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第42話 処刑エンド令嬢、掴んだバンドの音

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


強化合宿で連取に励むジェーン・グレイたち。

たまたま練習を見学した那波(酔っ払い)の一言で、

三人の演奏は劇的に変化するのでした

 合宿最終日の朝。


 温泉宿「翔陽(しょうよう)館」の食堂で朝食を済ませた後、ジェーン、(こま)、ジャンヌ、覚子(さとこ)の四人は、最後にもう一度、館内のスタジオへ向かった。


   *


 機材をセットし、立ち位置に着く。


「これで……最後ですわね」


 ジェーンが小さく言う。


 みんな、無言でうなずき、自然と楽器に手を伸ばしていた。


「……ひ、ふ、み、よっ!」


 (こま)のカウントで、演奏が始まる。


 まだ荒い。

 粗削りだ。


 けれど――

 迷いはなかった。


 互いの音を探り合うのではなく、

 それぞれが“自分の音”を叩きつけるような演奏。


 短い一曲が終わり、その場に余韻が残る。


「……行こっか」


 覚子(さとこ)が言い、ジェーンたちは静かにうなずいた。


   *


「女将さん、ありがとうございました」


 玄関先で、ジェーンたちは深く頭を下げた。


「こちらこそ。若い人たちが泊まってくれて楽しかったですよ」


 優しく笑う女将に見送られ、五人は宿を後にする。


 石段を下りてバスに乗り込み、帰路へ。


   *


 帰りの電車。


 揺れる車内で、しばらく沈黙が続いた後――


「……ゴメン」


 ぽつりと、覚子(さとこ)が呟いた。


「どうしたんですの?」


 ジェーンが首をかしげる。


 覚子(さとこ)は、窓の外を見つめたまま言った。


「アタシさ……キレイに演奏することとか、時間配分とか……そんなことばっか気にしてた」


 一拍置いて、続ける。


「音楽を楽しむっていう、一番大事なこと……忘れてた気がする」


 車内の揺れが、やけに大きく感じられた。


 けれど――


「それは、違いますわよ」


 ジェーンは、にっこりと笑った。


「え?」


「アナタがいてくれたからこそ、ワタクシたちは、バラバラにならずにここまで来られたんですのよ」


「……」


「そうですよ」


 (こま)も、静かにうなずく。


覚子(さとこ)さんが、練習の段取りや雑務を手伝ってくださるから、私たちは音楽に集中できるんです」


「その通りです」


 ジャンヌも、力強く言った。


覚子(さとこ)さんは……このバンドに必要不可欠な存在なのです」


 一瞬の沈黙。


 そして――


「……ありがとう」


 三人が、揃って言った。


「……な、なにそれ」


 覚子(さとこ)は、視線を逸らし、耳まで赤くする。


「急に言われると、困るんだけど」


 その様子を見て、ジェーンは確信した。


(……今なら、いけますわ)


「では、覚子(さとこ)もバンドに――」


 良い雰囲気を利用してバンドに誘い込もう、というジェーンの目論見だったが、


「それはムリ」


 間髪入れず、覚子(さとこ)は笑顔で断言した。


「それとこれとは、別問題なんで」


「なんでですのよ〜!」


 ジェーンは、身を乗り出す。


「この流れは、どう考えても“OK”のはずですわ〜!」


「ダメなものはダメ」


 覚子(さとこ)は実に(かたく)なだった。


 その時――


 横から、寝息が聞こえてきた。


「……すぅ……」


 那波(なわ)だった。


「不思議な方ですね」


 (こま)が、小さく言う。


「全然大人っぽくないのに……時々、的を射たこと言うんですよね」


 ジャンヌも首をかしげる。


「まあ……頼りないことに違いはありませんが」


 ジェーンは、那波(なわ)の寝顔を見つめ、


「捉えどころのない方ですわね」


 やれやれ、と肩をすくめて苦笑する。


「……温泉……もう飲めません……」


 寝言を漏らす那波(なわ)


「アナタが飲んだのは、お酒ですわよ」


   *


 帰宅後、休む間もなく、

 一同は伊勢崎(いせさき)八幡(はちまん)神社の地下スタジオへ向かった。


 そこには、天守(あめもり)セツナと、那波(なわ)の姿もあった。


「ほな、聴かせてもらおか」


 セツナの言葉に、ジェーンたちは顔を見合わせ、うなずく。


 そして――


 『神籬(ひもろぎ)』。


 合宿を経た、今の音を披露する。


   *


 演奏が終わる。


「……すごいです!」


 真っ先に那波(なわ)が拍手した。


 少し間を置いて、セツナが口を開く。


「ずいぶん荒々しい『神籬(ひもろぎ)』やけどな」


 一瞬、空気が張り詰める。


「……まあ」


 セツナは、ふっと笑った。


「”このバンドの音”が出とって、ええと思うよ」


「……!」


 三人は顔を見合わせ――


「やりましたわ!」


「何か、掴めた気がします!」


「確かな成長ですね!」


 ハイタッチを交わして喜び合う。


「にしても」


 セツナは、那波(なわ)に目を向ける。


「まさか、アンタがアドバイスするとは思わんかったわ」


「え?」


 那波(なわ)は、きょとんとする。


「私……本当に、アドバイスしました? 全然、記憶に無いんですけど……」


「ええ」


 (こま)が真剣に言う。


「とても身に染みました」


 ジャンヌも力強くうなずいて言う。


「まるで、神の啓示のようでした」


 それを聞いても、那波(なわ)は、う~ん、と唸る。


「アンタ、酒入ると真っ当になるんやなぁ」


「ちょっと!」


 からかうようなセツナの言葉に、那波(なわ)は抗議する。


素面(シラフ)の時がまともじゃない、みたいな言い方しないでください!」


 その時――


「それですわ、先生!」


 ジェーンが、突然声を上げた。


「え? 何がですか?」


「以前、ワタクシに相談されましたわよね?」


 ジェーンは、指を立てる。


「『生徒に舐められないようにするには、どうしたらいいか』と」


「……ええ、まあ」


 こくりとうなずく那波(なわ)に、ジェーンは満面の笑みで言った。


「お酒を飲んで授業に臨めば、きっと他の方の悩みもズバリ解決できて、一目置かれる存在になるのではなくて!?」


「なるほど!」


 一瞬、納得しかけ――


「って、それ、社会倫理的にアウトです!!」


 真顔で即答する那波(なわ)だった。



 処刑エンド令嬢(レディ)灰島(はいじま)ナデシコ――

 合宿を経て、ようやく”バンドの音”にたどり着いた瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第43話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、死んだ魚の目になる」

をお送りします。


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