表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/29

第27話 処刑エンド令嬢、男がすなるやきうを、すなるなり②

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


(こま)の要請により、野球部の練習試合の助っ人に駆け付けたジェーン・グレイ。

ジャンヌも加わり人数は揃ったものの、不安要素の方が大きい二人。

果たして、試合として成立するのか? いざ、プレイボール!

 ――プレイボール。


 乾いた声とともに、練習試合が始まった。


 先攻は、勅使河原(てしがわら)中女子野球部。

 清心(せいしん)女学園の面々は、守備につく。


 セカンドのポジションに就く途中で(こま)――駒形(こまがた)姫乃(ひめの)は、マウンドに立つ堀口(ほりぐち)に、小さく耳打ちした。


堀口(ほりぐち)さん。外野に打球が飛ばないよう、低めに集めてください」


「……難しいこと、簡単に言ってくれるじゃん」


 ぼやきつつも、堀口(ほりぐち)はうなずく。


 夏の公式戦を見据えた投球をしたい、という彼女の狙いにもマッチしていた。


 ――そして。


 低め、際どいコース。

 緩急をつけた投球が、相手打線を翻弄する。


 初回は無難に三者凡退。


「ナイスピッチ!」

「その調子で、次もよろしく!」


 ベンチに戻りながら、ナインがピッチャーの堀口(ほりぐち)を労う。


「……暇ですわね」


 まだライトで突っ立っているジェーンは、退屈そうに空を仰いで呟いた。




   *


 一回裏、清心(せいしん)女学園の攻撃。


「一番、虹橋(にじはし)さん!」


 審判のコールを受けて、バッターボックスへ向かうジャンヌは、


「……神よ……ワタシに力を……」


 バットを握りしめ、一心不乱に何かを呟いている。


 異様な雰囲気。


 それだけで、相手バッテリーは完全に腰が引けていた。


(な、なんか……怖い……!)


 しかし――


「どおりゃあぁぁぁぁぁッッッ!!」


 ブオンッッッ!!


 気合いのフルスイングは、完全に空回り。

 バットはボールにかすりもせず――


「ストライク、バッターアウッ!」


「……無念です……」


 ジャンヌ、あえなく三振。


「二番、灰島(はいじま)さん!」


 入れ替わりにジェーンが、バッターボックスに立つ。


 ……が。


「……重いですわ……」


 バットを構えるだけで、ぷるぷる震える。


 そして――


 ポスッ!


 ボールがキャッチャーミットに収まってから、


「……えいっ!」


 ブンッ


 ワンテンポ遅れたスイング。


「ストライク、バッターアウッ!」


 当然の三振だった。


「ガッデム! なんて理不尽な競技ですのっ!」


 不満げに審判に悪態を吐く様だけは、一流選手に引けを取らないジェーンであった。


 続く三番は、フォアボールで出塁。

 そして四番――(こま)|。


 キィィィィィンッ!!


 コンパクトなスイングでミートさせると、打球はセンター前へ転がる。


「ナイスヒット!」


 しかし後続は打ち取られ、この回は結局無得点に終わった。


   *


 そして試合は、そのまま膠着。


 三回終了時点で、0対0。


 だが――四回表。


 ついに、均衡が崩れかける。


 ここに来て、堀口(ほりぐち)の投球が、わずかに高めに浮いた。


 相手バッターはそれを見逃さず、


 ――カキンッ!


 しっかりとミート。


 打球は、高く舞い上がり――ライト方向へ。


「ふあぁ……ホント、暇ですわね」


 ライトを守るジェーンは、完全にだらけていた。


「ライトーっ! ボール行ってるーっ!」


灰島(はいじま)さん! 上! 上です!!」


 周囲が必死に呼びかけ、


「……うえ?」


 ジェーンがようやく上を向く。


 ボールは、すぐ近くまで迫っていた。


「こ、これを捕ればいいんですのよね?」


 グローブを向けて待ち構えるジェーン。


「……やっぱりムリですわっ!?」


 しかし、寸前で怖気づいてしまい、ジェーンは反射的に逃げ出してしまう。


 ボールは地面に落ち、転々と転がる。


「回れ回れ!」


 それを見て、打者はスピードを上げる。


 ようやくボールに追いついたジェーン。


「捕りましたわっ!!」


 高々と掲げる。


「投げて! 投げてーっ!」


 内野手が盛んに手を振って促す。


「な、投げればよろしいのですわね? ……ていっ!」


 大きく振りかぶり、ジェーンは手にしていたボールを――


 バインっ!


