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第49話 処刑エンド令嬢、処刑台と栄光の舞台との間で

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


ついに文化祭ステージの出番を迎えたジェーン・グレイたち。

しかし、薫子たち「HY=Society」の完璧なステージパフォーマンスを目の当たりにして、

極限の緊張状態に陥るのでした

 ステージ袖から、光の中へ――


 ジェーン、(こま)、ジャンヌの三人は、ゆっくりと講堂ステージに足を踏み出した。


 視界が、開ける。


 そこにあったのは――


 まばゆいばかりの照明。


 ぎっしりと埋まった観客席。


 その無数の視線が、一斉にこちらに向けられる。


 ジェーンの喉が、きゅっと鳴った。


 (こま)は背筋を伸ばしながらも、無意識にスティックを強く握りしめている。


 ジャンヌも、マイクスタンドの前で、ほんのわずかに肩が強張っていた。


 ――緊張。


 ――恐怖。


 それが、確実に、三人を包み込んでいた。


 アンプの電源が入り、音出しが始まる。


 ギターを弾くジェーンの指がわずかに滑り、音が外れる。


 ドラムを叩く(こま)のリズムが、ほんの一瞬ズレる。


 ベースを弾くジャンヌは、いつものような攻撃性が鳴りを潜め、音が弱い。


 客席が、ざわめき始める。


「……誰?」


「『舞姫二号店(仮)』って、知ってる?」


「知らない」


「もう『ハイソ』出てこないの? つまんなーい」


「帰ろっか」


 ひそひそと、そして、はっきりと冷めていく空気。


 ジェーンの耳に、その声が突き刺さる。


(……これは)


 一瞬、視界が歪んだ。


 石の床。

 群衆のざわめき。

 ギラリと光る無骨な斧。


(まるで……処刑台ですわね)


 前世のトラウマが、鮮明にフラッシュバックする。


(……処刑台?)


 だが、その言葉がジェーンに一筋の閃きを与えた。


(ええ、そうですわ!)


