第25話 処刑エンド令嬢、ホンモノの令嬢に会う
※前回の「処刑エンド令嬢」
保健室で目を覚ました金髪少女と話をするジェーン・グレイ。
彼女は同じく悲劇をまとい処刑された、ジャンヌ・ダルクの転生体でした。
しかし、前世が前世だけに、二人の相性はかなり最悪なのでした
姫神薫子
――――
「今、駒形さんが正門まで、聖ヴァレリア女学院の生徒会の方々をお迎えに行っております」
喜間締が続けて報告すると、
「……そう」
ジェーン・グレイ――灰島ナデシコは、小さく呟き、
(昨日のアレは、やはり正式なごあいさつではありませんでしたのね……)
ようやく気を取り直し、背筋を伸ばした――その瞬間。
「……あっ」
ジェーンの顔色が変わった。
「ど、どうしました?」
と喜間締。
「こんなことなら……!」
ジェーンは、悔しげに胸元を押さえる。
「ちゃんとドレスを用意しておくべきでしたわ!!」
「……は?」
間の抜けた声を出したのは、樹立だった。
「由緒正しき超一流校の生徒会が表敬訪問に来るんですのよ!? こちらも相応の礼装で迎えるのが礼儀というものでしょう!」
「どこの世界に、ドレスアップしてあいさつに来る生徒会がいるのよ!」
樹立は即座に返す。
「いるかもしれませんわ!」
「いないから!」
言い切った、その時だった。
こんこん。
控えめなノックの音。
「会長」
扉が開き、駒――駒形姫乃が一礼する。
「聖ヴァレリア女学院生徒会の方を、お連れしました」
ジェーンは、胸を張ってうなずく。
「どうぞ、お入りになって」
――次の瞬間。
「……!」
生徒会室の空気が、完全に停止した。
現れたのは、金色の豊かな縦ロール。
それも、見事というほかない、完璧な縦ロール。
長身。
抜群のプロポーション。
そして――
社交界にでも赴くかのような、きらびやかなドレス姿。
「……」
誰もが言葉を失う中、最初に声を上げたのはジェーンだった。
「ほら!!」
勢いよく指をさす。
「いらっしゃるじゃありませんのっ!! ドレスアップしてあいさつに来る生徒会!!」
「いやいやいや、みんなおかしいから……」
樹立は、とうとう頭を抱えた。
そんな中、金髪縦ロールの少女は、優雅に一礼する。
「はじめまして」
澄んだ、よく通る声。
「わたくし、聖ヴァレリア女学院の生徒会長をしております、姫神薫子と申します。よろしくお願いいたしますわ」
そう言って、気品あふれる所作で手を差し出した。
姫神薫子――
日本を代表する大財閥『高千穂グループ』総裁の娘であり、正真正銘筋金入りのお嬢様である。
「……」
一瞬、圧倒されながらも、ジェーンは我に返る。
髪を掻き上げ、一歩前へ。
「はじめまして。ワタクシ、清心女学園生徒会長の灰島ナデシコですわ。以後、お見知りおきを」
そして、その手を取った。
――ぎりっ。
自然と、力が入る。
相手も負けじと力を入れ返す。
――ぎりっ、ぎりっ!
にこやかな笑顔と、その裏で繰り広げられる地味な攻防。
そして、互いの額には、はっきりと青筋が浮かび上がる。
(……なかなか、やりますわね)
(……面白い方ですわ)
まるでタイミングは計ったかのように、二人は同時に手を放す。
席に着き、お茶が用意される。
「まあ、美味しいアールグレイですわね!」
紅茶をひと口含むと、薫子は感嘆の声を上げる。
「トワイニングのレディ・グレイですわ」
胸を張って答えるジェーン。
「わたくしも、よくキャッスルトンのダージリンを嗜みますのよ。オホホホホホッ!」
「まあ、ステキな成金趣味ですわね。オホホホホホッ!!」
二人の高笑いが、室内にキンキンと響く。
そして、まるでタイミングは計ったかのように、二人はピタリ笑いを止め、けん制するように睨み合う。
次に始まったのは、
「わたくし、別荘は箱根にありますのよ」
「まあ。ワタクシは、テムズ川を望む館を所有してましたわよ(前世)」
「実家の調度品は、先祖代々受け継がれたものを使用しておりますわ」
「王室御用達の職人に、特注で作らせておりましたわ(前世)」
「わたくし、サモエドを飼っておりますのよ」
「ワタクシは、キタリスを飼っておりましたわ(前世)」
ブルジョア自慢合戦だった。
やがて、話題が尽きる。
沈黙。
しかし――不思議と、居心地は悪くない。
(……この方、本物ですわ)
(……伊達に会長を名乗っておりませんわね)
薫子が、ふっと微笑んだ。
「このわたくしと、真っ向から立ち向かえる方がいるとは……」
静かに言う。
「来た甲斐があったというものですわ」
ジェーンも、深くうなずいた。
「アナタこそ」
まっすぐに視線を返す。
「まさかこの時代に、貴族の義務を備えた方にお会いできるとは、思いませんでしたわ」
二人は立ち上がり――
がっちりと、握手を交わす。
傍から見れば、実に美しい友情の証。
しかし――
「……何、この茶番劇?」
ただひとり、樹立だけが冷静に呟いた。
*
「帰りますわよ、菊池」
ややあって、薫子は、後ろに控えていた聖ヴァレリア女学院の制服姿の少女に声をかける。
「本日は、ありがとうございました」
そう言い残し、二人は生徒会室を後にした。
扉が閉まり――
「……ふぅ」
ジェーンは、大きく息を吐いた。
「お疲れさまでした、ジェーンさん」
駒が、労わるように微笑む。
「そうだ、これから……もんじゃ焼き、食べに行きませんか?」
「……もんじゃ焼き?」
ジェーンは、首をかしげる。
駒は、簡単に説明した。
「鉄板で、いろんな具を混ぜて焼いて食べる、下町の料理です」
「……なるほど」
少し考え――
「たまには、そういった庶民的なお店も、悪くありませんわね」
*
そして――
入ったもんじゃ焼き屋。
「……あら?」
鉄板の向こうから、聞き覚えのある声。
「奇遇ですわね?」
そこには。
もんじゃ焼きを、驚くほど優雅な所作で食している姫神薫子と、菊池の姿があった。
「……」
ジェーンは、一瞬だけ言葉を失い――
(意外と庶民的でしたのね……)
ドレス姿のままもんじゃ焼きを頬張る現役令嬢の姿を見て、心の中で喝采を送るのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
真の令嬢とは、場所を選ばないと知った瞬間であった。
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第26話は、
「処刑エンド令嬢、男がすなるやきうを、すなるなり①」
をお送りします。
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