"番茄酱"(前編)
「えっ、これ………」
僕の事じゃん、と言いたかったが、言葉が出て来ない
窓の外では、月が登り始めて居た
この打ち捨てられた山小屋は、僕たちの秘密基地だ
具体的にはいつと決めては居ないが、僕たちは、たまにこの廃屋に集まって、二人で色々な事を話して過ごす
種族こそ違ったが、歳も近いせいか僕たちは直ぐに打ち解けたし、仲が良かった
君は、僕が吸血鬼である事を知っている
最初にそう打ち明けたからだ
ところが、君が一人で来た時に小屋でひっそりと書いていたらしき帳面には……「君自身の投影みたいな少年と、吸血鬼の恋愛物語」が描かれて居た
視せたいものでは無かったらしく、帳面は廃屋の中の机と壁の間に上手に隠されて居た
僕ですら、偶然でなければ視付けられ無かった程だ
粗筋としては、こうだ
人間の少年が幾度も怪物に襲われるが、その度に吸血鬼の少年から生命を救われる
吸血鬼の少年が怪物をけしかけて居た事が明らかになるが、人間の少年はそれが『自分の気を引く為に、自らの家族である怪物達を悪者に仕立て上げてまで行っていた行為だった』と知る
人間の少年は、自分も吸血鬼の少年も深い執着的な恋情を持っていたという事に気が付き、二人は結ばれていく
読み終えたあと、僕は思考がまとまらず、帳面を抱いたまま小屋の中を歩き回っていた
これが君の願望なのだろうか
もちろん、種族を超えた恋と言うのは聞いた事はある
婚姻に至った実例すら、過去には存在したと言われている
しかし───僕は思った
僕が男だと解らなかったとは考え難いだろう
そんな事が有るのだろうか
僕は、これまでの君の態度を思い出して居た
生まれ以外はなんという事は無い、同年代の友人のつもりで僕は君と接して居た
君もそうである様に、僕には思えて居たが───
小屋の扉が開いた
少し冷えた夜の風と月の光、そしてそれらと共に部屋に入って来たのは、他ならぬ君自身だった
「─────っ!!」
青褪め過ぎて白くなった顔で、君は声にならない声を上げて動揺を視せる
理由が、僕のいま抱きかかえている帳面である事は明白だった




