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第21話 処刑エンド令嬢、紅茶飲みすぎ注意報

※前回の「処刑エンド令嬢レディ


ついに選挙が終了し、生徒会長に選出されたジェーン・グレイ。

これで薔薇色の学園生活が送れる、

そう思っていた彼女に待っていたのは、激務の日々でした

 生徒会室――


 書類の山に囲まれ、ジェーン・グレイ――灰島(はいじま)ナデシコは、机に突っ伏していた。


「……もう、無理ですわ……」


 椅子からずり落ちそうになりながら、うなだれる。


「ワタクシは……アフタヌーンティータイムを……満喫したいですわ……」


 呻くような声だった。


「そういえば、最初に提案した公約にもありましたもんね」


 向かいで書類を整理していた(こま)が、くすりと笑う。


「そうですわ……。紅茶とスコーンと、優雅な午後……それが、文明人のあるべき姿……」


「飲めばいいじゃない。仕事しながらでも」


 さらりと言ったのは、副会長の樹立(きりつ)だった。


「マグカップに紅茶入れて」


 その瞬間、ジェーンは勢いよく顔を上げた。


「それでは――残業中にエナドリをキメている社畜と、何が違うというんですの!?」


 びしぃ、と指を突きつける。


「優雅さが! 風情が! 品位が皆無ですわ!」


「……妙に生々しいわね」


 樹立(きりつ)は目を逸らした。


「はぁ……。公然とお茶を楽しむ時間を、どうにか作れないものかしら……」


 その時――。


「……!」


 ジェーンの脳裏に、電球が灯る。


「……週末ですわ」


「はい?」


「週末に、ここでアフタヌーンティーパーティーをすればいいのですわ!」


 勢いよく立ち上がる。


「お仕事は平日! 優雅は週末! 完璧な役割分担ですわ!」


「でも……」


 (こま)が首をかしげる。


「お茶するだけのために、学校を使わせてもらえるでしょうか……?」


 ぴたり。


「まあ、無理でしょうね」


「無理だと思います」


 樹立(きりつ)喜間締(きまじめ)が、ほぼ同時に言い切る。


 ジェーンは、その場で固まった。


「……」


 数秒の沈黙。


 やがて、にやりと微笑む。


「それなら――」


 ぱん、と手を打った。


「相談所を、開設すればよろしいのですわ!」


「……相談所?」


 三人が同時に聞き返す。


「ええ! 相談にいらしたお客様に、お茶を振る舞いながら、お話を伺うのです!」


 胸を張り、ジェーンは力説する。


「ワタクシはティータイムを満喫できますし、選挙で公言した“相談所”としての役割を果たすことにもなりますし――」


 にっこり、と満面の笑みで、


「オプティマルソリューション! 一石二鳥、ですわ!」


 そう断言。


「……なるほど」


 樹立(きりつ)は納得したようにうなずく。


「建前としては、完璧ね」


「建前とは何ですの、建前とは」


 こうして――


『生徒会長の週末相談所』は、

 毎週土曜日・午後一時から三時まで、生徒会室で開催されることになった。



 掲示板に貼り出された告知を、生徒たちは興味津々で眺めていた。


「へ〜、生徒会長が直々に相談に乗ってくれんの?」


「紅茶付き、って書いてあるよ」


「ちょっと、行ってみたいかも」


 その様子を、少し離れた場所から眺める人物がひとり。


「……ふぅん」


 担任の那波(なわ)だった。


 彼女は腕を組み、何か考え込むように告知を見つめていた。



 そして、迎えた土曜日――


 ジェーンの目論みでは、来るのはせいぜい、ひとりか二人。


 ゆったりと紅茶を飲みながら、世間話をするくらいの感覚で話を聞く。

 優雅で穏やかな午後。


 ……の、はずだった。


「……ん?」


 生徒会室の扉を開けた瞬間。


「………………おやぁ?」


 その前にできていた光景に、ジェーンは言葉を失った。


 ――行列。


 廊下の奥まで続く、相談待ちの列。


