第20話 処刑エンド令嬢、薔薇色から灰色へ
※前回の「処刑エンド令嬢」
ついに生徒会長選挙当日を迎えたジェーン・グレイ。
不安と緊張に包まれる中、
推薦人の覚子は”自分の言葉”で彼女の魅力を語るのでした
講堂に、再び静寂が訪れた。
推薦人のスピーチが終わり、いよいよ立候補者本人による、最終演説の時間である。
まずは、樹立衛。
続いて、喜間締菜子。
二人とも、これまでの主張を端的にまとめ、堅実で揺るぎない未来像を語りきった。
拍手は大きく、安定感も申し分ない。
そして――
「最後に、一年一組。灰島ナデシコ候補」
その名が呼ばれた瞬間、講堂の空気が、わずかに張り詰める。
ジェーン・グレイ――灰島ナデシコは、ゆっくりと壇上に上がった。
マイクの前に立ち、一度、深く息を吸う。
「……みなさま」
静かな声だった。
「ワタクシは、未熟ですわ」
最終演説の第一声とは思えないその言葉に、ざわり、と空気が揺れる。
「判断を誤り、失敗し、皆さまにご迷惑をおかけしてしまうことも……きっと、あるでしょう」
正面を見据えたまま、言葉を続ける。
「ワタクシは――」
ぎゅっと、拳を握る。
「ワタクシは、完璧な会長にはなれません。ですが――みなさまと一緒に成長できる会長にはなれますわ」
視線が、客席全体をなぞる。
「ですから……どうか、みなさまも遠慮なさらず、どんどん、迷惑をかけてくださいませ」
一瞬、沈黙。
「ワタクシは、そのすべてを受け入れますわ」
声に、力がこもる。
「悩み、迷い、学びながら、皆さまが“ご自身で考え、ご自身で選べる”ように」
はっきりと、宣言する。
「ワタクシも共に悩み、学び、手助けをさせていただきます」
そして、最後に――
「自主と自立の精神を育む。それが、ワタクシの目指す生徒会ですわ」
深く、頭を下げた。
一拍の静寂のあと、講堂を満たす拍手喝采。
それは、これまでで一番大きなものだった。
⸻
最終演説が終わり、投票が始まった。
立候補者を除く全生徒は、それぞれの教室へ戻り、タブレット端末から投票を行う。
一方、講堂では――
集計結果が、巨大なスクリーンにリアルタイムで映し出されていた。
その様子は、各教室のテレビにも中継されており、そこで生徒たちは固唾を飲んで経過を見守っている。
樹立――七十票。
喜間締――六十八票。
灰島――六十二票。
票数は、拮抗しており、更新のたびにどよめきが起こる。
⸻
その頃――
校内を、ただひとりで歩く生徒がいた。
その生徒は――八塚見は、周囲から湧き起こる喧騒を背中に浴びながら、ゆったりとした足取りで下駄箱をあとにする。
迷い――
苛立ち――
様々な感情を抱えたまま、彼女はひとりで歩くのだった。
⸻
そして――
ついに、票数の更新がストップする。
映し出された最終結果は――
樹立 百八十票
喜間締 百八十票
灰島 百八十票
「……え?」
ざわっ、と講堂が揺れた。
三人、同数。
選挙管理委員が慌てて確認する。
「……おかしいですね。
出席者数と、投票数が……一票、合いません」
つまり――
まだひとり、投票を終えていない生徒がいる、ということだ。
⸻
校門の前まで来た八塚見は、そこでピタリと足を止める。
しばらくその場で静止していたが、おもむろにカバンの中から、タブレットを取り出した。
画面を見つめ、しばし、無言。
「……もう」
小さく、つぶやく。
「逃げてるなんて、言わせねぇから」
画面をタップし、再びタブレットをカバンにしまう。
そして――
今度は軽やかな足取りで、校門を後にするのだった。
⸻
講堂――
スクリーンが、再び更新される。
灰島――百八十一票。
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「……決まりました! 新しい生徒会長に選ばれたのは――」
司会の声が震える。
「灰島ナデシコ候補です!」
歓声と拍手が、爆発した。
ジェーンは、一瞬呆然とし――すぐに、我に返る。
樹立と喜間締が、歩み寄る。
「おめでとうございます、灰島さん」
「健闘を称えます、灰島さん」
「こちらこそ、たくさん勉強させていただきましたわ」
ライバルとして争った三人が、がっちりと固い握手を交わした。
それは、全力を尽くした者同士が互いを称え合う、感動のシーン。
(……やりましたわ)
しかしこの時、ジェーンの脳内では――
(ワタクシが、学園の女王)
(仕事は他の方に支持を出すだけで、部下の手柄は、すべてワタクシのもの)
(その間、ワタクシは優雅なティータイムを堪能)
(薔薇色の学園生活が始まるのですわ……!)
様々な妄想が駆け巡っていた。
その瞬間――
煩悩にまみれたジェーンのにやけ顔が、ばっちりとカメラに抜かれ、教室のテレビに映し出される。
「あーあ」
クラスメイトの当選に歓声が沸く教室の中で、ただひとり覚子だけがテレビを見上げ、呆れた口調で呟いた。
「……あのコ、碌でもないこと考えてるなぁ」
⸻
数日後――
生徒会室――
「なぜですの……?」
机に向かうジェーンは、書類の山に埋もれていた。
「上に立てば、楽ができると思っていましたのに……」
書類に目を通し、認可のサインをする。
同じことを何度繰り返しても、一向に終焉は見えない。
「なぜ、トップに立つものが、このような雑務をこなさなければいけないんですの……!?」
そこへ、さらに書類を積み上げる影。
「仕方ないでしょう。最終的な判断は、すべて生徒会長に委ねられてるんだから」
副会長――樹立が、にこやかに告げる。
「だ か ら、しっかり働いてくださいね、会長」
「ひぃ……鬼ですわぁ……」
涙目になるジェーン。
さらに追い打ちをかけるように、
「会長」
同じく副会長となった喜間締が、報告する。
「聖ヴァレリア女学院の生徒会の方が、近々ごあいさつに伺いたい、とのことです」
「ひょえぇぇぇ……」
絶望に沈むジェーンの肩に、そっと手が置かれる。
「大丈夫です」
書記となった駒が、優しく微笑む。
「私も、お手伝いしますから、一緒にがんばりましょう?」
「駒……」
そして――
「ああああぁぁぁぁ!!」
天を仰ぎ、絶叫。
「ワタクシの薔薇色の学園生活は……一体どこにあるんですの~~~ッ!!」
生徒会室に、今日も騒がしい声が響き渡るのだった。
⸻
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
生徒会長としての激務とともに、新たな学園生活が幕を開けた瞬間だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第21話は、
「処刑エンド令嬢、紅茶飲みすぎ注意報」
をお送りします。
少しでも気になっていただけましたら、
ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!




