第23話 処刑エンド令嬢、終末の惨劇を見る
※前回の「処刑エンド令嬢」
放課後、街中で絡まれる八塚見を見かけたジェーン・グレイ。
そこへ、聖ヴァレリア女学院の制服を着た金髪の少女が現れ、
必死に愛と平和を説くのでした
土曜日の午後。
陽射しは強く、風は生ぬるい。
それにもかかわらず――
「……忙しいですわね」
ジェーン・グレイ――灰島ナデシコは、生徒会室の簡易テーブル越しにため息をついた。
張り紙に書かれた文字。
――「美少女生徒会長の終末相談所」
その効果は、想像以上だった。
「次の方、どうぞ」
ジェーンが促すと、入れ替わり立ち替わりで生徒や外部の来客が訪れる。
恋愛相談、進路の悩み、家庭の愚痴、果ては「人生がつらい」という漠然とした訴えまで。
「なるほど……それは大変でしたわね」
「お気持ちは分かりますわ」
「では、紅茶を一杯いかがかしら?」
横では駒――駒形姫乃が、静かに書類をまとめ、紅茶を配り、的確に補足を入れていく。
まさに名コンビであった。
(……あの方のことは、気になりますけれど)
昨日起きた出来事が、ふと脳裏をよぎる。
金髪の少女――
聖ヴァレリアの狂犬――
十字架――
(今はそれどころではありませんわね)
ジェーンは気持ちを切り替え、次の相談者へ視線を向けた。
――と。
ノックの後に生徒会室のドアが、ガラッ、と音を立てて開いた。
入ってきたのは、ひとりの女性。
フード付きのロングコートに全身を包み、顔の大半を影に隠している。
汗ばむほどの陽気だというのに、異様なまでの重装備。
(……暑くないのかしら?)
ジェーンと駒が同時に不審を感じる中、女は低い声で問いかけた。
「……ここは、罪の告解をする場所ですか?」
沈黙。
ジェーンは一瞬だけ考え――
「まあ……そんなところですわ」
と、あっさり答えた。
「それでは……」
女は一歩踏み出し、声を強める。
「貴女は、神のしもべ。崇高なる修道女なのですね?」
「ええ」
ジェーンは胸を張る。
「ワタクシは神のしもべ。敬虔なプロテスタントの信徒ですわ」
――次の瞬間。
女は勢いよく立ち上がった。
ばさっ!!
フードとコートが床に投げ捨てられる。
「ついに……!」
金色の髪が露わになる。
「ついに化けの皮がはがれましたね、この異教徒めっ!!」
「……あら?」
そこに立っていたのは――
「……虹橋、オトメさん?」
聖ヴァレリア女学院の制服。
鋭い眼差し。
そして――
がしり。
彼女が構えたのは、金属バットだった。
ところどころが凹み、明らかに“使い込まれている”。
「よくも……!」
オトメは、皺くちゃのチラシを突きつける。
それは、ジェーンが作った「終末相談所」のチラシであった。
「よくもワタシの縄張りで、迷える仔羊たちをかどわかしてくれましたね!!」
「縄張りって……なんのことですの?」
「しらばっくれても無駄です。この異教徒めっ!!」
バットが振り上げられる。
「ワタシがどれだけ、彼らに“愛と平和”を説いてきたと思っているんですか!」
それを、ジェーン目掛けて振り下ろす。
「ジェーンさんっ!」
「逃げますわよ!!」
次の瞬間、生徒会室は完全撤退モードに入った。
ジェーンと駒は左右それぞれから一斉に飛び出し、金髪少女をかわして廊下を疾走する。
「待ちなさいぃぃぃ!!」
後ろから、金属バットを振り回しながら追ってくるオトメ。
――土曜日の校舎は、静まり返っていた。
その静寂を切り裂く、足音と怒号。
「ジェーンさん、あの人に何したんですか?」
「知りませんわ! なぜ追い掛け回されるのか……さっぱり分かりませんわっ!」
体力に自信のある駒は余裕の表情だが、運動音痴のジェーンは早くも息が上がっている。
「神の裁きを受けるのですーーーっ!!」
その後ろを、金属バットを振り上げながら金髪少女が鬼気迫る表情で追う。
曲がり角――
階段――
廊下――
まるでコントのような追いかけっこが続く。
そして――
「……ん?」
資料室で資料の整理をしていた那波侑が、異様な足音と怒号を耳にして、部屋のドアを開けて顔を出した。
両腕には、古い巻物の山。
ひゅん!
目の前を、二人の少女が駆け抜ける。
「あら? 今の、灰島さん?」
そして、廊下に足を踏み出した、その瞬間――
「神の裁きをぉぉぉっ!!」
恐ろしい形相のオトメが、廊下の向こうから現れた。
「ひいぃぃぃっ!?」
那波は驚き、思わず巻物を床に落とす。
コロコロ、と転がる巻物。
――次の瞬間。
オトメがその上に足を滑らせた。
「……あ」
バランスを崩し――
どさぁっ!!
後ろ向きに転倒。
バットが宙を舞い、オトメはそのまま気絶した。
「だ、大丈夫です――」
那波が恐る恐る覗き込んだ、その時――
――ごんっ!!
「か”っ!?」
落下してきた金属バットが、那波の後頭部を直撃。
「ふにゅうぅ……」
そのまま、オトメの上に倒れ込み――
二人仲良く気絶してしまうのだった。
――数秒後。
様子をうかがいながら戻ってきたジェーンと駒が、その光景を目にする。
廊下に転がる、金属バット。
折り重なって倒れる、オトメと担任教師。
それを見て、しばらく沈黙。
「……えっと」
ジェーンは、ゆっくりと口を開いた。
「……これ、どう処理すればいいんですの?」
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
新たな“同類”は、想像以上に厄介だったと痛感した瞬間であった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第24話は、
「処刑エンド令嬢、ステキで最悪なその出会い」
をお送りします。
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