第27話 処刑エンド令嬢、男がすなるやきうを、すなるなり②
※前回の「処刑エンド令嬢」
駒の要請により、野球部の練習試合の助っ人に駆け付けたジェーン・グレイ。
ジャンヌも加わり人数は揃ったものの、不安要素の方が大きい二人。
果たして、試合として成立するのか? いざ、プレイボール!
――プレイボール。
乾いた声とともに、練習試合が始まった。
先攻は、勅使河原中女子野球部。
清心女学園の面々は、守備につく。
セカンドのポジションに就く途中で駒――駒形姫乃は、マウンドに立つ堀口に、小さく耳打ちした。
「堀口さん。外野に打球が飛ばないよう、低めに集めてください」
「……難しいこと、簡単に言ってくれるじゃん」
ぼやきつつも、堀口はうなずく。
夏の公式戦を見据えた投球をしたい、という彼女の狙いにもマッチしていた。
――そして。
低め、際どいコース。
緩急をつけた投球が、相手打線を翻弄する。
初回は無難に三者凡退。
「ナイスピッチ!」
「その調子で、次もよろしく!」
ベンチに戻りながら、ナインがピッチャーの堀口を労う。
「……暇ですわね」
まだライトで突っ立っているジェーンは、退屈そうに空を仰いで呟いた。
*
一回裏、清心女学園の攻撃。
「一番、虹橋さん!」
審判のコールを受けて、バッターボックスへ向かうジャンヌは、
「……神よ……ワタシに力を……」
バットを握りしめ、一心不乱に何かを呟いている。
異様な雰囲気。
それだけで、相手バッテリーは完全に腰が引けていた。
(な、なんか……怖い……!)
しかし――
「どおりゃあぁぁぁぁぁッッッ!!」
ブオンッッッ!!
気合いのフルスイングは、完全に空回り。
バットはボールにかすりもせず――
「ストライク、バッターアウッ!」
「……無念です……」
ジャンヌ、あえなく三振。
「二番、灰島さん!」
入れ替わりにジェーンが、バッターボックスに立つ。
……が。
「……重いですわ……」
バットを構えるだけで、ぷるぷる震える。
そして――
ポスッ!
ボールがキャッチャーミットに収まってから、
「……えいっ!」
ブンッ
ワンテンポ遅れたスイング。
「ストライク、バッターアウッ!」
当然の三振だった。
「ガッデム! なんて理不尽な競技ですのっ!」
不満げに審判に悪態を吐く様だけは、一流選手に引けを取らないジェーンであった。
続く三番は、フォアボールで出塁。
そして四番――駒|。
キィィィィィンッ!!
コンパクトなスイングでミートさせると、打球はセンター前へ転がる。
「ナイスヒット!」
しかし後続は打ち取られ、この回は結局無得点に終わった。
*
そして試合は、そのまま膠着。
三回終了時点で、0対0。
だが――四回表。
ついに、均衡が崩れかける。
ここに来て、堀口の投球が、わずかに高めに浮いた。
相手バッターはそれを見逃さず、
――カキンッ!
しっかりとミート。
打球は、高く舞い上がり――ライト方向へ。
「ふあぁ……ホント、暇ですわね」
ライトを守るジェーンは、完全にだらけていた。
「ライトーっ! ボール行ってるーっ!」
「灰島さん! 上! 上です!!」
周囲が必死に呼びかけ、
「……うえ?」
ジェーンがようやく上を向く。
ボールは、すぐ近くまで迫っていた。
「こ、これを捕ればいいんですのよね?」
グローブを向けて待ち構えるジェーン。
「……やっぱりムリですわっ!?」
しかし、寸前で怖気づいてしまい、ジェーンは反射的に逃げ出してしまう。
ボールは地面に落ち、転々と転がる。
「回れ回れ!」
それを見て、打者はスピードを上げる。
ようやくボールに追いついたジェーン。
「捕りましたわっ!!」
高々と掲げる。
「投げて! 投げてーっ!」
内野手が盛んに手を振って促す。
「な、投げればよろしいのですわね? ……ていっ!」
大きく振りかぶり、ジェーンは手にしていたボールを――
バインっ!
