第19話 処刑エンド令嬢、友の応援に感激する
※前回の「処刑エンド令嬢」
起死回生を図り討論会に臨んだジェーン・グレイ。
他の候補者が彼女を責め立てる中、
それでも彼女は決して相手を否定しなかったのでした
それから数日後――
逃げ場のない「審判の日」が、ついにやってきた。
全校生徒が一堂に会する午後の学園講堂は、以前の討論会以上の熱気に包まれている。
壇上には、マイクが一本。
少し後方に、立候補者三名と、それぞれの推薦人のための席が並んでいる。
長いようで短かった、生徒会長選挙戦――その最後の舞台。
ジェーン・グレイ――灰島ナデシコは、胸の奥がひりつくような緊張を感じながら、眼下を埋め尽くす生徒たちを見つめていた。
これが終われば、すべてが決まる。
司会役の選挙管理委員が、厳かに告げる。
「これより、生徒会長選挙・最終演説を行います。まずは、各候補者の推薦人による応援演説からです」
ざわり、と会場が静まった。
⸻
最初は、樹立衛。
そして、喜間締菜子。
それぞれの推薦人が登壇し、実績、安定、信頼――無難で、説得力のある言葉を並べていく。
拍手は起こる。
けれど、どこか予定調和だった。
そして――
「次は、一年一組。灰島ナデシコ候補の推薦人、南牧覚子さんです」
その名が呼ばれた瞬間、会場の視線が一斉に動いた。
覚子が、立ち上がる。
壇上へ向かう直前、彼女はふと足を止め、ジェーンの前に立った。
「ナデシコ」
いつも通りの、軽い声。
「正直さ、ここまでやるとは思ってなかったよ」
「覚子……」
ジェーンは、それ以上言葉を返せない。
覚子は、少しだけ照れたように笑った。
「すごいよ、ナデシコは」
それだけを言い残し、彼女は壇上へと上がっていった。
その後姿を見送りながら――ジェーンは、胸の奥を、きゅっと締めつけられる。
⸻
スポットライトを浴び、覚子はマイクの前に立つ。
手元には、一枚の原稿。
彼女はそれを開き、一度、目を通した。
……が。
すぐに、ぱたん、と閉じる。
「えーっと」
原稿を脇に置き、少し困ったように頭をかいた。
「最初はさ」
その一言で、会場の空気が変わった。
「正直、ただ面白そうだなって思っただけなんだよね」
ざわり。
「ナデシコが選挙に出るって聞いた時も、あー、なんかまた変なこと始めたなぁ、くらいで」
くすくす、と小さな笑いが漏れる。
「だってさ。あのコ、何をしでかすか分かんないじゃん?」
一拍、置いて。
「いつもハラハラさせられて。でも――なぜか目が離せなくて」
覚子は、少しだけ楽しそうに続けた。
「なんていうか……ジェットコースターに乗ってる感じ」
ここで、わざと間を取る。
「……まあ、ジェットコースター苦手な人は、ちょっとついていけないかもだけど」
どっと笑いが起きた。
その空気を受け止めてから、覚子は、声の調子を落とす。
「でもね」
真っ直ぐ、前を見る。
「最初は、ただのきまぐれだと思ってた。ナデシコが選挙に出たことも」
――けれど。
「違った」
言葉に、力が宿る。
「あのコは、真剣だった」
静まり返る会場。
「まっすぐで、ひたむきで、自分を偽らなくて」
ジェーンの姿が、脳裏に浮かぶ。
「それに……他人を、否定しなかった」
覚子は、はっきりと言った。
「だから、私は」
一歩、マイクに近づく。
「最後まで、ナデシコを信じたい」
視線が、壇上からジェーンへと向く。
「彼女の言葉を。彼女が発する、あの不思議なパワーを」
少し照れたように、肩をすくめる。
「……正直、どんな未来になるかは分かんない」
でも。
「それでも一緒に、乗ってみたいって思ったんだ」
深く、一礼。
「以上です」
⸻
一瞬の静寂。
そして――
割れるような拍手が、講堂を包んだ。
覚子は壇上を降り、元居た席に戻る。
そして、視線をまっすぐ前に据えたまま、
「次は、ナデシコの番だよ」
弾むような声で言った。
「覚子……」
ジェーンは、喉が詰まりそうになりながらも、
「信じてくださって、ありがとう……ですわ」
笑みと共に感謝の気持ちを伝え、視線を再び前へ――壇上へと向けるのだった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
運命を決する最終演説に向け、気持ちを新たにした瞬間だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第20話は、
「処刑エンド令嬢、薔薇色から灰色へ」
をお送りします。
少しでも気になっていただけましたら、
ブックマークやフォローなど、応援していただけると大変励みになります!