 投げたつもりが、その場に、強く叩きつけてしまう。


 バウンドしたボールが、空高く舞い上がった。


「叩きつけるんじゃなくて、投げてくださいよーっ!!」


「投げた結果が、これですわっ!!」


 仲間の不満に憤慨するジェーン。


「ラッキー!」


 そうこうしている内に、打者は三塁を蹴り――ホームへ。


(もう……ダメだ)


 誰もがそう思った、その瞬間――


 一陣の風と共に、セカンドから駆けつけた(こま)が、高々とジャンプ。


 空中で、ボールを掴むと――そのままホームへ返球。


 ギュンっ!


 空中から放ったとは思えない剛速球が、


 バスンッ!


 一直線にキャッチャーミットに収まる。


「――アウト!!」


 それは、間一髪の超ファインプレーだった。


「うおおおおお!!」

「マジでっ!?」


 グラウンドが、一気に沸き上がる。


 そんな中――


「……け、計算通りですわ!!」


 なぜか、ジェーンが誇らしげにガッツポーズ。


「いやいや、偶然だからっ!!」


 当然、周囲からツッこまれるのだった。


   *


 しかし――


 相手はついに気づいてしまった。


 ――ライトが、完全に(ザル)だということに。


 そして、徹底的にジェーン(ライト)狙い。


 (こま)の好守備で何度もカバーするが、それでも失点は避けられず――


 最終回七回裏の時点で、スコアは0対2。


   *


「一番、虹橋(にじはし)さん!」


 最後の攻撃回は好打順。


 ジャンヌは、打ち気満々でバットを構える。


 だが。


「……ジャンヌさん。今回は振らないでください」


 (こま)が、小声で指示する。


「振らなくていいんですか? ……分かりました」


 ジャンヌはうなずき、バットを構えたまま、動かない。


 ただ――


 振りたくても振れない、という苛立ちのこもった鋭い眼光で、ピッチャーを睨みつける。


(……や、ヤンキー?)


 その圧力に、相手ピッチャーの手が震える。


 ――ボール。


 ――ボール。


 ――ボール。


「フォアボール!」


 続くジェーンの打席でも、


「……ジェーンさんも、今回は振らないでください」


 (こま)が、耳元で囁く。


「分かりましたわ」


 結果――


 先ほどの影響か、相手ピッチャーは完全にコントロールを乱し、フォアボール。


 これで、ノーアウト一二塁。


 続く三番は、フライで凡退。


 そして、迎えたバッターは――


 四番、(こま)


 当然、相手バッテリーはこの強打者を敬遠。


 ……の、はずだったが――


 何と(こま)は、その敬遠球にバットを伸ばす。


 キィィィィィンッ!


 打球は、大きく開いていた一二塁間を破る。


「走れ走れっ!!」


 これにより、ジャンヌとジェーンが生還し、同点に追いついた。


 しかし後続が打ち取られ、結局、試合は2対2の引き分けで終わった。


   *


 試合後――


 ジェーンと(こま)は、並んで帰っていた。


「……野球、なかなか、おもしろかったですわね」


 ジェーンは、ドヤ顔で言う。


「……本当ですか?」


「ええ」


 まったく活躍していないにも関わらず、堂々とうなずく。


「じゃあ、また何かありましたら、助っ人お願いしますね」


「ええ、よろしくてよ」


 その時――


「すいません!」


 対戦相手の勅使河原(てしがわら)中のナインが、二人の元に駆け寄って来ると、


「握手お願いします!」


 尊敬の眼差しを向けて言う。


 ジェーンは、にこやかに手を伸ばす。


「ええ、よろしくて――」


 ――が、彼女たちはジェーンの横をすり抜け、


駒形(こまがた)さん! ありがとうございました!!」


 一直線に(こま)の前に集まり、その手を、両手で握る。


「すごかったです!」

「感動しました!」

「実物もカワイイ!」


 アイドルよろしくみんなに囲まれて、モテモテの(こま)


 一方のジェーンは、手を伸ばしたまま、静止。


「……」


 ため息と共にゆっくりと、引っ込める。


「……もう、野球は」


 そして、彼女は涙目で、


「……こりごりですわ……」


 前言を即撤回するのだった。



 処刑エンド令嬢(レディ)灰島(はいじま)ナデシコ――

 スポーツとは、努力した者が報われる世界だと痛感した瞬間であった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第28話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、スリルと涙の水着回」

をお送りします。


少しでも気になっていただけましたら、

ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