第12話 処刑エンド令嬢、奇跡のような、この出会い
※前回の「処刑エンド令嬢」
図書館でエゴサをしていたジェーン・グレイ。
そこで駒形姫乃と再会し、彼女と会話をしていく内に、
二人の共通点をたくさん発見するのでした
駒 = 駒形姫乃
――――
――沈黙。
図書館の時計が、秒を刻む音だけがかすかに聞こえる。
ほんの数秒だったのか。
それとも、数分が過ぎたのか。
張り詰めた空気の中では、その区別すら曖昧だった。
やがて――
「……どうして……それを……?」
駒形が、絞り出すように口を開いた。
声は震えていたが、逃げようとはしていない。
真正面から、ジェーンを見つめている。
その視線を受け止め、ジェーンは小さく息を吐いた。
――よかった。
否定されなかったことに、胸の奥で張りつめていた糸が、ふっと緩む。
「それでは……」
ジェーンは、背筋を伸ばした。
そして、静かに、だがはっきりと告げる。
「改めて名乗らせていただきますわ」
一拍。
「ワタクシの本当の名は、ジェーン・グレイ」
鳶色の瞳が、わずかに揺れる。
「かつてイングランドにて女王として即位いたしましたが……その後、処刑され」
言葉を選びながら、続ける。
「この、灰島ナデシコという少女の体に、転生した者ですわ」
その瞬間。
「……っ!」
駒形は、思わず立ち上がっていた。
椅子が、かすかに音を立てる。
「な、何ということでしょう……」
口元を押さえ、ひとつ、深く深呼吸。
そして――
彼女は、決意したように、ジェーンを見つめ返した。
「……ご推察のとおりです」
背筋を正し、静かに語り出す。
「私は、戦国乱世の時代に、最上家の娘として生を受け」
一瞬、目を伏せて。
「“駒”と呼ばれていた娘……」
そして、まっすぐに顔を上げる。
「私もまた、処刑され……気づけば、事故に遭って生死の境を彷徨っていた駒形姫乃という娘の体に、転生しておりました」
「……やはり……」
二人の視線が、絡み合う。
疑念は、完全に消え去っていた。
――ここにいるのは、同じ運命を辿った者同士。
それから、二人は自然と席に腰を下ろした。
声を抑えながら、互いの前世を語り合う。
ジェーンは語る。
テューダー朝の王位継承争い――
わずか九日間の即位――
そして、反逆者としての裁き――
駒形は語る。
最上家に生まれたこと――
豊臣政権の意向による婚約――
そして、理不尽な処刑――
「書物では……」
ジェーンが、苦笑いを浮かべる。
「ワタクシたち、死に際しても“穏やかだった”と書かれておりますわね」
「……ええ」
駒形も、小さくうなずく。
だが――
「実際は……」
ジェーンの声が、わずかに揺れた。
「ワタクシ、泣き叫びましたし、命乞いまでいたしましたわ」
「……」
「死にたくない、と……みっともなく……」
すると、駒形は、そっと言った。
「私も、同じです」
視線を落としながら。
「『せめて最後に、父に会わせてください』と……涙を流して、懇願しました」
しばしの沈黙。
だが、それは痛みを共有するための、温かな沈黙だった。
「……今世でのことも、似ておりますわね」
ジェーンが話題を変える。
「アナタもワタクシも、事故に遭った少女の体に転生した」
「はい」
ジェーンは天井を見上げ、静かに語る。
「ナデシコは、建設現場の資材落下事故に巻き込まれたそうですわ」
駒形も、ゆっくりと口を開く。
「姫乃は、歩道に暴走車が突っ込んできて……」
「轢かれてしまったのですね……」
ため息と共に、頭を垂れるジェーン。
「後方跳躍で避けました」
「……はぁぁっ!?」
予想だにしなかった駒形の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げる。
「ですが、着地した先が階段で……バランスを崩して、そのまま下まで……落ちたそうです」
「……目撃者談、ですわね」
「ええ」
二人は、同時に小さく笑った。
駒形は、続ける。
「死の間際……私は、願いました」
視線を遠くに向けて。
「もし、生まれ変われるなら……」
そして、静かに。
「普通の娘として、穏やかに生きたい、と」
その言葉に、ジェーンは息を呑む。
「……駒形さん」
声を落として、訊ねる。
「その時……不思議な声を、聞きませんでした?」
「……!」
駒形の瞳が、大きく見開かれる。
「……聞きました。『その願い、しかと聞き届けました』、と」
それは、ジェーンが薄れゆく意識の中で聞いた言葉と、全く同じだ。
「とても、優しくて……けれど、どこか気まぐれな声でした」
ジェーンは、ゆっくりとうなずいた。
「……ワタクシも、ですわ」
二人は顔を見合わせ、そして――
笑った。
遠い昔、遠い場所に生まれ、儚く散った二人の少女が、令和の日本という同じ時、同じ場所で出会う。
それは、不思議な縁に導かれた、奇跡のような巡り合わせ――
ジェーンは、そっと手を差し出す。
「……改めまして、駒」
前世での名を呼ばれ、駒形は一瞬驚いたあと、その手をそっと取った。
二人の手が、固く握られる。
「同じ、処刑された前世を持ち、悲劇の仮面をまとった者同士……」
ジェーンが言う。
「今世で――令和の日本で共に歩んでまいりましょう」
「はい……ジェーンさん!」
駒形は――駒は、嬉しそうにうなずいた。
処刑エンド令嬢・灰島ナデシコ――
奇跡の出会いが友情を結び、新たな運命を紡ぎ始めた瞬間だった。
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第13話は、
「処刑エンド令嬢、風紀委員に目を付けられる」
をお送りします。
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