第47話 処刑エンド令嬢、祭の喧騒と嚙みしめる幸せ
※前回の「処刑エンド令嬢」
文化祭に向けて本格的な準備に入ったジェーン・グレイたち。
しかし、いまだにバンド名が決まっていないことに気づき、
とりあえず「舞姫二号店(仮)」を名乗ることになったのでした
清心女学園文化祭――「紫苑祭」当日。
校舎中に人の波がうねり、学園は一年で最も騒がしい一日を迎えていた。
廊下には色とりどりの装飾が施され、あちこちから呼び込みの声と笑い声が響いてくる。
一年一組の教室も、そんなお祭りの喧騒に包まれていた。
「お帰りなさいませ、お嬢さま――ですわ!」
凛とした声で来客に告げながら、にこやかに一礼するジェーン。
身にまとっているのは、見慣れたメイド服――バイト先の「舞姫」で普段着用している制服を、そのまま流用していた。
一方、教室奥の調理スペースでは、
「次、オムライス二つ! コーヒー三つね!」
フライパンを操りながら声を張るのは、料理上手の覚子だ。
一年一組の出し物は、メイド喫茶。
その完成度と回転率の良さにより、教室は朝から常に満席状態だった。
「……おい、なんだよこの格好は……」
そんな賑わいの中、恨み言を漏らす声がひとつ。
ジェーンたちとは違うタイプのメイド服姿を着た八塚見が、恥辱に顔を歪めていた。
「スカート短ぇし! 視線が痛ぇし! てか、アンタら、よくこんな恥ずかしい格好できんな!」
「あら」
ジェーンは余裕たっぷりの笑みを浮かべる。
「とてもお似合いですわよ?」
「そういう問題じゃねぇし!」
「メイド喫茶なのですから、メイド服を着るのは当然のことですわ」
ぴしりと断言するジェーン。
「ちくしょう……だからメイド喫茶はイヤだったんだよ……」
肩を落とす八塚見。
「多数決という、民主主義的手段で決定したのですもの。いい加減、観念なさいまし」
そう言って、高らかに笑うジェーン。
「……いつか革命起こしてやっぞ」
恨み節を吐きながら、八塚見はしぶしぶ接客に戻っていった。
その時――
教室に来客が現れる。
「お帰りなさいませ、お嬢さま――ですわ!」
反射的に声を上げたジェーンだったが、
「……なんだ、ジャンヌでしたの」
入ってきたのは、同じ「舞姫」のメイド服をまとったジャンヌだった。
「その反応、ひどくないですか? 一応、客として来てるんですけどー」
不服そうに口を尖らせて、ジャンヌが言う。
ジェーンは、チッ、と舌打ちし、
「こちらの席へどうぞ、お嬢さま」
棒読みで席を示す。
「今、舌打ちしました?」
「何のことか、さっぱり分かりませんわー」
肩をすくめてしらばっくれるジェーンを見て、
「これだから、クソイングランド人は……」
ジャンヌが、ヤンキー気質丸出しで毒を吐く。
「そもそも、なんでその格好で来るんですの? 紛らわしいったらありゃしませんわ」
「どうせライブはこの衣装でやるんですし、いいじゃないですか」
小声で、なおもいがみ合う、前世がイギリス人とフランス人の二人。
と、そこへ一組の男女が新たに入室する。
「へい、らっしゃい!」
ジャンヌはすぐに立ち上がると、条件反射で威勢良く声を張る。
「完全に職業病ですわ!」
即座にツッコむジェーン。
「……!」
だが、その来客の顔を見た瞬間――
ジェーンの表情は、ぱっと明るくなった。
「遊びに来たよ、ナデシコ」
「すごく賑わってるね」
そう言って、穏やかな笑みで手を振るのは、両親だった。
「お父さま……お母さま……!」
思わず駆け寄るジェーン。
「来てくださったのですね!」
「うん。せっかくだもの」
母が――
「ナデシコが頑張ってる姿、見たくてね」
父が――優しく微笑む。
「ジェーンさんのご両親でしたか」
察したジャンヌが丁寧に頭を下げ、
「こちらの席へどうぞ」
さっきまで自分が座っていた席に案内する。
二人は、そこに腰を下ろすと、
「オムライスとコーヒーを二人分、お願いします」
メニュー表を見て注文する。
「かしこまりました~ッ!」
注文を受けたジャンヌが、颯爽と覚子の元へ向かう。
「いいお友達ね」
母が小さく言う。
「ナデシコが楽しそうで、安心したよ」
父も穏やかにうなずく。
「ええ」
ジェーンは少し照れたように、はにかんだ。
そして、そっと訊ねる。
「この後のライブも、見に来てくださいますの?」
「もちろんだよ」
父は、柔らかく笑った。
「楽しみにしてるよ」
ジェーンの胸に、温かいものが広がる。
「オムライスとコーヒー、お待たせしゃーした!」
完全にクラスの一員と化したジャンヌが、料理を配膳する。
バイト先で散々調理した人気メニューを覚子が完全再現しただけあって、卵の焼き加減からチキンライスの味付けに至るまで、一切の妥協の無い完成品だった。
「美味しそうだね」
父がスプーンを取ろうとした、その時――
「お待ちになって」
ジェーンが止める。
「もっと美味しくなる魔法を、おかけしますわ」
そう言って、ケチャップで大きなハートを描き、その周囲に――
『お父さま大好き』
の文字と、小さなハートマークを付け足す。
ジェーンのデコレーション技能も、バイト初日の頃から比べてかなり上達していた。
「……」
父は一瞬固まり、次の瞬間、目元を押さえた。
「ありがとう、ナデシコ!! 父さんはこれを家宝に――」
「冷めないうちに、食べてくださいましね」
即座に釘を刺すジェーンだった。
*
両親を見送り、仕事に戻ろうとするジェーンに、クラスメイトが声をかける。
「ライブもあるんでしょ? あとは私たちに任せて、校内回ってきなよ」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ」
ジェーンは丁寧に頭を下げる。
その様子を見ていた八塚見が、ふいに覚子に声をかけた。
「……アンタも行きなよ」
「え?」
覚子は目を瞬かせる。
八塚見から話しかけられたことにも驚いたが、何より、彼女が気を遣ってくれたことが意外だった。
「アタシ、バンドのメンバーじゃないし……」
「心配なんだろ?」
顎で、ジェーンの背中を示す。
「一緒にいてやんな」
「……ありがとう、八塚見ちゃん」
覚子はそう言って、ジェーンの元へ駆け寄った。
ジェーン、ジャンヌ、覚子――
三人が教室を後にするのを見送りながら、
「……はぁ」
八塚見は頭をくしゃくしゃと掻き、
「ま、たまにゃ……こんな役回りも、悪くねぇか」
そう呟いて、苦笑するのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
紫苑祭の喧騒の中、歌う前に幸福を胸いっぱいに噛みしめた瞬間だった。
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第48話は、
「処刑エンド令嬢、迫りくる逃げ場のない舞台」
をお送りします。
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