第26話 処刑エンド令嬢、男がすなるやきうを、すなるなり①
※前回の「処刑エンド令嬢」
聖ヴァレリア女学院生徒会の表敬訪問を受けるジェーン・グレイ。
現れたのは、金髪ドリルを備えた現役の財閥令嬢・姫神薫子。
新旧お嬢さまの対面は、思わぬ友情を育んだのでした
その週末――
清心女学園のグラウンドは、朝から爽やかな風に包まれていた。
本来ならば、今日は中等部女子野球部の練習試合の日。
相手は、近隣校の勅使河原中女子野球部。
公式戦ではないものの、部員たちはこの日を楽しみにしていた――はずだった。
……しかし。
「……どうしましょう?」
グラウンドの片隅で、駒――駒形姫乃は、集まった部員たちの顔を見回した。
「三枝さんと水嶋さん、朝から発熱で欠席だそうです……」
「マジか~……」
女子野球部の部員数は、ぎりぎり九人。
つまり――
「これじゃ……試合、できないよね」
「相手に、断りの連絡入れるしか……」
人数が足らず、沈んだ空気がその場に広がる。
その時だった。
「……私にひとつ、宛てがあります」
ぽつりと、駒が言った。
「え?」
「本当、ヒメっち?」
部員たちが一斉に振り向く。
駒は、少しだけ考えるような間を置いてから、スマホを取り出した。
「……ダメ元ですけど。もしかしたら、来てくれるかも」
そう言って、グループチャットを送信する。
相手は――
ジェーン・グレイ――灰島ナデシコ。
そして、ジャンヌ・ダルク――虹橋オトメ。
(さすがに急すぎるし……無理、ですよね)
内心そう思いながら、スマホを伏せた――
その、直後。
ぴろん。
ぴろん。
「……え?」
画面を見る。
【了解ですわ。今からそちらに向かいますわ!】
【もちろん行きます。神は助け合いを望まれています】
「……即決?」
駒は、思わず目を丸くした。
*
それから、十分後。
「お待たせいたしましたわ!」
グラウンドの入口から、聞き慣れた声が響く。
高等部の制服姿で、胸を張って歩いてくるジェーン。
その隣には、聖ヴァレリア女学院の制服を着たジャンヌの姿もあった。
「お呼びとあらば、どこへでも参りますわよ、駒!」
穏やかな笑みで、縦ロールを掻き上げるジェーン。
「駒さんのお困りごととあらば、放ってはおけません」
そして、肩に愛用の金属バットを担いでいるジャンヌ。
「お二人とも……本当に助かります!」
駒が深々と頭を下げると、
「ありがとうございますっ!」
部員たちも、それに倣い頭を下げる。
ジェーンが、ふと首をかしげる。
「ワタクシ、高等部ですけれど……試合に出ても、よろしいのかしら?」
「ワタシも……他校の者なのですが……」
ジャンヌも、控えめに手を挙げる。
駒は、即答した。
「今日は練習試合ですし、公式戦じゃありませんから。大丈夫だと思います」
「なら、よかったですわね」
「感謝します」
こうして――
ジェーンとジャンヌは、更衣室で予備のユニフォームに着替え、頭数だけは、なんとか揃った。
……問題は。
「お父様がよく野球を見てらしたので、ワタクシも少し興味があったんですのよ」
そう言ってバットに手を伸ばすが、
「重っ! ムリですわ! ワタクシ、肉じゃがの入ったお弁当箱より重いものは持てませんわっ!」
と、早々に弱音を吐くジェーン。
「野球とはつまり、このバットで相手をボコボコに打ち負かせばいいんですよね?」
使い込まれた自前バットを見つめながらニヤリと笑い、
「んんん……間違ってはいないんだけど、なんかニュアンスが物騒すぎっ!!」
と周囲にツッこまれるジャンヌ。
(さすがに、この二人はどうにもならないんじゃ……)
途端に、部員たちがざわつき始める。
駒は、冷静に状況を分析した。
――ジェーンは、致命的な運動音痴。
――ジャンヌは、運動神経は並以上だが、とにかく好戦的。
考えた末、駒は二人にポジションを告げる。
「……じゃあ、ジェーンさんはライトで」
「らいと?」
「そこは、守備が下手な人が……もとい、ボールがあまり飛んでこない場所なんですよ。……たぶん」
「なるほど。ワタクシは、そこにどんと構えていればよろしいんですわね!」
自信満々に納得するジェーン。
「ジャンヌさんは、ファーストで」
「ファーストですね」
「はい。そこでこう……ベースに足を付けた状態で待ち構えて、味方が投げたボールをミットで受け止めてください」
「なるほど、城塞死守ですね。お任せください!」
こちらも、力強く応じるジャンヌ。
これで、守備の布陣が一応完成した。
*
やがて、グラウンドの外から声がかかる。
「清心さん! お待たせしました!」
勅使河原中女子野球部の一団が、到着した。
事情を説明すると、相手の監督は笑顔でうなずく。
「練習試合ですし、人数合わせなら構いませんよ」
「ありがとうございます!」
こうして――
少々(かなり)不安要素は多いものの、
清心女学園中等部女子野球部の練習試合は、無事に開始されることになった。
ライトに立つ、令嬢。
ファーストに構える、聖女。
――果たして、この試合は、無事に終わる……というか、成立するのだろうか?
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
ルールすらよく知らないまま、戦場に降り立った瞬間であった。
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第27話は、
「処刑エンド令嬢、男がすなるやきうを、すなるなり②」
をお送りします。
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