第15話 処刑エンド令嬢、その野望は隠せない
※前回の「処刑エンド令嬢」
廊下で突然声を掛けられたジェーン・グレイ。
喜間締と名乗る少女は水泳廃止を訴えるものの、
結果、それがジェーンの選挙戦立候補を決定づけたのでした
生徒会選挙期間――。
その開始を告げる掲示が張り出されるや否や、学園内は一気にざわめき始めた。
高等部三年、樹立 衛。
高等部二年、喜間締 菜子。
二人は早々に立候補を表明し、それぞれの選挙公約も公開された。
そして――放課後。
一年一組の教室。
机を寄せたジェーン、駒、覚子の三人は、掲示板から写してきた公約の写真をスマホで確認していた。
「……うげぇ」
最初に声を漏らしたのは、覚子だった。
「これは……また、随分と厳格ですわね」
ジェーンも眉をひそめる。
まずは、樹立の公約。
・スマホ持ち込み禁止
・放課後の立ち寄り禁止
・登下校時の飲食禁止
・保護者不在での娯楽施設利用禁止
「軍隊か修道院か、って感じだね……」
覚子が乾いた笑いを浮かべる。
「規律を重んじるのは結構ですが……ここまで締め付ける必要がありますの?」
うんざり、といった感じで肩をすくめるジェーン。
「次が、喜間締さんの公約です」
駒が画面を切り替える。
・制服をスカート・ズボンの選択制にする
・水泳の授業を廃止
・監視カメラの増設
・毎月ボランティア活動を実施
「……監視カメラ?」
ジェーンが目を細めた。
「まあ、危機管理自体は悪いことじゃないと思うけど……。あんまり監視されるのも、気持ちいいものじゃないよね」
覚子が肩をすくめる。
「どっちも極端すぎて、正直ついていけないよ」
「まったくですわ」
ジェーンは腕を組み、ふん、と鼻を鳴らした。
「それで」
覚子がちらりとジェーンを見る。
「ナデシコは、公約決まったの?」
「オフコース。もちろんですわ!」
ジェーンは自信満々に紙を取り出し、
「昨晩、ほとんど眠らずに考えた渾身の傑作、とくとご覧あそばせっ!」
バン、と机の上に叩きつけるように広げた。
「どれどれ……」
紙に目を向ける二人。
・生徒会を君主制にする
・体育の授業を廃止する
・アフタヌーンティータイムを設ける
・制服をドレスに変える
「…………」
一瞬の沈黙。
「…………えっと」
覚子が目をこすった。
「ほとんど寝ずに考えた結果が、これ?」
「え?」
ジェーンはきょとんとする。
「何か問題でも?」
「問題しかないよっ!」
覚子は、呆れたようにため息をついた。
「これじゃ、選挙管理委員が受け付けてくれないよ」
「ホワィ! なぜですの!?」
心底納得がいかない、という顔。
「確かにさ」
覚子は指を立て、説明する。
「公約なんて、実際には学校の予算とか規則で、ほとんど実現できないよ。でもさ……それでも、ひとつくらいは“できそう”なものがないと、誰も付いてきてくれないよ?」
「むぅ……」
ジェーンは頬を膨らませ、不満を隠そうともしない。
その時。
「では……」
駒がそっとペンを取り、公約を書き直し始めた。
そして、差し出す。
・生徒会の自治権を拡大する
・真夏の体育の見直し
・昼休み時間を五分拡大する
・制服のデザインを変える
「……ほう」
ジェーンが紙を見る。
「うん」
覚子がうなずいた。
「これだけマイルドなら大丈夫。現実的だし、きっとみんな共感してくれるよ」
「……まあ」
ジェーンは腕を組み、少し考え込む。
「少々、生温い気もしますが……」
だが、ふっと表情を切り替えた。
「よろしいでしょう!」
勢いよく立ち上がる。
「では、この公約で参りましょう!」
――正式な立候補を通達するために。
***
選挙管理委員会が設置された教室前の廊下。
すでに掲示されている公約を、腕を組んで眺めている生徒がいた。
八塚見である。
「げぇ……マジかよ、これ」
樹立と喜間締の公約を見比べ、露骨に顔をしかめた。
その時。
「――あら?」
背後から聞き覚えのある声。
「こんなところでお会いするなんて、奇遇ですわね」
振り向くと、ジェーンたちが立っていた。
「チッ……」
八塚見は舌打ちし、顔を背ける。
だが、不意に――
ジェーンが手にしている紙が目に入った。
「……おい」
即座に向き直る。
「まさか、アンタ……生徒会長に立候補する気かよ?」
「そうですわよ?」
ジェーンはにっこりと微笑む。
「当然、アナタもこのワタクシに清き一票を――」
「誰が」
言い終わるよりも早い、芸術的な拒絶だった。
八塚見はそれだけ言い捨て、足早に立ち去る。
「……なんなんですの、あの人!」
ジェーンは頬をぷくっと膨らませる。
「まあまあ」
覚子がなだめるように言った。
「選挙なんて、こういうことの連続だよ」
***
選挙管理委員会の部屋から出てきた三人。
「これで……」
駒がほっと息をつく。
「取りあえず、立候補はできましたね」
「ええ」
ジェーンは満足げにうなずいた。
「それで……これから何をしたらいいのかしら?」
「まずは――」
覚子が顎に指をそえ、答える。
「選挙ポスター用の写真撮影かなぁ」
「写真ですわね」
ジェーンは力強くうなずくと、
「アイシー。分かりましたわ! すぐに最高の写真をご用意いたしますわよーーーっ!!」
そう言い残し、颯爽と廊下を去っていく。
「……ホントに大丈夫かなぁ?」
その後姿を見送る駒と覚子の胸に、一抹の不安がよぎる。
***
翌朝――
一年一組の教室。
「写真、撮ってきましたわよ」
ジェーンは満面の笑みで、覚子にスマホを差し出した。
「どれどれ……」
画面に映っていたのは――
中世ヨーロッパの貴族衣装に身を包み――
玉座風の椅子に腰掛け――
羽扇を片手に高笑いをするジェーンの姿。
「……」
覚子は、しばし無言で画面を見つめ、ポツリとひと言。
「……何に出るつもり?」
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
意を決して臨んだ生徒会選挙は、早くも波乱の様相を呈するのだった。
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第16話は、
「処刑エンド令嬢、権力について語る」
をお送りします。
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