。

 砦へととぼとぼ歩いているとき、ルムスが不思議そうに「じゃあさ、ヨータの呪いって、雛判定に特化してるの?」と尋ねてきた。


「うん。ライラちゃんの居場所がわかるなら、最初からやってる」

「そりゃそうだ。でもさー、判定がすごいんなら、練習したら他のこともできるようになるんじゃね?」

「ならないよー。そういう感じじゃないんだよ、僕のは」

「ふん? どーいうの?」


 なんか、どう説明していいのかわかんなくて、僕は「企業秘密です」って答えた。ルムスはなんか「なんだよー、教えろよー」とちょっといじけた。


 ライラちゃんのこと。探しに行ったタルクのこと。灰翼判庁の美人の偉い男性が、もしかしたらヴェルク=シーヴィのハルシーピじゃないかもって言ったこと。そんなことをぐるぐる考えながら仕事をしていた。僕の気持ちを考えてか、ルムスもなんか静かだった。体を動かすっていいね。時間が確実に過ぎてくれる。

 休み時間を挟んで、また仕事。でも午前中に僕がわりとせっせと動いたからか、あんまりタスクが残っていなかった。


「どうする? だらだら居ても給料増えんし、帰っちゃう?」

「そうだね。……タルクが帰って来ているかもしれないし」


 ハッラさんの奥さんの状況はどうかも気になる。ありがたくルムスといっしょに早引けして、砦の入口で別れる。

 タルクが家に直帰した場合を考えて、状況を書き置きしておこうかと思ったんだけれど、そもそもタルクの家に筆記用具はなかった。なぜ。それに、僕はこちらの文字を読むことはできるんだけれど、書いたことがないんだよな。だからあきらめた。きっと、ライラちゃんがみつかったら即ハッラさんの家に行くだろうし。なので、その足でハッラさんのところへ向かった。

 たぶん砦からは10キロくらい距離あるんだよね。万歩計あったら今日の数字すごいことになってそう。人並み程度の体力の僕が朝から徒歩移動しまくったので、ふくらはぎが張ってひどい。

 そして、朝よりはちょっとゆっくりめに歩いていたら。ハルシーピが空から降下して、どこかに着陸するのが見えた。


「タルク⁉」


 じゃないかもしれないけど。ライラちゃんが見つかったっていう期待を込めて、僕は走った。ハッラさんのお家へ。

 途中で何回も止まって息を整えて、着いたときには夕日がキレイな色になり始めていた。なんだか、ハッラさんのお家の周りが騒然としている。どうした。もしかして、ライラちゃんが怪我をしているとか⁉ いてもたってもいられなくて、最後の数十メートルを走り込む。


「ハッラさん!」


 開け放たれた玄関の扉から、ハッラさんが家の中で右往左往しているのが見えた。僕の声を聞いたハッラさんは飛び出して来て「ヨータ、ヨータ!」と僕に抱きついた。


「どうしたの、ハッラさん⁉」

「ムルナが、破水して……もう3時間なんだ。ずっと、苦しそうで……」


 ハスイってなに。でも、奥さんのムルナさんのことだから、赤ちゃんが産まれそうなんだと思う。鶏の卵みたいに簡単にはいかないのは、さすがに僕にだってわかった。

 家の中は、戦場みたい。戦争なんか知らない僕がそう言うのはおかしいかもしれないけれどさ。ムルナさんの低くて断続的な叫びと、それを励ます女性の声。


「――おい、トゥラの婆さん連れて来たぞ!」


 若い男の人がぜえぜえ言いながら、だれかをおぶって入って来た。背中から降ろされたのは紹介された通りおばあさんだったけれど、男性の頭をピシャっと叩いて「婆さんじゃないよ、姐さんと呼びな!」と言った。はい、承知しました。


「トゥラさん、ありがとう、ありがとう……」

「逆子だってね。あたしが来たんだから、もうだいじょうぶだ。安心しな」


 かっこいい! きっとお産婆さんだろう。差し出された桶で手を洗ってから、トゥラ姐さんはムルナさんのお部屋へ入って行く。

 部屋へ台所から何度も沸かしたお湯が運びこまれる。姐さんが、ムルナさんになにか言っている。ムルナさんが泣き声みたいな返事をする。おろおろしているハッラさんの腕をとって、椅子に座ってもらった。でもじっとしていられないみたいで、すぐに席を立って右往左往する。


「ハッラさん、トゥラ姐さんを信じよう? だいじょうぶだって言ってくれた」

「うん。うん……」


 ライラちゃんのこともあって、いろんな心配が重なって、どうしようもない気持ちなんだろう。姐さんを連れてきてくれた方も含めて、僕たち男性陣はただじっと状況を見守ることしかできない。なんだか、僕はヴェルク=シーヴィへ来てから、自分の無力さを自覚する場面ばかりに遭遇しているなって思う。


 トゥラ姐さんの掛け声に合わせて、ムルナさんがいきむ。僕は部屋の中を覗かないようにしているけれど、ハッラさんは邪魔にならない位置から部屋の中をチラチラと見ている。ハッラさんの表情まで苦しそう。なんか僕もそんな顔になりそう。それに、トゥラ姐さんの掛け声に合わせて、いっしょに呼吸を整えてしまう。

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