表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/51

第41話 処刑エンド令嬢、成長と汗の温泉合宿②

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


強化合宿のために県内の温泉宿へやって来たジェーン・グレイたち。

到着早々スタジオに籠って練習漬け、

夜は温泉に浸かってしっかりリフレッシュするのでした

 翌朝――。


 温泉宿「翔陽(しょうよう)館」の食堂で朝食を済ませ、部屋へ戻ったジェーンたちは、思わず足を止めた。


「……まだ、寝てますわね」


 布団の上で、大の字になっている那波(なわ)の姿。

 豪快ないびきまで立てている。


昨夜(ゆうべ)、練習終わって戻って来た時も飲んでたよね……」


 覚子(さとこ)が、呆れたように呟く。


「保護者とは……一体……」


 (こま)も、困惑した表情を浮かべる。


「……まあ、放っておきましょう」


 ジェーンはため息を吐き、話題を切り替えた。


   *


 そして、少しくつろいでから、


「じゃあ、そろそろ練習に――」


 覚子(さとこ)が言いかけた、その時――


「その前に!」


 ジェーンが、ぴしっと指を立てた。


「観光しますわ!」


「えっ?」


「せっかく温泉街に来て、何も見ずに帰るなんて……それは修行以前に、非人道的ですわ!」


「いやいや……」


 覚子(さとこ)は苦笑する。


「でも合宿だよ? 強化合宿」


「気分転換も、大事だと思います」


 (こま)が、遠慮がちに続く。


「……少し散策するくらいなら、問題ないのではないかと……」


「温泉街、とても興味があります」


 ジャンヌも、目を輝かせて同意に回る。


「でも、時間が……」


 言いかけたが、口を(つぐ)覚子(さとこ)


