第13話 処刑エンド令嬢、風紀委員に目を付けられる
※前回の「処刑エンド令嬢」
沈黙を経て、ついに答えを得たジェーン・グレイ。
駒姫――駒形姫乃――
同じ”悲劇”を背負った仲間同士、共に今世を歩もうと誓い合ったのでした
樹立衛
――――
昼休み――
薄暑の陽射しが、校舎の屋上をやさしく照らしていた。
フェンス越しに見える空は高く、風はまだ心地よい。
その一角で、三人の少女が並んで腰を下ろし、昼食を広げていた。
「いや〜、屋上で食べるお昼ゴハンは、三割増しで美味しく感じるよね~」
覚子がそう言って、コンビニの菓子パンを頬張る。
「確かに……気持ちが良いです」
駒――駒形姫乃は行儀よく膝をそろえ、手作りらしい弁当箱を開いていた。
そして、ジェーン・グレイ――灰島ナデシコはというと、いつものように、母が作ってくれた大好物の肉じゃがを優雅に口に運んでいる。
そんな何気ない昼食の最中、話題は自然と成績の話になった。
「へ~、駒形ちゃんって、国語が得意なんだ~」
「あ……はい。特に古典は、わりと……」
控えめに答える駒に、覚子が目を丸くする。
「体育会系って聞いてたけど、意外と古風なんだね」
「古風……でしょうか?」
「うん、見た目もお姫さまっぽいし」
それを聞いて、ジェーンがうなずいた。
「アイフィールユー。分かりますわ。日本語は、行間やニュアンスが難しくて大変ですのに……それをあそこまで理解なさるなんて、立派ですわ」
「ナデシコ……」
覚子が、くすっと笑う。
「今の言い方、まるで日本人じゃないみたいだね」
「だってワタクシは――あ、いいえ……。ちょっと変でしたかしらね」
思わず前世に関して口が滑りかけたジェーンは、咳払いをしてごまかす。
「で、でも……ジェーンさんは英語がお得意じゃないですか?」
フォローするように、駒が言った。
「私、どうも……伴天連の言葉は苦手で……」
「バテレンって」
覚子が思わず噴き出す。
「駒形ちゃん、いつの時代の人なのさ~? ホントにお姫様みた~い!」
痛いところを突かれ、静止してしてしまう駒。
「……ちょ、ちょっと駒! 足が開いてらしてよっ!」
慌てて足元を指さすジェーン。
確かに、きちんと揃えていたはずの膝は、いつの間にか離れていた。
「あ、あれ~、本当ですね。あはは」
「姫とは程遠い粗忽者ですわね。オホホホホ」
芝居がかった口調で笑い合う二人を見て、
「――ん~?」
覚子は、大きく首をかしげる。
――と、その時だった。
「――校則で、夜九時以降は保護者同伴でない外出は禁止されています」
屋上の反対側から、ぴんと張った声が響いた。
眼鏡をかけた女子生徒が、ひとりの生徒を前に腕を組み、語気を強めて言う。
「それなのに、あなたが深夜にコンビニにいたと、ご近所から情報が寄せられました。本当のことですか?」
「す、すみません……」
その生徒は、しゅん、と委縮してしまう。
「両親が夜遅くに体調を崩してしまい、何か栄養があるものを、と思って――」
「理由は関係ありません!」
キッパリと遮断。
「あなたが校則を破り、地域の方からご注意を受けてしまった。その結果こそが重大なのです」
「……本当に、すみませんでした!」
もはや取りつく島もなく、その生徒は深々と腰を折って謝罪するのだった。
「……以後、このようなことのないように」
眼鏡の女生徒は、ため息と共に告げると、踵を返し――
ふと、ジェーンたちと目が合った。
次の瞬間。
つかつかと、こちらへ歩み寄ってくる。
「……誰ですの?」
ジェーンが小声で訊ねる。
「確か、高等部三年の樹立衛先輩ですよ」
駒が答える。
「風紀委員長で……超が付くほどの堅物だよ」
覚子の補足を受けて改めて目を向けると、彼女のブラウスは皺ひとつなく、スカートのプリーツにはひとつの乱れもなかった。
そして、樹立の足はジェーンの前でピタリと止まった。
「そこのあなた」
くいっ、眼鏡を上げ、その下から冷たい視線を向ける。
「ずいぶん、派手な髪型をしているわね?」
瞬間、空気が、ぴんと張りつめる。
だが、ジェーンは一歩も引かなかった。
「“派手な髪型にしてはいけない”、という校則は存在しないはずですが?」
きっぱり。
「規則にないことを、咎められる理由はございませんわ」
樹立は、ぴくり、と眉をひそめる。
「規則に書いてなければ、何をしてもいい――そういう考え方は、危険よ」
一歩、前へ。
「物事には限度というものがあるの。目立ちすぎるあなたの髪型は、周囲に悪影響を及ぼしかねません」
「“可能性があるから排除する”」
ジェーンは、間髪入れずに返した。
「それでしたら、そこら中を走っている車も、”事故を起こす可能性がある”以上、すぐに排除すべきですわね」
「……!」
「危険“かもしれない”という理由で規制されるのなら、世界はがんじがらめになって、身動きが取れなくなりますわ」
一瞬、周囲の空気が凍る。
樹立は、静かに息を吸った。
「私は……あなたのためを思って言っているの」
低く、しかし断定的に。
「悪目立ちは、内申点に響く。内申点を落とせば、あなたの将来のためにはならない。後悔してからでは、遅いのよ」
ジェーンは、少しだけ微笑んだ。
「ご忠告、大変痛み入りますわ」
そして、はっきりと。
「ですが――アナタに、ワタクシの将来を心配される筋合いはございませんのよ」
数秒の沈黙。
やがて、樹立はひとつ息を吐き出し、踵を返した。
「……後悔しても、知らないから」
そう言い残して、屋上を去っていく。
その姿が完全に見えなくなったところで、ジェーンは肩の力を抜いた。
「……なんだか、オカンみたいな方でしたわね」
「確かに……」
駒も、苦笑しながらうなずく。
「風紀を守るにしても、ちょっと踏み込みすぎな気がしないでもないです」
「でもさ」
覚子が、意味ありげに言った。
「ナデシコ、大丈夫なの?」
「何がですの?」
「センパイ――今度の生徒会選挙で、会長の座を狙ってる、って噂だよ?」
「……生徒会?」
ジェーンは、きょとんと首をかしげる。
すると、駒が丁寧に説明した。
「生徒会は、学校生活の改善を図るための自治的な組織で……生徒会長は、その頭目です」
「アイシー。なるほど……」
ジェーンは腕を組み、少し考え込む。
「生徒会が元老院だとしたら……そのトップということは……」
ぱっと顔を上げる。
「さしずめ、執政官といったところでしょうか」
そして、次の瞬間。
「――それではっ!」
思わず立ち上がり、
「もし、あの方が生徒会長とやらになったら……ワタクシは、あの方に傅かなければならないのではっ!?」
顔面蒼白となるジェーン。
「頭目だの、執政官だの……」
覚子は首をかしげた。
「キミたち、ホントに令和の女の子?」
乾いた風が、屋上を吹き抜ける。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
次なる戦場が、彼女を誘おうと手を伸ばした瞬間であった。
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第14話は、
「処刑エンド令嬢、詐欺未遂に遭う」
をお送りします。
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