投げたつもりが、その場に、強く叩きつけてしまう。
バウンドしたボールが、空高く舞い上がった。
「叩きつけるんじゃなくて、投げてくださいよーっ!!」
「投げた結果が、これですわっ!!」
仲間の不満に憤慨するジェーン。
「ラッキー!」
そうこうしている内に、打者は三塁を蹴り――ホームへ。
(もう……ダメだ)
誰もがそう思った、その瞬間――
一陣の風と共に、セカンドから駆けつけた駒が、高々とジャンプ。
空中で、ボールを掴むと――そのままホームへ返球。
ギュンっ!
空中から放ったとは思えない剛速球が、
バスンッ!
一直線にキャッチャーミットに収まる。
「――アウト!!」
それは、間一髪の超ファインプレーだった。
「うおおおおお!!」
「マジでっ!?」
グラウンドが、一気に沸き上がる。
そんな中――
「……け、計算通りですわ!!」
なぜか、ジェーンが誇らしげにガッツポーズ。
「いやいや、偶然だからっ!!」
当然、周囲からツッこまれるのだった。
*
しかし――
相手はついに気づいてしまった。
――ライトが、完全に穴だということに。
そして、徹底的にジェーン狙い。
駒の好守備で何度もカバーするが、それでも失点は避けられず――
最終回七回裏の時点で、スコアは0対2。
*
「一番、虹橋さん!」
最後の攻撃回は好打順。
ジャンヌは、打ち気満々でバットを構える。
だが。
「……ジャンヌさん。今回は振らないでください」
駒が、小声で指示する。
「振らなくていいんですか? ……分かりました」
ジャンヌはうなずき、バットを構えたまま、動かない。
ただ――
振りたくても振れない、という苛立ちのこもった鋭い眼光で、ピッチャーを睨みつける。
(……や、ヤンキー?)
その圧力に、相手ピッチャーの手が震える。
――ボール。
――ボール。
――ボール。
「フォアボール!」
続くジェーンの打席でも、
「……ジェーンさんも、今回は振らないでください」
駒が、耳元で囁く。
「分かりましたわ」
結果――
先ほどの影響か、相手ピッチャーは完全にコントロールを乱し、フォアボール。
これで、ノーアウト一二塁。
続く三番は、フライで凡退。
そして、迎えたバッターは――
四番、駒。
当然、相手バッテリーはこの強打者を敬遠。
……の、はずだったが――
何と駒は、その敬遠球にバットを伸ばす。
キィィィィィンッ!
打球は、大きく開いていた一二塁間を破る。
「走れ走れっ!!」
これにより、ジャンヌとジェーンが生還し、同点に追いついた。
しかし後続が打ち取られ、結局、試合は2対2の引き分けで終わった。
*
試合後――
ジェーンと駒は、並んで帰っていた。
「……野球、なかなか、おもしろかったですわね」
ジェーンは、ドヤ顔で言う。
「……本当ですか?」
「ええ」
まったく活躍していないにも関わらず、堂々とうなずく。
「じゃあ、また何かありましたら、助っ人お願いしますね」
「ええ、よろしくてよ」
その時――
「すいません!」
対戦相手の勅使河原中のナインが、二人の元に駆け寄って来ると、
「握手お願いします!」
尊敬の眼差しを向けて言う。
ジェーンは、にこやかに手を伸ばす。
「ええ、よろしくて――」
――が、彼女たちはジェーンの横をすり抜け、
「駒形さん! ありがとうございました!!」
一直線に駒の前に集まり、その手を、両手で握る。
「すごかったです!」
「感動しました!」
「実物もカワイイ!」
アイドルよろしくみんなに囲まれて、モテモテの駒。
一方のジェーンは、手を伸ばしたまま、静止。
「……」
ため息と共にゆっくりと、引っ込める。
「……もう、野球は」
そして、彼女は涙目で、
「……こりごりですわ……」
前言を即撤回するのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
スポーツとは、努力した者が報われる世界だと痛感した瞬間であった。
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第28話は、
「処刑エンド令嬢、スリルと涙の水着回」
をお送りします。
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