第46話 処刑エンド令嬢、続・バンド名が決まらない
※前回の「処刑エンド令嬢」
薫子たちのバンド偵察に向かったジェーン・グレイたち。
完璧な演奏をする薫子たちとの実力差を感じるも、そこに至るまでの時間の重みを知るのでした
夕暮れの伊勢崎八幡神社。
地下スタジオには、いつものようにアンプの唸りとドラムの反響が満ちていた。
ジェーンのギターは、迷いのない力強いビートを刻む。
駒のリズムは芯があり、ジャンヌのベースは低く、太く、床を這う。
三人とも、胸に巣食っていた重たいものは感じられず、先ほどまでの沈滞が嘘のような、全身全霊の演奏だ。
その様子を、眺めていた天守セツナが、ふっと笑った。
「……どうやら、元の鞘に収まったみたいやね」
すぐ横で三人を見守る覚子に向けての、柔らかな京都弁だった。
「はい」
覚子が、にこっと笑って答える。
「実際に『HY=Society』の人たちと話をしたら……ホントに、解決しちゃいました」
そう言ってから、少しだけ姿勢を正す。
「セツナさんのおかげです。ありがとうございました」
「それはちゃうよ」
セツナは、軽く首を振った。
「ウチは、きっかけを置いただけや。実際に動いたんは、覚子ちゃんやろ」
そう言って、ぽん、と覚子の頭に手を置く。
「ようやった」
「……っ」
覚子は、少し照れくさそうに笑った。
セツナは、再びスタジオの中央に目を向ける。
ギター回しをするジェーン。
スティック回しをする駒。
スラップ奏法をするジャンヌ。
演奏の合間に、それぞれがカッコイイと思う技法を披露していた。
それは本来の演奏には不要だが、楽しそうにはしゃいでいる三人を注意する気にはなれなかった。
「文化祭……楽しみやね」
「はい」
覚子は、力強くうなずいた。
*
翌日。
放課後の生徒会室は、相変わらず書類の山だった。
ジェーンが、チェック表に判を押していると――
「会長、ちょっといい?」
樹立が、やって来て言う。
「ええ、何かしら?」
「講堂ステージのライブの件なんだけどさ」
樹立は、メガネの淵をクイッと押し上げてから言った。
「貴女たちのバンドって……名前、ないの? 広告に何て書けばいいか分からないんだけど」
「…………」
ジェーンは、口を開けたまま、固まった。
そのまま沈黙が数秒続いた後――
「すっかり忘れておりましたわーーーッ!!」
生徒会室に、絶叫が響いた。
*
その日の放課後。
喫茶レストラン「舞姫」。
「バンド名ですわよ、バンド名!」
ジェーンが、勢いよくテーブルを叩き、
「やっぱり、『レディ・ジェーンズバンド』ですわ!」
力強く主張する。
「いいえ、『上州連合』でお願いします」
駒も、控えめではあるが譲らない。
「やっぱり、『ヘブンリー†コール』しかないですね」
ジャンヌは、いつも通り自己陶酔している。
その様子を見て、セツナは深く息を吐き、
「あーあ……またこの繰り返しかいな。これは、一生かかっても決まりそうにあらへんなぁ」
腕を組み、天井を仰ぐ。
「何か、いいアドバイスありませんか?」
覚子が、すがるように訊ねる。
「そうやなぁ……」
セツナは、少し考え込んでから、ふと思い出したように言った。
「覚子ちゃんは、どんな名前考えとったんやったっけ?」
「え? えっと……」
覚子は、胸の前で指をもじもじと動かしながら、
「……『ラブリー♡ガールズ』……です」
小声で答える。
「じゃあ、それでええやん」
投げやりな口調で言うセツナ。
ぱぁ、っと覚子の顔がほころぶ。
しかし――
「「「それはダメ!!」」」
即座に、三人からダメ出しを受けるのだった。
「がーんっ!」
覚子は、がくりと肩を落とし、
「……しくしく……」
と、目に涙を浮かべる。
「キミら、こういう時だけ、妙に団結するんやね……」
セツナは、呆れ顔だった。
*
しばらくの口論の末。
「……はぁ」
セツナは、大きくため息を吐き、パンパン、と手を叩いた。
「やめやめッ!」
一同が、ぴたりと黙る。
「こういうのはな、勢いで決めるんが一番や」
そして、びしっと指を立てる。
「とりあえず、仮名でええ。ウチが決めた名前にすること。ええな?」
「え〜」
ジェーンが、不服そうに口を尖らせる。
「……ええよね?」
にこやかだが、圧が強い。
「あ、はい……」
その迫力に、ジェーンはあえなく引き下がった。
*
翌日――
生徒会室。
「……『舞姫二号店(仮)』?」
紙を受け取った樹立が、首をかしげる。
「これ……本当にバンド名なの?」
「ええ。それで、お願いしますわ」
ジェーンは、不服そうな顔のまま断言する。
「……分かった。じゃあ、これで登録しておくね」
樹立は、淡々と作業に戻った。
ジェーンも、自分の机に戻り、ふぅ、とひと息吐く。
そして――
「って! これじゃ、ただのお店の宣伝じゃありませんのッ!!」
心の底からの叫びが、天守セツナの背中に向けて放たれるのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
迷いを振り切り、前を向いた彼女たちに、次なる試練(珍妙な仮名)が与えられた瞬間だった。
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第47話は、
「処刑エンド令嬢、祭の喧騒と噛みしめる幸せ」
をお送りします。
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