第24話 処刑エンド令嬢、ステキで最悪なその出会い
※前回の「処刑エンド令嬢」
週末に終末相談所を開設したジェーン・グレイ。
そこへ、以前見かけた金髪の少女が現れ、
彼女はなぜかジェーンを敵視して追い掛け回すのでした
保健室には、午後の柔らかな光が差し込んでいた。
ベッドが二つ。
その上で、二人の人物が静かに眠っている。
ひとつは、金色の髪を持つ少女――虹橋オトメ。
もうひとつは、スーツ姿のまま、仰向けに伸びきった那波侑。
「……」
その様子を、腕を組んでじっと見つめるジェーン。
(……)
金髪少女の寝顔を見た、その瞬間。
「……あっ」
唐突に、記憶が蘇った。
(そうですわ……!)
聖ヴァレリア女学院――
由緒正しき令嬢が通う超一流校――
(確か、聖ヴァレリアの生徒会が、明日……日曜日に表敬訪問に来る予定でしたわね……?)
ぴきっ、とこめかみが引きつる。
「……おのれ、聖ヴァレリア女学院……!」
ジェーンは、拳を握りしめた。
「明日来ると油断させておいて、その前日に刺客を送り込んで不意打ちとは……卑劣ですわっ!!」
「えっ?」
隣で控えていた駒――駒形姫乃が、目を丸くする。
「あいさつって……そういう意味だったんですか?」
「違うのですか?」
「……普通は、そういう意味じゃないと思いますけど」
その時。
「……う……」
金髪少女が、小さく呻き声を上げた。
ゆっくりと目を開き、上半身を起こす。
「……ここは……?」
「目を覚ましたみたいですわね。ここは学園の保健室ですわ」
ジェーンは、状況を簡単に説明する。
「……ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした」
さっきまでの暴走っぷりとは打って変わり、彼女はすぐに姿勢を正し、深く頭を下げた。
「最近、どうにも血の気が多くなってしまいまして……気づくと、暴力的な行動に出てしまうのです」
心底反省した様子で、胸元に下げた十字架を握りしめる。
ジェーンと駒は、互いに視線を交わし――
そして、同時に小さくうなずいた。
「……アナタ、もしかして――」
そして、問いかける。
「その体に“転生”なさったのではなくて?」
金髪少女は、目を大きく見開いた。
「……どうして、それを……?」
ジェーンは、軽く咳払いをしてから答える。
「実は……ワタクシも、前世の記憶を持っておりますの」
「私も、です」
駒も、静かに続けた。
二人はそれぞれ、自分たちの過去――処刑された前世と、転生の経緯を簡潔に語る。
話を聞き終えた金髪少女は、静かに目を閉じ、十字架を胸に当てた。
「……なるほど」
そして、厳かに祈る。
「ワタシ以外にも……神のご加護によって、奇跡を体現された方々がいらっしゃったのですね……」
やがて、目を開いて背筋をピンと伸ばし、はっきりと告げる。
「ワタシは、ジャンヌ・ダルク。神の啓示を受け、祖国のために戦い――最後は、魔女として裁かれた者です」
「……!」
「……!!」
ジェーンと駒は、同時に息を呑んだ。
その名を、二人は知っていた。
「……あの、ジャンヌ・ダルク……?」
「まさか……ご本人……?」
「はい」
ジャンヌは、穏やかにうなずく。
「……私は、神の名のもとに誓います。嘘は申しません」
有名人の登場に少し気後れするが、これまでの言動を振り返ると、確かに本人なのだろう、と納得させられるようなものばかりだった。
「神のご加護、とおっしゃってましたが……」
ジェーンが、慎重に問いかけた。
「死の間際、不思議な声を聞きませんでしたか?」
「……はい」
ジャンヌは、迷いなく答える。
「『もしも生まれ変われるのなら、次はただの娘として、平和な世界に生きたい』と。そう願った直後、確かに声が聞こえました」
静かに、しかし確信をもって。
「『その願い、しかと聞き届けました』――と。あれは、紛れもなく神の声でした」
その言葉に、ジェーンと駒は黙ってうなずいた。
――間違いない。
自分たちと、同じだ。
(ここまで断言できるなんて、スゴイですわ。ワタクシは、まだ半信半疑ですのに……)
共通の神を信じる者同士のはずなのに、信仰心――想いの強さの違いを感じて、少し考えさせられるジェーンだった。
*
夕方――
三人は校舎を出て、並んで歩いていた。
話題は自然と、ジャンヌの“宿主”――虹橋オトメについてになる。
「確か、アナタの宿主も事故に遭ったと、お伺いしましたが?」
ジェーンの問いに、
「はい。バイクに乗っていた時に……」
ジャンヌは、少し困ったように語る。
「道路に飛び出してきた仔猫を避けようとして、転倒したそうです。そのまま電柱に……衝突してしまったとか(目撃者談)」
「……意外と、お優しい方でしたのね」
「そうですね……」
ジェーンと駒は、素直に感心した。
門の前で立ち止まり、ジェーンがにこやかに手を差し出す。
「数奇な運命を――悲劇を背負わされた者同士これから、よろしくお願いしますわね。ジャンヌさん」
「ジェーンさん……」
ジャンヌは、そっとその手を握り――
ぎりっ。
思いきり力を込めた。
「……馴れ馴れしくしないでいただけますか」
そして、鋭い眼光と、低い声を向けてひと言。
「クソイングランド人」
「ひぃっ!?」
突然の豹変に、ジェーンは情けない声を上げて縮み上がる。
「……っ!? ご、ごめんなさいっ!! 不意に宿主の影響が出てしまうんです!」
ジャンヌは、ハッと我に返り、慌てて手を離す。
(こ、◯されるかと思いましたわ……!)
まだバクバクと暴れる心臓を抑えながら、
(本当に……それだけなのかしら……?)
ジェーンは、内心で疑念を抱いた。
(……フランス人と、イングランド人。カトリックと、プロテスタント。この方とは、潜在的に相性が最悪なのかも知れませんわね……)
恐る恐る振り返る。
ジャンヌはもう、いつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
はあ、とため息を吐くジェーン。
不意に――
(あら? ……そういえば何か、忘れているような気がしますけれど……)
一瞬、引っかかりを覚えるが、
(まあ、すぐに思い出せないのなら、大したことではありませんわね)
そう結論づけ、三人はそのまま校門を後にした。
*
――しばらくして。
夕刻の保健室。
「……あれ?」
那波侑が、ゆっくりと目を覚ました。
周囲を見回すが、誰もいない。
「私……なんで、こんなところで寝てたんでしょう……?」
完全に忘れ去られてしまった那波は、訳が分からずただ首をかしげるのだった。
*
そして翌日――
生徒会室にて――
「会長」
ノックの後、喜間締が扉を開けて告げる。
「聖ヴァレリア女学院の生徒会の方が、いらっしゃったそうです」
「……あら?」
ジェーンは、きょとんとして、
(昨日のアレが……ご挨拶ではなかったのですの……?)
首をかしげるのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
本当の“あいさつ”はこれからだ、と知った瞬間であった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第25話は、
「処刑エンド令嬢、ホンモノの令嬢に会う」
をお送りします。
少しでも気になっていただけましたら、
ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!




