第39話 処刑エンド令嬢、修行はファンタジーです
※前回の「処刑エンド令嬢」
初めてのバイト代を得たジェーン・グレイ。
楽器屋でそれぞれの楽器を購入した三人ですが、
新しい楽器にまた指を慣らさなければならないのでした
購入したばかりの楽器での演奏がうまくいかず、小休憩を挟んでいた時だった
「――修行ですわ!!」
唐突にジェーンが声を張り上げた。
「……え?」
「……修行、ですか?」
駒とジャンヌが、ほぼ同時に首をかしげる。
ジェーンは拳を握り、鼻息も荒い。
「学園祭まで、あとひと月ほどしかありませんのよ!
このままでは、満足のいく演奏をお届けできませんわ!」
その必死さに、
「……確かに」
「時間は、あまりないですね」
三人は揃ってうなずいた。
「でもさ」
覚子が訊ねる。
「修行って、具体的に何をするの?」
その問いに、ジェーンは自信満々に胸を張った。
「こういう危機的状況の時、日本では“修行”というものを行うと聞いたことがありますわ。
己を鍛え、精神を高め、限界を突破するための伝統的手法ですの!」
どこか怪しい説明だった。
「具体的には……」
ジェーンは思い出すように指を折る。
「滝に打たれたり、山にこもって、社会と断絶したりとか」
「……え? 滝に打たれると……楽器が上手く弾けるようになるのですか?」
駒が目を丸くする。
「山にこもるだけで上達するなら、今すぐこもりましょう!」
ジャンヌが、ぐっと拳を握った。
「んな訳ないから!」
覚子が、即座にツッコむ。
「でも、ワタクシが読んだマンガには、そう書いてありましたわよ?」
ジェーンは真顔だ。
「……ソースはマンガかよ!」
さらに鋭いツッコミが飛ぶ。
「え? それでは……」
ジェーンは、心底驚いた顔になる。
「滝に打たれただけで必殺技が閃いたり、時間が外界の三百六十倍の速さで経過する部屋の中で、ひたすら修行に励んだり……」
「全部ファンタジーだから」
覚子は、容赦なく断言した。
「……なんてことですの……」
ジェーンは、その場にがくりと膝をつく。
「たった数話で、劇的に成長できると思ってましたのに……」
「完全にマンガ脳じゃん……」
覚子は、深くため息をついた。
「そんなすぐに上手くなれるなら、そこらじゅう、ミュージシャンであふれかえってるよ」
そして、はっきりと言う。
「本当に上手くなりたいなら、とにかく練習。それしかない」
「……そう……ですわよね……」
ジェーンは肩を落とした。
その時――
「そやったら」
スタジオの隅で様子を見ていた天守セツナが、口を開いた。
「強化合宿なんて、どや?」
「……強化合宿?」
ジェーンが顔を上げる。
セツナは、こくりとうなずいた。
「メンバー全員が寝食を共にして、一日中スタジオにこもって、練習三昧」
指を立てて続ける。
「これによって、コミュニケーションが深まって、自然と息も合うようになるっちゅう寸法や」
「……!」
ジェーンの顔が、ぱっと明るくなる。
「それですわ!!」
勢いよく指を突き立てた。
「共に時を過ごし、互いを理解し合う! それこそが、青春ですわ!!」
興奮を隠しきれない様子だった。
「では……」
駒が、おずおずと訊ねる。
「この神社に、泊まらせていただくということですか?」
「いやいや」
セツナは首を振る。
「さすがに参拝客の目もあるさかいな。女子高生が住み着いとる、なんて噂が立ったら、神社の面目、丸つぶれやわぁ」
「……ですよね……」
駒は、素直に納得した。
「せやけどな」
セツナは、少し声を落とす。
「知り合いのとこやったら、紹介したってもええよ」
「お知り合い……?」
ジャンヌが訊ねる。
「温泉宿の女将や。そこ、完全防音のスタジオも常備されとってな。ミュージシャンのあいだじゃ、結構人気の宿やねん」
「温泉……スタジオ……」
ジェーンの目が、きらきらと輝く。
「もし利用するんやったら、ウチが口添えしたるで?
もちろんタダとはいかへんけど、割り引いてもらえるよう、交渉はしたる」
「ワタクシ、行きたいですわ!」
ジェーンは即答した。
「違う場所で練習するのも、いい気分転換になりそうですね」
駒もうなずく。
「日本の温泉……とても興味があります」
ジャンヌも、静かに目を輝かせる。
「じゃあ」
セツナは、三人を見渡した。
「決まりやな?」
三人は――
大きく、力強く、うなずいた。
「ああ、でもなぁ」
不意に、セツナが何かを思い出したように言った。
「キミらがそこへ行くとなると、当然ウチは店を店を離れられへん。そやさかい、誰か保護者を見つけなあかんえ」
「保護者……」
その言葉を受け、一同の頭の中で真っ先に思い浮かんだ適任者は――
『温泉宿ですか? 行きます行きます!!』
「だ、そうですわ」
その人物――担任の那波は、温泉宿に割引料金で泊まれるとの甘言を電話で受けると、一も二もなく秒で合意する。
「ほんまに現金なヤツやなあ……」
その友人でもあるセツナは、思わず頭を抱えるのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
“修行”という名の勘違いから始まった話が、
本格的な強化合宿へと動き出した瞬間だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第40話は、
「処刑エンド令嬢、成長と汗の温泉合宿①」
をお送りします。
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