第52話 処刑エンド令嬢、思わぬ再会と茜の空
※前回の「処刑エンド令嬢」
梛の大樹の前で覚子と向かい合うジェーン・グレイたち。
そこで覚子は自身が転生者のシャルロット・コルデーであることを告げ、
これまでの苦悩を打ち明けるのでした
「……バンド、やろうよ」
そう言ったのは、涙を拭ったシャルロットだった。
その言葉に、過去に対するわだかまりは微塵も無かった。
ジェーンは、即座にうなずいた。
「もちろんですわ」
駒も、ジャンヌも、大きくうなずいた。
四人はそのまま神社の地下スタジオへ向かうことにしたが、シャルロットは立ち止まり、申し訳なさそうに言った。
「その前に……家にキーボード取りに行ってもいい?」
ジェーンは、胸を張って答えた。
「当然ですわ。新メンバーの楽器が無ければ、始まりませんもの」
四人は、神社を出て住宅街へ歩き出した。
*
神社から徒歩十分ほど。
静かな住宅街の一角に、南牧家はあった。
白い外壁の二階建て。玄関先には季節の花が丁寧に植えられている。
覚子――シャルロットが玄関扉を引き、
「ただいまー」
屋内に向けて言う。
すると奥から、ぱたぱたと軽やかな足音が響いた。
「おかえり、お姉ちゃん!」
中学生くらいの少女が顔が、奥からひょっこり顔を出すと、ゆっくりと車椅子を押して廊下へ出る。
車椅子には、白髪交じりの老婆が穏やかな表情で腰掛けていた。
「覚子ちゃんのお友達かい?」
老婆は、玄関先まで押し出された車椅子の上から、三人を見上げてにこりと笑った。
ジェーンは、その顔を見た瞬間、はっと息を呑む。
(あら? どこかで……)
記憶を辿り、その正体を探り当てると、
「病院でお会いした媼ですわ!」
大きく目を見開き、驚きのこもった声で叫ぶ。
「え?」
駒とジャンヌ、そしてシャルロットの視線がジェーンに集まる。
老婆は、車椅子の上からしばらくジェーンを凝視し、
「ああ、あの時の」
と、思い出したようにうなずくと、
「確か、水虫で悩んでた子」
指差して言う。
「それは、ワタクシではありませんわッ!」
まったく身に覚えのないジェーンは、即座に否定する。
「え? ジェーンって、水虫持ちだったの?」
シャルロットが、真顔で心配そうに覗き込む。
「だから、違いますわよ!」
ジェーンは声を張って無実を訴える。
「冗談だよ、冗談」
老婆は呵々と笑って言う。
「本当に悪い冗談ですわ……」
ジェーンは深いため息を吐く。
「確か、若いクセに『どうしたらいいか分からない』とか言って、ウジウジ悩んでた子だね」
「え? あのジェーンさんが、悩んでたんですか?」
老婆の言葉に、駒が驚きの目を向ける。
「なんですの? まるでワタクシが能天気みたいな物言いではありません?」
ジェーンが不満げに眉を上げる。
「いいえ、そういうつもりではなくて……ただ、いつも唯我独尊を貫いてらっしゃるので、意外だな、と」
駒は取り繕うように説明する。
「ワタクシって、いつもそんなイメージだったんですの……?」
逆に驚くジェーン。
ジャンヌは無言で、うんうんとしきりにうなずく。
「まあ、あの時はまだ状況の整理も出来てなくて、いろいろナーバスだったんですのよ」
ジェーンは苦笑する。
「それで、今はどうなんだい?」
老婆が、あの時と変わらぬ、ギラギラとした瞳を向けて問う。
ジェーンは、ピンと背筋を伸ばし、
「ワタクシ、何でもやってみましたわ。生徒会に相談所、それからバイトして、バンドを組んで。悩んでいる暇もないくらい毎日充実して……青春を謳歌しておりますわ!」
一歩踏み出し、胸を張って言う。
老婆は、それを聞いて満面の笑みを浮かべた。
「そうかい」
その一言には、心からの満足が込められていた。
*
ドタドタと二階から足音がする。
シャルロットが、大きなキーボードケースを背負って階段を降りてきた。
「お姉ちゃんもバンドやるの?」
少女が目を輝かせる。
「うん」
シャルロットは、少し照れながらもうれしそうにうなずく。
「みなさん、お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします!」
少女は嬉しそうな笑みを浮かべ、ぺこりと頭を下げる。
「ちょ、何言ってんのよ、志乃!」
慌てるシャルロット。
「だって、お姉ちゃん、バンドしてる友達のこと、いつも楽しそうに話してるのに、全然家に連れて来なかったじゃん」
にんまり笑う志乃。
「志乃!」
ますます顔を赤らめるシャルロット。
「ええ。ワタクシたちにお任せくださいまし」
ジェーンが優しく微笑む。
シャルロットは、何も言えず、恥ずかしそうに俯いていた。
*
家を出て、神社へ向かう途中――
「あー! もう、恥ずかしい……」
シャルロットが、家出のやり取りを思い出して呻く。
「ステキな妹さんじゃないですか」
駒が微笑む。
「ワタシも前世では兄妹がいましたが、やはり家族は良いものですね」
ジャンヌが穏やかに言う。
シャルロットは、少し照れたようにはにかむ。
「志乃がね、アタシに『Medium』を勧めてくれたんだ」
三人が足を緩める。
「それまで、アタシは自分で自分が許せなくて、ずっと部屋の片隅で埋まってた。でも、志乃のおかげで音楽の素晴らしさを知って……小さな希望を持てた」
空を見上げる。
「だから、志乃には感謝してる」
ジェーンは、大きくうなずいた。
「それにしても、病院でお会いした媼が、まさかシャルロットのお祖母様だったなんて、驚きましたわ」
「驚いたのはアタシもだよ。おばあちゃんとジェーンが知り合いだったなんてさ。すごい、奇跡だと思った」
シャルロットは、からからと笑う。
ジェーンは、ふと立ち止まり、
「奇跡……本当にそうかも知れませんわね」
不意に空を見上げ、
「処刑されたはずのワタクシたちが、こうして同じ国、同じ時に転生し、巡り会えた……」
しみじみと呟く。
「確かに。数奇な縁で結ばれているのかも知れませんね」
駒が静かに同意する。
「縁……ステキな言葉ですね」
ジャンヌが微笑む。
シャルロットも、同じ空を見上げる。
「縁の糸で結ばれた四人が、同じ空の下で、同じバンドメンバー、か……」
その顔には、もう迷いはない。
「ホント、ステキな奇跡だ」
晴れやかな笑みを浮かべて言う。
茜に染まる空は、どこまでも澄み渡っていた。
処刑エンド令嬢s――
血でも罪でもなく、確かな縁によって結ばれていると、四人が改めて実感した瞬間だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第53話は、
「処刑エンド令嬢、四人の音とこれからのこと」
をお送りします。
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