表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/27

第22話 処刑エンド令嬢、忍び寄る金色の影

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


ティータイムを楽しみたい、と考えたジェーン・グレイ。

そのために週末に相談所を開催したら、思わぬ大盛況

しかし、そんな彼女の元に、怪しい影が忍び寄るのでした

 放課後の街は、まだ少しだけ昼の名残を残していた。

 制服姿の学生たちが行き交い、商店街には夕飯前のざわめきが漂っている。


 ジェーン・グレイ――灰島(はいじま)ナデシコは、隣を歩く(こま)――駒形(こまがた)姫乃(ひめの)と並びながら、前日のことを思い出した。


「……全部配り終えられて、よかったですわ」


 前日に行った、「美少女生徒会長の終末相談所」のチラシ配布。

 想像以上に人目を集め、想像以上に疲労も溜まった。


「お疲れさまでした、ジェーンさん。あれだけ配れば、きっと相談も来ますよ」


「また、騒がしい週末になりそうですわね」


「でも、紅茶はほどほどにしないといけませんよ」


 穏やかに微笑む(こま)に、ジェーンはうなずき――そして、ふと眉をひそめる。


(……それにしても)


 あの時――

 チラシを受け取る人混みの中で、一瞬だけ感じた“殺気”ような不穏な気配。


 金色の髪――

 鋭い視線――

 どこか、懐かしいような――いや、因縁めいた気配。


(気のせい……だったのかしら?)


 考え込みかけた、その時。


「……っ!」


 路地裏から、鋭い声が響いた。


「だからさぁ! ウチらにケンカ売ってんの?」


「は? 意味わかんねーんだけど!」


 女の声。

 しかも、複数。


 ジェーンと駒は、同時に足を止め、顔を見合わせた。


「……嫌な予感がしますわね」

「……はい」


 そっと路地裏を覗く。


 そこにいたのは――


「あら? あれは同じクラスの……八塚見(やつかみ)さん?」


 壁際に追い詰められた八塚見(やつかみ)が、他校のヤンキー女子高生三人に囲まれていた。

 相手は明らかに喧嘩慣れした雰囲気で、腕を組み、値踏みするような目を向けている。


「アンタさ、ウチらの後輩に変なこと言ったらしいじゃん?」

「知らねーよ。勝手に絡んできたのはそっちだろ」


 八塚見(やつかみ)は強気だが、状況は分が悪い。


 ――その瞬間。


「お待ちなさいっ!」


 凛とした声が、路地裏に響いた。


「複数でひとりを取り囲むなんて、卑怯の極みですわよ!!」


 ヤンキー女子高生たちが、一斉に振り向く。


「……あ? 誰がヒキョーだって?」

「てか、誰だよ、アンタ?」


 ジェーンは、胸を張って一歩前に出た。


「やましいことがないのなら、人前で堂々と言明すればいいのです。こんな閉所でコソコソ言い争うなんて、陰湿でまったく美しくありませんわね」


 止まない正論口撃。


「ムカつくんだけど!」


 次の瞬間、短気そうなひとりが、躊躇(ちゅうちょ)なく詰め寄り――


 がしっ。


 ジェーンの胸倉を掴んだ。


「ジェーンさん!」


 (こま)が声を上げる。


 しかしジェーンは、怯むどころか、さらに挑発するように言い放った。


「……気に食わない、言い返せないから、力づくで黙らせる? ホント、単細胞のおバカさん、ですわね」


「っ!? んだと、コラ――」


 その時だった。


「いけませんっ!!」


 澄んだ、よく通る声。


 路地の入り口に、ひとりの少女が立っていた。


 金色の髪――

 (セント)ヴァレリア女学院の制服――

 そして――手には、十字架。


「暴力は、何も生みません!」


 少女は、真剣な表情で十字架を胸に掲げる。


「怒りは、さらなる怒りを呼ぶだけです。愛と平和こそが、その荒んだ心を救えるのです!」


「……は?」


 路地裏に、数秒の沈黙が落ちた。


 ヤンキー女子高生たちは、意味が分からないという顔で互いを見やる。


 その沈黙を、少女は軽々と破った。


「イエスはこうおっしゃいました。『剣を取る者は、剣によって滅びる』と」


 ずいっ、と詰め寄り、マタイ福音書の一文を引用して訴える。


 ヤンキー女子高生たちは、露骨に顔をしかめた。


「何、宗教?」

「マジでうざ……」


 だが、次の瞬間。


 誰かが、息を呑む音がした。


「……っ、待て」


 ひとりが、少女の制服と顔を凝視し――


「ま、まさか……」


 そして、顔色を変える。


「せ……『(セント)ヴァレリアの狂犬』……!?」


 空気が、一変した。


「げえぇっ!?」

「やべぇ、マジじゃん!」

「逃げんぞ!」


 ヤンキー女子高生たちは、蜘蛛の子を散らすように路地裏から逃げ出した。


「……あぁ……」


 金髪少女は、肩を落とした。


「また……逃げられてしまいました……」


 しょんぼりと呟くその姿は、あまりにも純粋だった。


「……」


 深いため息を吐き、沈黙を破る、八塚見(やつかみ)


「……で? 恩を着せたつもりかよ」


 ジェーンは、胸を張って即答する。


「ええ。その通りですわ!」


「は?」


「アナタに恩を売って、一生ワタクシに逆らえないようにするつもりでしたの」


 にやり。

 少しだけ、悪い顔。


「……ホントにイイ性格してんな……」


 八塚見(やつかみ)は、呆れ半分、苦笑半分でそう言った。


 ジェーンは、ふと振り返る。


「ですが、結局はあの方に助けられてしまいましたわね」


 ――しかし。


 そこに、金髪少女の姿はなかった。


「あら? いつの間に……」


 路地の入口にも、もう誰もいない。


「どなたなのかしら? 確か、『(セント)ヴァレリアの狂犬』とか……」


 首をかしげるジェーンに、八塚見(やつかみ)が言った。


「あれは、虹橋(にじはし)オトメだ」


 (こま)が思い出すように言う。


(セント)ヴァレリアって……由緒正しき令嬢が通う、超一流校ですよね? とても、“狂犬”と呼ばれるような方には見えませんでしたが……」


「今はな」


 八塚見(やつかみ)は肩をすくめ、


「でも元々は、バイクを乗り回して、ナンパ野郎どもを根こそぎ締め上げてた、札付きのヤンキーだったんだぜ」


 淡々とした口調で説明する。


「それが、事故に遭ったとかでさ。別人みてぇに、愛だの平和だの説教するようになったんだとよ」


 ――事故。


 ――別人のように。


 ジェーンと(こま)は、顔を見合わせた。


(……やはり)

(……同じ、ですわね)


 ジェーンは、無意識のうちに拳を握る。


 昨日感じた、“殺気”――


 その時も、金色の髪がちらりと映った。


 そして、先ほどの金髪少女からも、只者ではないオーラのようなものを感じていた。


(……あの方、おそらく気づいていないのですわね。逃げられている理由が、ご自身にあることに)


 苦笑するジェーン。


 しかし、まさか自分がその金髪少女から逆恨みを買っているなど、この時のジェーンはまだ知るよしもなかったのだった。


 おもむろに、街中の雑踏に目を向ける。


 遠くで、風に揺れる十字架の幻影が、ちらりと脳裏をよぎった。


 処刑エンド令嬢(レディ)灰島(はいじま)ナデシコ――

 新たな“同類”の存在を感じ取り、運命の歯車が静かに噛み合い始めた瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第23話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、終末の惨劇を見る」

をお送りします。


少しでも気になっていただけましたら、

ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