表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/51

第48話 処刑エンド令嬢、迫りくる逃げ場のない舞台

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


ついに文化祭当日を迎えたジェーン・グレイ。

彼女のクラスはメイド喫茶を催し大盛況。

両親も訪れて喜びに浸る中、いよいよライブの時間が近づいて来るのでした

 講堂から離れた校舎裏の渡り廊下で、ジェーンとジャンヌ、覚子(さとこ)の三人は足を止めていた。


 遠くから、小走りの足音。


「すみません、遅れました!」


 息を弾ませて現れたのは、中等部の(こま)だった。


 制服姿のまま、肩からスティックケースを提げている。


「お疲れ様ですわ、(こま)


「みなさんも、お疲れ様です!」


 四人が揃った瞬間、どこか欠けていた歯車が、かちりと噛み合った感覚があった。


「それでは、参りましょうか」


 ジェーンの一言で、四人は並んで校内へと足を踏み出す。


   *


 校内は、まさに人の海だった。


 廊下は一方通行が敷かれ、天井から吊るされた色紙と紙花が揺れる。


「焼きそばいかがですかー!」

「三年一組、脱出ゲーム、残り二枠でーす!」

「写真部展示はこちらでーす!」


 教室の扉という扉からは、甘い匂い、油の匂い、香辛料の刺激が溢れ出し、呼び込みの声、笑い声、拍手が幾層にも重なって、耳が追いつかない。


「文化祭って、スゴイ熱気だよね。まるでライブ会場みたい」


 覚子(さとこ)が人波を避けながら言う。


「騒がしいのはあまり得意じゃありませんが、でも……こういう雰囲気、嫌いじゃないです」


 (こま)は、目を輝かせてあたりを見回していた。


 途中、クラスメイトに呼び止められたり、 「ライブ頑張って!」と声を掛けられたり、知らない生徒からも「後で観に行きます!」と言われたり。


 そのたびに、ジェーンは胸の奥で、小さく息を吸う。


(……もう、後戻りは出来ませんわね)


 一通り校内を巡った四人は、最後に講堂前にたどり着く。


 重厚な扉の向こうから、マイクを通した声が漏れ聞こえてきた。


 講堂ステージでは、文化系部活の発表、吹奏楽部のアンサンブル、演劇部の短編劇、営業で呼ばれた若手お笑い芸人のトークライブなどが行われる。


 貼り出されているタイムテーブルに目を向ける。


 この後、『HY=Society(ハイソサエティ)』のライブ。


 そして、最後(トリ)に――


 ジェーンたち、『舞姫二号店(仮)』のライブという流れだ。


 出演者控え場となっているバックステージ。


 そこに足を踏み入れた瞬間、空気の密度が変わった。


 すでに『HY=Society(ハイソサエティ)』のメンバーは、全員がスタンバイしていた。


 ゴシックロリータのステージ衣装。

 黒を基調に、紫と銀の刺繍が施され、フリルの隙間から鍛え上げられた腕が覗く。


 ステージの方向を見つめていた、姫神(ひめかみ)薫子(かおるこ)がこちらに気づくと、静かに歩み寄る。


「……わたくしたち、ただの前座で終わらせるつもりは、ありませんわよ?」


 挑むような視線。


 ジェーンは、わずかに顎を上げる。


「ええ。望むところですわ」


 短い言葉の応酬。


 だが、その裏には、互いへの敬意と覚悟があった。


   *


「『HY=Society』のみなさん、ステージへお願いします!」


 スタッフの声。


 メンバーたちは楽器を手に、堂々とステージへ向かう。


 ――瞬間。


 講堂が、大きく揺れた。


 歓声。

 拍手。

 立ち上がる観客。


 客席はすでに立ち見が出るほどの満員で、その視線のすべてが『HY=Society(ハイソサエティ)』に注がれていた。


 機材をセッティングし、


 ドラムが、ツーバスで高速の連打を刻む。

 正確無比なダブルキックが、床を震わせる。


 ベースは、スラップとフィンガーを切り替えながら、リズムと旋律を同時に支配する低音を叩き込む。


 キーボードは、ストリングスパッドで空間を満たし、教会音楽を思わせる荘厳なコードを重ねる。


 ギターは、タッピング、スイープ、レガートを織り交ぜた速弾き。

 音が、刃物のように空気を裂く。


「……音出しだけで、もう……」


「やっぱり違いますね」


 ジャンヌと(こま)が、ゴクリと息を呑む。


 サウンドチェックを終えると、マイクを手にした薫子(かおるこ)がステージの前へ出る。


『みなさま、本日は”紫苑祭しおんさい”にご来場いただき、ありがとうございます!』


 澄み切った声が、講堂を満たす。


 その一言だけで、会場内から大歓声が沸き起こる。


『文化祭、楽しんでおりますか?』


「はーい!!」


 一糸乱れぬレスポンス。


『まあ……元気なお客様ばかりで、素晴らしいですわ』


 どっ、と笑いが起こる。


『わたくしたち”HY=Society(ハイソサエティ)”は、この”紫苑祭しおんさい”にお招きいただき、演奏させていただくことになりました。短い時間ではありますが――どうか、楽しんでくださいませ』


 そして、一礼。


 その瞬間、大歓声が渦の様に会場を飲み込む。


 場を完全に支配する所作。

 それは、経験に裏打ちされた、揺るぎない自信の表れだった。


   *


 一瞬の静寂の後、キーボードのプレリュードが、静かに流れ出す。


 荘厳で、様式美に満ちた旋律。


 それがふっと途切れた瞬間――


 ギターが唸り、

 ベースが唸り、

 ドラムが爆発する。


 静から動へ。

 一気に、高速メタルサウンドへと雪崩れ込む。


 リフが畳みかけ、

 ツーバスが心拍を支配し、

 シンフォニックな旋律が暴力的な音圧に飲み込まれないよう、空間を束ねる。


 そして、薫子(かおるこ)の歌声。


 清らかで、強く、蠱惑的。

 重厚なサウンドをバックに、確かな“旋律”として君臨していた。


 観客のボルテージは、最高潮(クライマックス)に達し、その完成された芸術に酔いしれる。


 ジェーンたちも、息をするのも忘れ、完全に聴き入ってしまうのだった。


   *


 そして、終演――


 万雷の拍手。

 割れんばかりの歓声。


『ありがとうございました!』


 薫子は、マイク越しに告げる。


『この後、わたくしの大好きなバンドが演奏いたします。どうか、最後まで楽しんで行ってくださいませ!!』


 最後に一礼し、メンバーはステージを後にする。


 会場では、終わりを惜しむ歓声が鳴り止まない。


 メンバーがバックステージへ戻ってくる。


 すれ違いざま、薫子(かおるこ)は、ジェーンの横で低く囁いた。


「……今度は、貴女方の番ですわよ」


 そう言い残し、去っていく。


 ――次は、自分たち。


 分かっている。

 分かっているのに。


 ジェーンの膝が、微かに震えた。

 (こま)は、スティックを握る手に力を込める。

 ジャンヌは、ギュっと唇を噛み締める。

 覚子(さとこ)は、黙って三人の背中を見つめていた。


 圧倒的な演奏が、まだ耳の奥で鳴り響いている。


 ――それでも。


 この後に音を鳴らすのは、自分たちだった。



 処刑エンド令嬢(レディ)灰島(はいじま)ナデシコ――

 逃げ場のない舞台が、前世のトラウマを呼び覚まそうとする瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第49話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、処刑台と栄光の舞台との間で」

をお送りします。


少しでも気になっていただけましたら、

ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