 その瞬間、彼女の瞳に、光が戻った。


   *


 ジャンヌが、震える手でマイクスタンドに近づく。


『え、えっと……は、はじめまして。ワタシたちは――』


 その言葉を、遮るように。


 ジェーンが、一歩前に出た。


 そして――


 目の前に置かれたマイクスタンドを、ぎゅっと掴む。


『――“処刑エンド令嬢s(レディース)”ですわッ!!』


 講堂が、静まり返る。


 そして次の瞬間――


「……え?」


「処刑って……?」


 ざわざわと、驚きの声が上がり始めた。


 (こま)とジャンヌも、目を見開いてジェーンを見る。


 ジェーンは、にっこりと微笑み、


『たった今、思いつきましたわ』


 さらりと言い放つ。


『ワタクシが、“処刑エンド令嬢s(レディース)”のギターを務めます――“九日間の女王”、ジェーン・グレイですわ』


 貴族の作法そのままに、優雅に一礼。


 そして、視線を(こま)へ送る。


 (こま)は一瞬驚いたが、すぐに理解し、


『私が、“処刑エンド令嬢s(レディース)”のドラムを務めます――“奥州の才媛(さいえん)”、最上もがみ(こま)です』


 背筋を正し、目の前のマイクに向けて、静かながらも凛とした声で名乗る。


 最後に、ジャンヌが一歩前に出て、マイクを握りしめ、


『そしてワタシが、“処刑エンド令嬢s(レディース)”のベースボーカルを務めます――“オルレアンの乙女”、ジャンヌ・ダルクです』


 やや高揚気味に声を張り上げて名乗る。


 ジェーンは満足そうにうなずき、


『ワタクシたち、三人合わせて――』


 お互い視線を送り合い、


『“処刑エンド令嬢s(レディース)”です!!』


 揃ってバンド名を名乗るのだった。


 一瞬の沈黙。


 そして――


 どっと、拍手と笑いが起こった。


「なにそれ!」


「名前、インパクトありすぎ!」


「面白いじゃん!」


 空気が、明らかに変わった。


「……え?」


 しかし、ただひとり、バックステージで見守っていた覚子(さとこ)だけが、呆然とした表情で漏らすのだった。


   *


 ステージ上の三人は、すっかり平常心を取り戻していた。


『突然バンド名変わるから、びっくりしましたよ』


 ジャンヌが、苦笑交じりに言う。


『だって、仮名のままでは締まりませんもの』


 ジェーンは胸を張る。


『せっかくこれだけのお客様がいらっしゃるんですから。名前だけでも、覚えて帰っていただきたいですわ』


『まるで、若手芸人みたいな掴みですね』


 (こま)がぽつりと付け加える。


 また、客席から笑いが起こる。


 ジャンヌが、マイクに向かって、改めて口を開いた。


『ワタシたちは、まだバンドとして経験が浅いですが――今回、こうしてステージのトリを務めさせていただくことになりました』


 (こま)が続く。


『文化祭に足を運んでくださった、みなさま。この会場にお越しくださった、みなさま』


 最後に、ジェーンが、


『そして――この晴れの舞台を支えてくださった、すべてのみなさまへの感謝を込めて……演奏させていただきますわ』


 そう、締めくくる。


 拍手が、再び湧き上がる。


 (こま)が、スティックを構えた。


『……ひ』


 深く、息を吸う。


『……ふ』


 全員が、集中する。


『……み』


 観客席が、静まり返る。


『……よっ!』


 そのカウントと同時に、音が解き放たれた。


 曲は、「Medium」の「神籬(ひもろぎ)」。


 原曲ではキーボードのイントロから始まるが、ここではジェーンが奏でるクリーントーンのギターイントロから始まる。


 穏やかな旋律の後、ボーカルのジャンヌが歌い出した。



 ♪


 (ああ)…… 夢に微睡(まどろ)(くちなわ)


 (いろ)匂う 泡沫(うたかた)(まど)いし(なみだ)(しの)ぶれど…… 叫び


                    ♪



 メロが終わると、ジェーンは足元のエフェクターを踏む。


 ギターにディストーションが掛かり、サウンドが深く(ひず)み出す。


 静から動へ――


 曲はサビへと突入する。



 ♪


 (とき)はいつも廻り廻るもの 果ての知れぬ旅路


 路傍(ろぼう)を過ぎ行く足音 風は手向(たむ)けに遊ぶ


 人はいつか巡り巡るもの 奇しき(えにし)その(ゆえ)


 常盤(ときわ)に紡がれし歴史の糸


                    ♪



 サビが終わると、ギターソロに突入。


 決して難しくはないが、ハンマリングオンとプリングオフ、チョーキングを多用するため、どこか一か所でも弾き損ねると、その後全体にまで影響し兼ねない危うさもあった。


 それでもジェーンは練習の時と同じように、晴れ晴れとした表情で、伸び伸びと弾きこなすのだった。


 観客は歓声と共に大きく手を突き上げ、演奏にのめり込む。


 ステージと客席が一体となり、ジェーンたちの演奏は「HY=Soceity」にも引けを取らない盛り上がりを見せるのだった。



 ♪


 (ああ)…… 愛おし姿(かたち)よ 雅の(おもて)


 (ちぎ)りし玉の緒 温い(かいな)に寄せた夜よ



 森羅万象 不滅の(ことわり) 揺ぎ無き心


 水面()ゆ無紋の鏡よ 永久(とわ)揺蕩(たゆた)うなかれ


 輪廻転生 繰り返す過ち (かしこ)誓約(うけ)(たま)


 月影、玉響(たまゆら)に麗し瞳 常盤(ときわ)石動(いする)がぬ想い



 刻はいつも移ろい行くもの 果ての知れぬ旅路へと


 路傍(ろぼう)を過ぎ行く旅人の様


 人はいつか彷徨い逝くもの 奇しき(えにし)その(ゆえ)


 常盤(ときわ)石動(いする)ぐ事の無き様に


 羅羅羅(ららら)……


                    ♪



 曲はゆっくりと終焉を迎える。


 一瞬の静寂。


 そして――


 湧き上がる、拍手喝采。


 その熱狂は会場中を包み込み、大きなうねりとなった。


 汗を滴らせながら――


 大きく息を切らせながら――


 三人はステージの中央に集まると、コクリと大きくうなずき、


「ありがとうございました!!!」


 満面の笑みで客席に一礼する。


「すごく良かったよー!」


「これからも応援するからねー!」


 客席からの声を受け、ジェーンたちの目には熱いものがこみ上げるのだった。


   *


 こうして、文化祭のステージは終了し、ジェーンたちのバンド・「処刑エンド令嬢s(レディース)」の初お披露目ライブは大成功を収めたのだった。


「やりましたわよ、覚子(さとこ)!」


 バックステージに戻って来たジェーンは、真っ先にその名を呼ぶ。


 しかし、そこに覚子(さとこ)の姿は無かった……。



 処刑エンド令嬢(レディ)灰島(はいじま)ナデシコ――

 拍手喝采の裏側で、もうひとつの歯車が静かに回り始めた瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第50話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、静かな異変と変わる関係」

をお送りします。


少しでも気になっていただけましたら、

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