第43話 処刑エンド令嬢、死んだ魚の目になる
※前回の「処刑エンド令嬢」
強化合宿を経て成長したジェーン・グレイたち。
相変わらず覚子は加入を拒否するものの、
バンドはようやく軌道に乗り出すのでした
シルバーウイークが終わり、校内は文化祭に向けて一気に慌ただしくなった。
放課後の生徒会室――
長机の上には、各クラスから提出された文化祭の出し物希望書が、うず高く積まれている。
「……では、次」
ジェーンは書類を一枚取り上げ、目を通した。
「二年三組……『本気の肝試し〜校舎七不思議完全再現〜』?」
一瞬、沈黙。
「……七不思議を“完全再現”とは、どういう意味ですの?」
向かいの役員が、悪びれもせず答える。
「夜の校舎を使います」
「却下ですわ!!」
ばん、と不認可の判子台を叩く。
「次!」
「一年三組、『異世界転生カフェ〜勇者は担任〜』です」
「なぜ、教師を転生させるんですの!?」
不認可。
「三年二組、『文化祭チキチキ校内マラソン大会』」
「なぜ、文化の祭で走らせようとするんですの!!」
不認可。
生徒会室に、ジェーンの悲鳴にも似たツッコミが響き渡る。
「文化祭とは……!」
ジェーンは深く息を吸い、
「もっとこう……慎みと節度に満ちた行事であるべきですわ!!」
その様子を、少し離れた席で見ていた喜間締が、ノートパソコンの画面に目を落とし、
「……あ」
小さく声を上げる。
「どうしましたの?」
「会長。聖ヴァレリア女学院の、姫神薫子さんからメールが届いてます」
「……姫神さんから? 何かしら?」
ジェーンは自分の机にあるノートパソコンを開き、メールを閲覧する。
最初は、にこやかに。
さすがは名門校の生徒会長、といった丁寧で上品な文面に、満足そうにうなずいていた。
だが――
「……ん?」
途中で、眉がひそめられる。
さらに読み進め――
「…………」
そして、次の瞬間。
「なんですってぇぇぇぇぇッ!?」
椅子を蹴立てる勢いで立ち上がった。
*
夕方――
伊勢崎八幡神社の地下スタジオ。
機材をセッティングしながら、駒が訊ねる。
「それで……姫神さんは、なんと?」
ジェーンはギターケースを床に置き、怒りを隠そうともせず吐き捨てた。
「あの方、わたくしたちがバンドをしていることを聞きつけたらしく――」
一拍置いて、
「『わたくしたちも生徒会バンドを組んでおりますので、よろしかったらそちらの文化祭ステージに参加してもよろしくてよ?』ですって!」
拳を握りしめる。
「上から目線で、いけしゃあしゃあとヌかしやがったんですのよ!!」
「実に、姫神さんらしい物言いですね」
ジャンヌが淡々と評した。
「そういえば」
ジェーンはジャンヌを見る。
「ジャンヌは、同じ聖ヴァレリアでしたわね。その生徒会バンドとやら……どんなものなのかしら?」
「聖ヴァレリアでは、生徒会役員がバンドを組むのが恒例だそうです」
ジャンヌは即答した。
「姫神さんも一年の時から参加していたそうです。ワタシは聴いたことはないですが、実力は相当なものらしいですよ」
その言葉に、ジェーンの表情が曇る。
「……なるほど」
腕を組み、低く呟く。
「つまり、ワタクシたちのステージを食ってしまおうと。そういう魂胆ですのね……」
どんどん妄想が膨らんでいく。
「そして、ワタクシの権威を失墜させ、その隙にこの学校を乗っ取ろうと――!」
天を仰ぎ、叫ぶ。
「おのれ、姫神薫子!! このワタクシを失脚させる腹づもりですわね!!」
「……違うと思いますけどね」
ジャンヌの冷静なツッコミが、虚しく響く。
「でも、ジェーンさん」
駒が、穏やかに言った。
「講堂ステージ、まだ余裕がありますし……参加していただきましょうよ」
「げぇ〜……」
ジェーンは、心底嫌そうな顔をする。
駒はジャンヌに向き直る。
「確か、聖ヴァレリア女学院の文化祭って、私たちの翌週でしたよね?」
「そうです」
それを聞いて、駒は再びジェーンを見る。
「でしたら……私たちも、聖ヴァレリア女学院の文化祭に参加させてもらう、というのはどうでしょう?」
「ワタクシたちが……?」
一瞬考え込み――
やがて、ジェーンは不敵に笑った。
「なるほど。目には目を。歯には歯を」
ハンムラビ法典の一節を引用し、
「殴り込みには、殴り込みを……という訳ですわね」
それを今度は、プロレス的な物言いに置き換える。
「そ、そうですね……」
駒は苦笑した。
ジェーンはギターネックを握りしめ、高らかに宣言する。
「聖ヴァレリア女学院、生徒会バンド……その挑戦、正面から受けて立ちますわ!!」
*
翌日、教室内にて――
「ヴァレリアの生徒会バンド?」
ジェーンから話を聞いた覚子が、目を丸くして言った。
「それって……『HY=Society』じゃん」
「はい……そ?」
首をかしげるジェーンに、覚子はスマホを操作して、動画を再生した。
画面に映し出されたのは――
眩い照明。
割れんばかりの歓声。
「これは……?」
「去年の文化祭のライブ映像だよ。映ってるのが、『HY=Society」
ゴシックロリータの華美な衣装をまとい――
凶暴なヘヴィーサウンドを流麗な所作で奏でる――
そして、センターで歌っているのは――姫神薫子。
清らかでありながら、決して細くない。
それでいて、蠱惑的な響きを帯びた歌声。
「…………」
ジェーンは、言葉を失った。
*
その日のバンド練習。
「……ストップ」
駒がスティックを鳴らして演奏を止める。
「どうしたんですか、ジェーンさん?」
「え? 何がですの?」
怪訝そうに答えるジェーン。
「ミスが多いですし……いつもの勢いが、全然ありません」
「そんなことありませんわよ、ほら」
死んだ魚のような目で言いながら、ギターをストロークする。
――ぺろーん。
実に気の抜けた音である。
「これは重症ですね」
ジャンヌが即断する。
「やっぱり、原因はアレかなぁ」
覚子がぼそりと呟き、朝の出来事を説明する。
そして同じ動画を再生して、二人にも見せる。
「……なんでしょう。とても、同じ人間の動きとは思えません」
ツーバスを使いこなし、ダブルストロークも難なくこなすドラムスを凝視し、駒は呆然と呟く。
「ああ、神よ……ワタシは、なんとちっぽけな存在なのでしょう……」
流麗なスリーフィンガーピッキングを披露するベーシストに心を奪われ、ジャンヌは天を仰いで嘆く。
「はあああああああああああああ……」
三人そろってため息を吐き、死んだ魚の目で膝を抱える。
「ちょっとぉ!! みんな、しっかりしてよ!!」
覚子が声を張る。
「文化祭……中止にしましょう」
ジェーンが、引きつった笑顔で言う。
「出来るワケないでしょ!!」
叫ぶ覚子。
「はあああああああああああああ……」
しかし、三人の口からは、魂が抜け出しているかのようなうめき声。
「……ダメだこりゃ!」
覚子は、ついにさじを投げるのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
初めて突きつけられた“格の違い”に、三人の心が、見事にへし折れた瞬間だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第44話は、
「処刑エンド令嬢、敵を知り、己を知れば」
をお送りします。
少しでも気になっていただけましたら、
ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!




