第16話 処刑エンド令嬢、権力について語る
※前回の「処刑エンド令嬢」
生徒会長選挙への参戦を決意したジェーン・グレイ。
他の候補者が早々と立派な公約を掲げる中、
彼女が考えたものは、もはやただのワガママだったのでした
学園の廊下が、いつになくざわついていた。
中央に据えられた簡易マイク。その前に並ぶのは、生徒会長立候補者である三名――
高等部三年・樹立 衛、高等部二年・喜間締 菜子、そして一年の灰島ナデシコ。
彼女たちを囲むように、腕章を付けたマルチメディア部の生徒たちが取材体制を整えている。
「え~、それでは、生徒会長立候補者への合同インタビューを始めます」
周囲の生徒もその場で足を止め、カメラが回るころには人垣が形成されていた。
「まずは――樹立さん。今回、生徒会長に立候補した理由を、お聞かせください」
マイクを向けられた樹立は、背筋を正し、一拍置いてから口を開いた。
「私は、風紀委員として活動していた中で、最近の学園の規律の乱れを強く感じていました」
その声は落ち着いており、言葉に迷いがない。
「規律の乱れは、心の乱れ。放置すれば、学園生活そのものが損なわれます。だからこそ、生徒会長として風紀を立て直し、皆様が健やかに学べる環境を整えたい――それが理由です」
簡潔で、真っ当。
周囲からは「さすが」「委員長らしい」と小さな感嘆が漏れた。
「ありがとうございます。では次に、喜間締さん」
マイクを受け取った喜間締は、穏やかな表情でうなずく。
「私は、外部でのボランティア活動を通して、社会にはいまだ女性蔑視の因習が根強く残っていると痛感しました」
一瞬、廊下の空気が引き締まる。
「女性が本来の力を発揮できる社会を作る。その第一歩として、学園から“女性が主体的に運営する姿”を発信したい。それが、私が生徒会長を目指す理由です」
こちらもまた、実績に裏打ちされた明確な動機だった。
そして――
マイクが、ゆっくりとジェーン・グレイ――灰島ナデシコの前へと移動する。
(何を話す気なんだろう……)
少し離れた場所で見守る駒と覚子は、思わず息を詰めた。
「では、灰島ナデシコさん。立候補理由をお願いします」
ジェーンは、優雅な所作で顎に手を当て――そして、にこりと微笑んだ。
「権力を得るため、ですわ」
「……」
廊下が、瞬時にして凍り付いた。
「うあぁ、やっちまったぁ……」
推薦人である覚子は、その場で頭を抱えた。
「えっと……それは、具体的にはどういうことでしょうか?」
インタビュアーが必死に言葉を繋ぐ。
するとジェーンは、意外なほど落ち着いた声で続けた。
「人の上に立ち、組織の運営を担う責任者となる。学園生活の向上をお手伝いすることで、将来に向けた社会勉強ができますでしょう?」
駒と覚子は、思わず顔を見合わせた。
(……あれ? 意外と、まとも……?)
「自身のため、学園のため、またとないチャンスだと思いましたの。それが理由ですわ」
その答えに、二人はほっと胸をなで下ろす。
――が。
「なるほど。灰島さんの言う”権力“とは、生徒会運営を円滑に行うための“手段”ということですね?」
その問いに、ジェーンはフッと不敵な笑みを浮かべ、
「いいえ」
小さくかぶりを振る。
嫌な予感が、二人の脳裏をよぎる。
「権力とは、人を支配するために不可欠な要素ですわ。権力を手中に収め、ワタクシはいずれ生徒会のみならず、学園全体を支配下に――」
「い、以上でインタビューを終了しますっ!!」
インタビュアーが半ば叫ぶように宣言し、マイクを引っ込めた。
周囲は一気に騒然。
「あーあ……やっちゃったなぁ……」
覚子は、二度目の頭抱えポーズに入った。
***
翌日――
掲示板には、各候補者のインタビュー記事が貼り出されていた。
樹立――『秩序を重んじる堅実派』
喜間締――『社会意識の高い理想主義者』
そして、ナデシコ――
『一年生候補、権力志向発言で物議』
……やや、というより、かなりネガティブである。
***
放課後――
一年一組の教室――
いつもの三人が、机を囲んでいた。
「第一印象は最悪だろうなぁ……」
覚子が机に突っ伏す。
「ワタクシは、正直な気持ちを申し上げただけですわ」
当の本人は、けろりとしている。
「まあ……こうなるんじゃないか、って薄々感じてたけどさ」
苦笑する覚子。
駒は腕を組み、冷静に言った。
「一年生で、しかも実績がない。樹立さんや喜間締さんと比べると、かなり不利です」
「だからこそ、まずはイメージアップだね。地道に、コツコツと、ね?」
覚子の言葉に、ジェーンと駒はうなずいた。
***
翌日――
職員室――
「先生、失礼いたしますわ」
担任の那波の前に現れたジェーンは、軽く会釈をする。
「ああ、灰島さん。選挙活動お疲れ様です」
那波は、書類整理をしていた手を止め、
「まさか、私のクラスから生徒会長に立候補する人が出るとは思いませんでした。大変でしょうけど、がんばってくださいね」
穏やかな笑みを浮かべて言う。
「ありがとうございます、ですわ」
ジェーンはペコリとお辞儀をすると同時に、一通の封筒を那波の前に差し出し、
「ご融通のほど、よろしくお願い致しますわ」
小声でそう言い残すと、颯爽と部屋を去っていく。
「……?」
その後姿を見送った那波は、首をかしげ、手渡された封筒を裏返した。
そこには、
『賄賂』
ハッキリと、そう書かれていた。
「……は?」
思わず目が点になる。
恐る恐る中を確認すると、そこには一万円札が。
「ひっ……!」
ガタガタと震え出す那波。
その瞬間。
ポン、と肩を叩かれた。
「那波先生。どういうことか、ちゃんと説明してもらえますか?」
振り返ると、そこには氷の微笑を浮かべた教頭が立っていた。
「ひゃい……」
那波は、涙目でうなずくしかなかった。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
初動を完全に失敗した彼女が、ついに悪事へと足を踏み入れた瞬間だった。
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第17話は、
「処刑エンド令嬢、情緒不安定になる」
をお送りします。
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