「な、なぜ、こんなに人が……?」


 震える声。


「ワタクシは、"よく当たると評判の街角占い師"ではありませんわよ!?」


 しかし、始めてしまった以上、後には引けない。



 相談の大半は――色恋沙汰だった。


「好きな人がいるんですけど……」


「告白するべきでしょうか……?」


「浮気された気がして……」


 ジェーンは、紅茶を(すす)りながら、きっぱりと言い切る。


「迷っている時点で、答えは半分出ていますわ」


「大切なのは、“どうなりたいか”です」


「相手を縛りたい恋は、いずれ自分も縛りますわよ」


 前世の記憶――

 王宮の愛憎、裏切り、信仰と執着。


 それらを踏まえた助言は、快刀乱麻を断つように的確だった。


 相談者は次々と満足そうに帰っていく。


 しかし、それと同時に――。


「……」


 ジェーンは、三段式ティースタンドの前で、そっとお腹を押さえた。


(……紅茶……飲みすぎましたわ……)


 お腹が、たぷたぷしている。


 そこへ、次の相談者が現れた。


「失礼します」


「……那波(なわ)先生?」


 担任だった。


「相談があるんですが」


「先生が、生徒に相談するんですの?」


 呆れ顔で返す。


「どうすれば……生徒に、舐められないようになりますか?」


「……」


 ジェーンは、深いため息をついた。


「それを、生徒に聞きますの?」



 こうして、その日の相談所は無事終了。


 ジェーンは、疲労よりも、飲みすぎによるダメージでぐったりしていた。


「……しばらく、紅茶は見たくありませんわ……」



 しかし、この相談所は瞬く間に校内で噂となり、かなりの好評を博す。


「また行きたい」


「すごく的確」


「紅茶おいしい」


 それを受けて、ジェーンはさらに一計を案じた。


「……外部にも、開放いたしましょう!」


 専用サイトを立ち上げ、宣伝用のチラシも作成。


 ――が。


「……」


 刷り上がったチラシを見て、(こま)が固まった。


「……会長」


「なんですの?」


「“週末”が……“終末”になっています」


 チラシには、こう書かれていた。


『”美少女”生徒会長の”終末”相談所』


 デザインも、ちゃっかり”美少女”の文言を付け足したのも、すべてジェーンがやったことである。


「……」


 一瞬の沈黙。


「ま、まあ」


 大量に刷り上がったチラシを前に、ジェーンは、胸を張った。


「世紀末感があって、これはこれで味がありますわね」


 それが、精一杯の強がりだった。



「なんか、いかがわしいお店の宣伝みたい」


 街中でチラシを配りの手伝いをしながら、覚子(さとこ)が呟く。


 隣で(こま)が、苦笑した。


「どうぞー」


 覚子(さとこ)が差し出したチラシを、ひとりの少女が受け取った。


 日本人離れした金髪。

 凛とした(たたず)まい。


「?」


 彼女は軽く首をかしげ、チラシを見る。


 その瞬間――ワナワナと、体を震わせた。


「……なるほど」


 低く、震える声。


「どうりで……誰も、ワタシの話を聞いてくれないと思ったら……」


 ぎゅっ、とチラシを握りつぶす。


「“終末”などと、不安を煽り……人心を惑わせる……異教徒……」


 顔を上げ、鋭い視線を向ける。


「……許せません!」


 敵意をむき出しに、叫んだ。


 その瞬間――

 ジェーンは、なぜか背筋が冷たくなるのを感じていた。



 処刑エンド令嬢・灰島(はいじま)ナデシコ――

 優雅なティータイムの裏で、新たな“火種”が静かに芽吹いた瞬間だった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第22話は、

「処刑エンド令嬢(レディ)、忍び寄る金色の影」

をお送りします。


少しでも気になっていただけましたら、

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