第36話 処刑エンド令嬢、バンド名が決まらない
※前回の「処刑エンド令嬢」
初めてギターに触れ、練習に励むジェーン・グレイ。
しかし、六弦楽器は彼女に容赦ない試練を与え、
”F”コード地獄へと誘うのでした
喫茶レストラン「舞姫」。
バイトの合間、客足の切れた時間帯。
「せーの」
合図と同時に――ジェーン、駒、ジャンヌ、覚子の四人は、一斉にフリップを掲げた。
最初に目に入ったのは、ジェーンのフリップ。
――『レディ・ジェーンズバンド』
「……」
一瞬の沈黙。
「ジェーンさんが立ち上げたバンドですものね」
駒が、控えめに言う。
「さすがジェーンさんは出しゃばり……もとい、押しが強いです」
ジャンヌの口から自然と毒が出掛かるが、すぐにそれを引っ込める。
「さすがにこれは、個人色が強すぎじゃない?」
覚子は、腕を組んで首をかしげる。
「良い名称ですのに……」
ジェーンは不満げに頬を膨らませた。
次に視線が移ったのは、駒のフリップ。
――『上州連合』
「……えっと」
覚子が、慎重に口を開く。
「なんか、実際にそういう名前の団体ありそう。半グレとかで」
「駄目ですか……?」
駒が不安そうに問うと、
「うーん……」
覚子は苦笑する。
「もしかしたら、面倒事になるかも」
「……残念です」
駒は、しゅんとフリップを引っ込めた。
次に、ジャンヌのフリップ。
――『ヘブンリー・コール』
「……神聖な召命?」
ジェーンが首をかしげる。
「はい」
ジャンヌは胸を張った。
「ワタシたちに、ぴったりだと思います」
「……なるほどね」
覚子は、少し苦笑しながら言う。
「虹橋さんって、結構……厨二なんだね」
ジャンヌは、きょとんとした。
「ワタシは、高二ですよ?」
「……」
覚子は、言葉を失った。
「では」
ジャンヌはペンを取り、
「より神聖さが増すように――」
フリップに書き足す。
――『ヘブンリー†コール』
「これなら、どうです?」
得意げに掲げる。
「……何が違いますの?」
ジェーンが真顔で訊ねると、
「“†”を、付け足しました」
ジャンヌは、ドヤ顔だった。
「ますます厨二感が増したね」
覚子が言うと、
「ワタシは、高二ですよ?」
再び、真顔のマジレス。
「オ~ゥ……」
覚子は額に手を当て、静かに天を仰いだ。
「……キミら、何やってるん?」
その時、背後から声がした。
振り向くと、天守セツナが、呆れたように立っている。
「バンド名を、各々考えてきましたのよ」
ジェーンが答える。
「ああ、そういやまだ決まってへんかったんやな」
セツナはうなずき、
「それで、決まったん?」
「いいえ。まだですわ」
ジェーンは肩をすくめる。
三枚のフリップを見比べ、
「……まあ、難儀しそうやな」
セツナは苦笑した。
「そういえば……」
ふと、ジェーンが思い出したように言う。
「まだ、覚子の案を見てませんでしたわね」
「えっ!? い、いいよ、アタシのは!」
覚子は慌ててフリップを背中に隠す。
「ワタクシたちの案にあれだけツッコんでおいて」
ジェーンは静かに立ち上がり、
「自分だけ逃げようなんて、虫が良すぎですわよ」
駒とジャンヌに目配せする。
二人は、こくりとうなずき――
「ちょ、ちょっと!?」
覚子の腕を、がっちりホールド。
「や、やめてってば!」
逃げ場を失った覚子の抵抗虚しく、ジェーンは後ろに回り込むと、簡単にフリップをひったくる。
「どれどれ……」
そして、読み上げた。
――『ラブリー♡ガールズ』
「……」
その場が凍り付く。
次の瞬間――
「プッ」
こらえきれず、セツナが吹き出した。
「ちょっとー! 笑わないでよー!!」
覚子は顔を真っ赤にして叫び、ジェーンの肩をポカポカと叩く。
「ちょ! わ、ワタクシはまだ笑ってませんわよ!!」
ジェーンは逃げながら無実を訴える。
「すまんすまん」
セツナは涙目をこすりながら言う。
「かんにんや」
そして、少し真面目な声になる。
「バンド名なんてなぁ……まあ、そのうち自然に決まるもんや」
四人を見回し、
「それより」
と言って続けた。
「実際にライブするんやったら、そろそろスタジオ入って、音合わせせなあかんで」
「スタジオ……?」
ジェーンが首をかしげる。
「バンド練習するための防音室だよ」
覚子が解説する。
「ギターとかベースをアンプに繋いで、ライブの音量で演奏すると、ご近所迷惑になっちゃうからね。だから、専用のスタジオを借りるの」
「なるほど……」
ジェーンは、納得したようにうなずく。
「より本番に向けた練習を、そこで行う訳ですのね」
駒もジャンヌも、どこか楽しそうな表情を浮かべた。
「でもさ」
覚子が、人差し指を立てる。
「夏休み中、毎日スタジオ借りるとしたら……結構な出費になると思うよ?」
その瞬間、ジェーンの顔がみるみる曇る。
「ワタクシたち……楽器を購入するために、こうして働いているのに……」
その場に、がくりと膝をつき、
「その上、スタジオ代まで必要だなんて……!」
そして、天を仰いだ。
「ああ……働けど働けど、我が暮らし……一向に、楽になる兆しが見えませんわー!!」
その様子を見て――
「……実はな」
セツナが、もったいぶった口調で言った。
「そのスタジオ代を、浮かす方法があるんやけど」
「……!」
三人が、一斉に顔を上げる。
「知りたい?」
こくこくこく、と首がそろって縦に振られた。
セツナは、ニヤリと意味ありげに笑い、
「ほな」
くるりと踵を返し、
「行きましょか?」
四人をいざなうのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
セツナの甘言に嫌な予感を感じつつも、ジェーンたちの天秤の針はあっさりとお金の方に傾いた瞬間であった。
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第37話は、
「処刑エンド令嬢、噛み合わない三つの音」
をお送りします。
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