 数秒の沈黙の後――


「……はぁ」


 覚子(さとこ)は観念した。


「分かった。でも、午前中だけだからね」


「やりましたわ!」


 ジェーンたちは、小さくガッツポーズをする。


   *


 温泉街は、石段を中心に広がっていた。


 湯気の立ち上る路地。

 土産物屋に並ぶ温泉饅頭。

 射的屋の呼び声。

 遠くに見える山の稜線。


「風情がありますわね」


 ジェーンは、石段の上から見下ろして呟く。


「こういう場所は、実に日本らしいです」


 ジャンヌも、珍しそうに辺りを見回す。


「足湯もありますよ」


 (こま)が、案内板を指差す。


 四人は、

 写真を撮り、

 饅頭と玉こんにゃくを分け合い、

 笑い合い、

 思う存分観光を楽しんだのだった。


   *


 部屋に戻ると――


「みなさん、おはようございます〜……」


 布団から起き上がった那波(なわ)が、目をこすりながらあいさつする。


「もう、昼時ですわよ」


 呆れるジェーン。


「……先生。まだ、酔ってます?」


 覚子(さとこ)(たず)ねる。


「うへへ、酔ってませんよ〜」


 にへらにへら、と笑って答える那波(なわ)を見て、


「酔ってますわね」


 ジェーンが即座に断言し、ため息を吐く。


「みなさん、これから練習行くんですよね〜?」


 それでも那波(なわ)は、ご機嫌な笑みを浮かべ、


「私も、見に行っていいですか〜?」


 などと言い出す。


 一同は顔を見合わせ、


「……まあ」


「いいですけど……」


「ウザ絡みはしないでくださいましね」


 了承すると共に、釘を刺す。


「は〜い。隅っこで大人しくしてま〜す!」


 まるで幼稚園児のように、手を上げてはしゃぐ那波(なわ)に、みんな揃ってため息を吐くのだった。


   *


 館内のスタジオ。


 機材をセットし、


「ひ、ふ、み、よっ!」


 演奏スタート。


 しかし――


「……」


 音は、やはり噛み合わない。


「……明日には帰らなければならないのに」


 演奏を止め、ジェーンが呟く。


「実質、今日一日しか残されていないというのに……」


 焦りが、声に滲む。


「何が……いけないんでしょう……」


 (こま)が首をかしげる。


「……分かりません」


 ジャンヌも、視線を落とす。


 その時――


「わあ」


 那波(なわ)が、ぽわっとした声で言った。


「ホントに、バラバラですねー」


「…………」


 一同は、ガックリと脱力する。


「でも」


 那波(なわ)は水をひと口含んでから、続けた。


「別に、無理して合わせる必要、ないんじゃないですか?」


「……?」


 ジェーンが顔を上げる。


「でも、音が合わなければ、バンドではありませんわ」


「だったら」


 那波(なわ)は、ジェーンを指差し、


灰島(はいじま)さんに、合わせてみたらどうですか?」


 意外な提案をしてくる。


「……どういうことですか?」


 覚子(さとこ)(たず)ねる。


「だって」


 那波(なわ)は、三人を見渡し、


「汗かいてるの、灰島(はいじま)さんだけですよ?」


 キッパリと言い放った。


 そう言われて覚子(さとこ)が改めて見てみると、ジェーンの額からは汗がしたたり落ち、息も少し上がっている。

 それに比べ、(こま)とジャンヌの息はほとんど乱れていなかった。


(そういえば――)


 覚子(さとこ)は、昨日の練習時でもジェーンだけが汗だくになっていたのを思い出した。


「他の二人は、合わせようとすることに必死で……全然、楽しそうに演奏してません」


 その言葉に――


 (こま)とジャンヌの目が、ハッと見開かれた。


 確かに、ジェーンの演奏はテンポもリズムも安定しない。

 だが、音のアクセントは明確で、勢いとノリがあり、“前へと進む音”だった。


 一方で――


 合わせることに集中するあまり、演奏が縮こまり、“音を出す楽しさ”を忘れていた。


「……」


 無言でうなだれる二人に、


駒形(こまがた)さんも、虹橋(にじはし)さんも」


 那波(なわ)は、柔らかく言った。


「もっと、自分のために演奏してみたらどうですか?

 技術はさておき、まずは……バンドを、楽しみましょうよ」


 二人は――


「……はい!」


 大きく、うなずいた。


   *


 再び、演奏。


 今度は――


 正確さだけだった(こま)のドラムに、強烈なアクセントが宿り、動きは大きく、ダイナミックに変貌した。


 ジャンヌのベースは、攻撃的な重低音を取り戻し、ボーカルは、腹の底から響いた。


 相変わらずバラバラだったが、ジェーンの勢いに負けまいと、(こま)とジャンヌが張り合うように全力を振り絞る。


 さっきまで“教科書どおり”だったビートが、今は牙をむいた野性みたいにうねり始めていた。


(……すごい)


 まるでしのぎを削っているかのような三人の演奏に、覚子(さとこ)は、息を呑む。


(ドキドキする……)


 初めて。

 本当に初めて。


 この“バンドの音”を、聴いた気がした。


   *


 そして、演奏が終わると、


「はぁ……っ」


 三人は汗だくになり、肩で息をしていた。


 (こま)は、自分の内に眠っていた、もうひとりの自分を解放し、ようやく、全力を出し切れた。


 ジャンヌもまた、内に秘めていた凶暴性を解き放ち、自分を表現できた。


「すごく……良かったよ!」


 覚子(さとこ)が、拍手を送る。


 ジェーンは、ペットボトルの水を一口含み、


「……まだまだ、こんなものじゃありませんわよね?」


 挑発するように言う。


「もちろん」


「当然です」


 二人は、ニヤリと笑った。


「お二人とも、ご覧になって」


 ジェーンは、そう言って鏡を指差す。


「そこに映る自分の姿――それが、観客から見える姿ですのよ」


 (こま)とジャンヌは、鏡を――正面を見すえる。


「無様な姿……見せたくありませんわよね?」


 二人は、こくりとうなずいた。


 アクセル全開にして、再び演奏開始。


 髪を振り乱し――

 汗を滴らせ――

 不敵な笑みを浮かべ――


 三人は、すべてをかなぐり捨てて、全力を出し切った。


 ――演奏終了。


 床は汗だらけ。

 息は絶え絶え。


 しばらく、誰も言葉を発せなかった。


 覚子(さとこ)は、スマホを構え、その姿を撮る。


「……みんな、すごくカッコイイよ」


 じんわりと涙を浮かべて、そう呟いた。


「若いって……いいですね……」


 那波(なわ)はそんな青春の光景を見て、しみじみと呟くのだった。



 処刑エンド令嬢(レディ)灰島(はいじま)ナデシコ――

 まだバラバラなまま、それでも初めて同じ方向に走り出した瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第42話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、掴んだバンドの音」

をお送りします。


少しでも気になっていただけましたら、

ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